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「SHE SAID シー・セッド その名を暴け」 徹底的にドキュメンタリー風描写に徹したハリウッドの大きな性犯罪を暴く硬派な力作

先日、この映画を観に行きました。

「SHE SAID シー・セッド その名を暴け」

あらすじ等はこちら


この映画は数年前に世界的に大きな話題となった

ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが長年にわたってとんでもない性犯罪行為を繰り返していたことについて、告発記事を発表したNew York Timesの二人の女性記者の取材過程に焦点を当てた社会派作品です。

この作品、海外版の予告が出た時から楽しみにしていました!映画界にとどまらず、世界的に「性被害に屈してはいけない」という世の流れを起こした大きな出来事を

(こちらはご本人達)

キャリー・マリガンとゾーイ・カザンという二人の女優がその記事を書いた記者を演じるというだけで期待がとても大きかった作品です。

そしてその期待に沿うような力作でした!早速レビューしていきます!

※ここから先は思いっきりネタバレしてますので、結末を知りたくない方はご注意ください。

※この映画には性暴力の描写があります。鑑賞にはご注意ください。

(海外版のこのポスターも凄く意味が込められているよね)


まず、先にこの映画で個人的に感じたウィークポイントから先に少しだけ書いていきますね。


この映画なんですけど、まず「ハーヴェイ・ワインスタインがどんな人だったか」という事をどこまで知っているかで、結構映画の把握度や重みが違ってくるような気がするのですが、タイトルにも書いたとおり、敢えてだと思うのですがこの作品はまるでドキュメンタリーのように事実描写に徹したような作風になっているので、背景をしっかりと説明まではしないところが「いいところにもなってるけど、ちょっと分かりにくい点にもなっているな」と思いました。

ハーヴェイ・ワインスタインはただの映画プロデューサーではなくて。私ですら顔と名前を知ってるくらいの超大物。監督ならまだしもプロデューサーでそういう人はなかなかいません。非常に珍しい存在だったんです。

そこら辺をもうちょっと映画でも表現してもよかったんじゃないかな、と思いました。めちゃくちゃ大事なポイントなので。

そして全体的に凄く堅実で誠実な作品だとは思うのですが、それゆえ感情を揺さぶるような描写は少なめで、 せっかく映画なのだから「たとえ批判を浴びたとしても、もう少し観ている者に訴えるような作品でも良かったような気がする」と思いました。凄く硬派な作品だし内容としてはとても憤りを覚える内容ですが、描き方はとても冷静でした。

そして、逆に背景を知っている人からすると、っていうか私だけかもですが「あれ?」と思ったのが

このワインスタインの暴露記事はNYTだけが挙げたんじゃなかったはずで。あのウッディ・アレン(ということになっている)とミア・ファローの息子、ローナン・ファローもNYTの記事の5日後にもっと強めの告発記事をアップしていて、そちらの方がさらに強烈だった記憶が。

それについてはほんと1シーンくらいさらっと「ローナン・ファローも記事準備しているらしいわよ」ぐらいで終わってたんですけど、「それだけじゃなかったんでは?」と思えてしまいました。

先にも書いたのですが、恐らく扱っているテーマもあっての事だと思うのですが、凄く冷静な描写にすることで事の重さや辛さを表現しようとしているところがあって。
ただどうしても個人的は

このカトリック系教会の子供に対する性暴力を告発した地方新聞「ボストン・グローブ」の記者を描いた「スポットライト」の方が、映画としても凄く良くできた傑作なので、「She Said」の方は少し描き方が弱い感じはしてしまいました。逆に「スポットライト」がどれだけ凄い映画なのかをまた感じまして、見返したいと思いました。

「スポットライト」はまだご覧になっていない方がいらっしゃったら、ぜひ観てもらえると嬉しいです。この「she said」は「スポットライト」がなかったらもしかしたら制作されていなかったかもしれません。

とはいえ、この「She Said」もとても力作で、紹介したい良かったポイントがたくさんあります!

まずは、主演女優二人の演技、キャリー・マリガンとゾーイ・カザン。この二人は期待どおりの素晴らしい演技でした!

キャリー・マリガンは前作の「プロミシング~」から続く性暴力についての映画での主演。キャリー・マリガンの夫で私も大好きなバンド、マムフォード&サンズのボーカル、マーカス・マムフォードが少年時代に性被害にあっていたことを昨年公表して、私もその発表を読んで胸が痛かったです。そういう経緯もあり、「恐らくキャリー自身が信念を持って作品を選んでいるんだろうな」と感じます。
今作でもトランプの女性に対する性加害記事を書いたものの大統領に当選してしまったことへの世間への挫折感や自身の産後の鬱状態に苦しみながら、懸命にワインスタインの記事に打ち込む姿を熱演しています。

そしてゾーイ・カザンもまた信念の人で、祖父がエリア・カザン。ゾーイ自身も映画の脚本などを手掛ける気骨のある女優。この映画では自分の持ち味の可愛らしさと、記者としてだけでなく、やはり子育てしながら働く母としての側面もとても上手く演じていたと思いました。

ただ、個人的に最も驚きかつ感動したのが

サマンサ・モートン!

凄く久しぶりに彼女を見かけて驚きました。出演しているのを知らなかったんです。取材対象の一人を演じていますが、とてもいい演技で彼女のシーンで本当に泣きそうになりました。凄く訴えてくるものがあって。しばらく見かけてなかったのですが、またいろんな作品で観れることを願っています。

またこのワインスタインから実際に被害にあった有名な女優の一人、アシュレイ・ジャッドは本人役で出演。凄いですね。どれほど勇気がいることかと。

グイネス・パルトロウも声のみですが、本人役で出演しています。

そしてミラマックス社で実際に働いていた女性たちの凄まじい被害内容の詳細。直接的な表現を避けてはいますが、とても生々しいです。

恐らく本物ではないかと思われる、ある女性が無理やり誘い込まれそうになる肉声テープも映画で用いているシーンもあります。本当にぞっとしますね。このあたりの事実描写は遠慮なくしているので、どれだけ酷い被害だったかがリアルに感じられました。

この映画の制作は「PLAN B」。あのブラット・ピットの制作会社です。ブラット・ピットについては、

私が以前連載を書いた際に取り上げているのですが、ブラット・ピットはキャリアの早いうちから自分でこの制作会社を立ち上げ、ワインスタインとオスカーを争い実際に勝ち取ったりしているので、「ワインスタインに対してはかなり思うところがあったのかな」と。

逮捕され二度と刑務所からは出てこないだろうとはいえ、「ワインスタインの影響力はまだハリウッドでも根深そうだ」とイチ映画ファンでも予測が立ちます。凄い権力者だったので。そんな彼をここまで糾弾するような内容の映画は、普段拮抗していたような会社でないと作れないと思うのですが、さすがPLAN B。
グイネスが被害にあった時に、当時の恋人だったブラット・ピットは激怒していたそうなので、この映画の制作も納得です。

余談ですが「PLAN B」は売却されるようなので、ブラットピットはまた新しい会社を立ち上げるのか、気になっています。

この作品、監督も脚本も女性が手掛けています。「男性なら描けなかった」と言うつもりは全くないですが、女性だからこそ、ここまで冷静にかつ直接的な表現をしないでも鳥肌が立つほど「怖い」と思わせるシーンや吐き気がするようなシーンがあったりしたのかな、と思います。少しでも似たような被害にあった方なら、すぐにでもその恐怖を思い出せそうです。

この映画で描きたいのはワインスタインの悪行だけではなく、そんな人間を守るような法律の悪用や社会システムが存在すること、被害にあった女性たちがどれだけ口を封じられ、生き方まで踏みにじられ、そのことについて声を上げることが大変かということ。

そこに切り込んだ女性記者たちの信念、丹念な取材力。それを支える上司や家族。

なにより、被害にあった女性たちの苦しみを、しっかりと描いた作品だと思います。この記事がアップされた後にワインスタインに被害にあったことを告発したその人数にすらびっくりしますし、世界中で起きた「#MeToo」のムーブメントも考えると、映画界だけでないどころか自分の属する会社や組織ですら「いつ何か起きてもおかしくない」とすら思わされます。

私も観てよかったですし、いろんな人に観てほしいと思います。
気になった方はぜひ観てみてください。

おまけ

最後にちょっとだけ軽い話。この映画、ワーママのお仕事ルック映画としても楽しめました。キャリー・マリガンみたいにカッコ良くはひっくり返ってもなれないけどね!!(笑)

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