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【続編:3/18】米国デジタルヘルススタートアップ"Hippocratic AI"のシリーズA資金調達!

前回、以下の記事にてHippocratic AIの資金調達のニュースと同社の概要をまとめてみました。今回はその続編です。

American Hospital Associationは、現在の医療スタッフ不足を国家としての緊急事態であると考えています。また、Department of Health and Human Servicesの調査では、驚くべきことに16.7%の病院が深刻な人材不足であると捉えています。これは、患者さんの安全上の最大の懸念事項となり、医療崩壊への道を開きかねません。この課題解決に向けて活動しているのがHippocratic AIが開発している生成系AIによる対話型AI医療スタッフソフトウェアです。

研究開発・製品性能の詳細や、経営陣が抱えていると思われるチャレンジについて深堀りしてみようと思います。


About "Hippocratic AI"(前回記事の振り返り)

・国:米国
・創立年:2023年
・資金調達ラウンド:シリーズA
・主な投資家:General Catalyst (seed and series Aに参加), Andreessen Horowitz (seed and series Aに参加), その他多くのヘルスシステム(病院やクリニックを含む医療グループ組織)
・総調達金額:約$120M
・サービス:看護師などの医療従事者不足を解消するためのAI医療スタッフ(リスクの低い非診断的な患者対応)
・事業モデル:B2B – Hospital, Health Plan, Pharma, Digital Health Company

研究開発および製品性能の詳細

同社のAI医療スタッフは、自然言語と音声ベースでの会話のために最適化されています。医療現場での効果的なコミュニケーションには、適度なニュアンスで伝えることや患者さんとの信頼関係の構築が不可欠であり、そのためにはテキストではなく "音声" でのコミュニケーションは最も効果的な方法だと同社は考えております。

しかし、音声を通じて信頼関係を築くには、応答時間の長さ、音質、一時停止、中断、背景ノイズなど、多くの複雑な問題を処理するシステムが必要になってくるのです。また、医療に関する会話は非常に複雑で、患者さんの背景等などの状況に応じて回答も変わってくるため、高レベルの正確性が必要です。そのため、医療で利用可能な音声対話ソフトウェアとしては、汎用LLM・大規模言語モデルをそのまま利用するのでは不十分なのです。

同社製品は主要エージェントと呼ばれる基本的な患者とのコミュニケーションを円滑に行うための部分(70B~100Bパラメータ)と、医療の各ケースに応じた専門エージェントと呼ばれる部分(1兆を超えるパラメータ)に分かれます。

同社製品の製品アーキテクチャ(同社ウェブサイトより)

専門エージェントは主要エージェントと患者さんとの会話を初めは傍で聞きながら、会話の内容が専門エージェントの対応範囲に入ると専門エージェントが主要エージェントをサポートし始めます。例えば、患者がどのくらいの量のOTC薬を服用できるかを尋ねた場合、専門エージェントの一つである薬剤専門エージェントが後方支援を行うそうです。また、危険な患者さんの状況(生命を脅かす症状を訴える患者さんなど)を検出したら、AI医療スタッフ(専門エージェントと主要エージェントの両方を含む)が対応していた患者さんとのやり取りを、人間の看護師の方にすぐ転送するように訓練されています。

状況に応じて人間の看護師さんに患者さんとのやり取りを繋ぐ(同社ウェブサイトより)

同社製品の開発は以下の図に示す通り現在Phase3に入っているとのことです。このPhase3において、40超える医療機関や保険会社、5000名を超える看護師と500名を超える医師のサポートを受けてテスト中とのことです。

Phase1から3までの3段階のうち、現在は最終段階に入っている(同社ウェブサイトより)

そして同社はPhase2の結果をウェブサイトに公開しています。Phase2では同社製品・開発品のAI医療スタッフ(AI Agent)と人間の看護師の方(Human Nurse)の2グループについて、1000名を超える看護師と100名を超える医師(医師はAI Agentの評価のみ)による評価をしています。

その結果、AI医療スタッフは全体的に人間の看護師と同程度の評価があったようです。具体的には会話の質、医療上の安全性、医療情報の提供の質などの点で質問表が作れ評価されています。また、他の汎用型の生成系AI(メタ社のLLaMA2とOpenAI社のGPT-4)との比較もしており、それらとの比較においては医療情報の正確性と安全性において同社製品・開発品の方が優れていると言っています。

"The results of our phase 2 test are summarized below. Impressively, on subjective criteria, our study participants rated our AI agent on par with U.S. Licensed nurses on multiple dimensions. On objective criteria, our medium-size AI agents outperformed much larger general- purpose LLMs like GPT-4 in medical accuracy and safety."

同社ウェブサイト
同社ウェブサイトより
Table 2は、他社の生成系AIであるメタ社のLLaMA2、OpenAI社のGPT-4、医療スタッフ、そして同社製品(Polaris)の比較(同社ウェブサイトより)


経営陣の過去:Health IQでの出来事

素晴らしい事業進捗を見せている同社の創業者の一人でありCEOでもあるMunjal Shah氏は、過去に携わった会社をアリババやグーグルに売却した実績があります。前職ではHealth IQという米国の公的保険であるメディケアアドバンテージに特化したAIプラットフォームサービスを2013年に創業して展開していました。もう一人の Health IQ 共同創設者である Vishal Parikh 氏と元 Health IQ VPの Kim Parikh 氏は、同社の共同創業者として名を連ねております。この会社にも同社同様に、Andreessen Horowitzが投資家として出資していました。このHealth IQ は急成長を遂げた会社でしたが、2023年8月に突如破産申請を行いました。

訴訟と資金繰りの悪化

実のところ、2022年にはキャッシュフローの問題や多額の債務を抱えることとなり、資金不足により500人から1000人の従業員を解雇しているそうです。この債務返済が滞り、2023年6月のForbesの記事によると、2023年5月までに15件以上の訴訟が起こされており、合計すると1700万ドル以上の未払い金の請求がされておりました。2023年8月の破産宣告後になっても尚、数百万ドルの請求書を放置したままになっていると報じられており、Shah氏やParikh氏などは意図的な虚偽表示と詐欺の疑いで告発されていたそうです。(現在は不明)

実際のところは分かりませんが、同社の経営陣がこのような状況の中でも今回Andreessen Horowitzなどもフォローオン投資をしております。これはどのようなことを意味するのでしょうか。

兎にも角にも、製品・事業は素晴らしいように思うのでこれが今後無事に医療に大きな貢献をもたらしてくれることを祈るばかりです。

おしまい。

※このブログ記事は、個人的な趣味で書いているものであり、あくまでも情報シェアのみを目的としています。

参考記事

参考;3/24にアップした前回記事


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