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認知症の人にラクに伝わる話し方のコツ【シーン別に解説】

「何度も言っているでしょ?!」
「約束したんだからちゃんとやって!」
「いいかげんにして!」 

認知症の人と話していると、イライラしてついこんな風に言ってしまうこともあるのではないでしょうか。
しかしその言い方では、認知症の人にはうまく伝わりません。
そのため、何度も同じことを繰り返してさらにストレスが大きくなってしまいます。

介護にかかわる家族のストレスを減らすために大切なのは、認知症の人の心を理解して、伝わりやすい言葉かけをすること。
認知症の人に伝わりやすい言葉がけができると、コミュニケーションが改善され、結果的に家族もラクになります。

ここでは、認知症の人と接するときに意識したい言葉かけのポイントを、具体的なシーンごとに紹介していきます。

※本稿は、『認知症心理学の専門家が教える 認知症の人にラクに伝わる言いかえフレーズ』から一部抜粋・再編集したものです。


認知症とは

そもそも、認知症とはなんでしょうか?
「忘れっぽくなる病気」、あるいは「脳が萎縮する病気」などと答える方が多いのですが、実は「認知症」という病気があるわけではありません。

アルツハイマー病や脳梗塞、脳出血、レビー小体病、前頭側頭葉変性症など、認知症を引き起こす原因となる病気はさまざまです。
これらの病気によって脳機能が低下し、生活に支障が出たり、自立・自律して暮らせなくなったりする、一連の「症状」を総称して、認知症と呼びます。

認知症は、次の3つの条件がそろったときに診断されます。

①    脳の疾患
脳が萎縮したり、血管のつまり・出血などの異変が起きたりする。
②    認知機能が損なわれる
もの忘れが増え、時間や場所、人物がわからなくなったり、今までできていたことができなくなったりする。
③    生活機能が損なわれる
①や②の結果、料理や買い物、お金の管理などができなくなり、生活にさしさわりが出てくる。

つまり、認知症は「生活の障害」が基準になっていることが大きな特徴です。逆に、脳が萎縮し、記憶力が低下したとしても、それによって生活にまったく支障が出ていないようであれば、それは認知症ではありません。
認知症は介護や家族の支えが診断の基準になっている、珍しい「病気」だと言えます。

家族だからこそ心がけたい「言い方」

家族が認知症だと診断されたら、大きな不安に駆られることでしょう。
しかし、周囲以上に不安なのは本人です。認知症になったからといって、いきなり何もわからなくなるわけではなく、むしろ初期の頃は本人にも「これまでできていたことができなくなった」という自覚があります。
「自分はいったいどうなってしまうのか」「どこか悪いのではないか」という、得体のしれない不安にとらわれることがほとんどです。

認知症が進行すると、時間や場所、人の認識が難しくなるため、さらに不安は強まります。「自分が今、どこにいるのかわからない」「目の前の人が誰なのかわからない」という、少し想像しただけでも、足がすくむような不安に囲まれた日常を過ごすことになるのです。

こうした不安を少しでも解消できるよう、気持ちに寄り添った対応が求められます。
必要な心構えとしては「怒らない」「否定しない」「話に耳を傾け、共感する」を意識するとよいでしょう。
認知症初期の介護ではまず、これまで通りの日常生活を過ごせるよう、それとなくサポートするのが理想です。

例えば、認知症の母親が買い物に行くたび、同じ食材ばかりをいくつも買い込んでくるとします。そこで「また同じものばかり買って!」と叱っても、本人は忘れてしまっているのですから、困惑するばかり。いやな気持ちだけが印象に残り、コミュニケーションがうまくいかなくなる可能性が高くなります。

認知症の症状は人によってさまざまです。まずは本人にどのような症状があるのかを観察し、背景にある理由に想像をめぐらせてみましょう。
例えば、先ほどの食材のケースでは、買い物に行くと、育ち盛りの子どもたちに食事をつくってあげていた頃の習慣がよみがえり、「おなかいっぱい食べさせてあげなくては」と考えたのかもしれません。
このようなケースでは、買い物をやめさせようとするより、定期的に冷蔵庫の中をチェックし、賞味期限切れのものを処分するなど、本人が気づかない程度、気にしない程度に、困りごとをフォローしていくことが大切です。

具体的なシーンにつかえる言葉かけ○×

ここでは、具体的なシーンに対して、認知症の人に伝わりやすい声かけを紹介していきます。

同じことを何度も質問する

高齢になると、記憶力が衰えます。さらに、アルツハイマー型認知症では新しいできごとを覚えるのが難しくなります。
ただし、質問したことや答えてもらった内容を忘れても、「何か予定があった」ということだけはわかっている。
自分の記憶に自信がなく、不安でいっぱいだからこそ、身近な家族に繰り返し尋ねるのです。

対応のポイントは安心してもらうこと。質問に対しては落ち着いたトーンで、はっきり簡潔に答えます。さらに、口頭で伝えるだけではなく、メモに書いて渡すなど、本人があとから確認しやすい工夫をすると、落ち着いて過ごせるようになることもあります。

約束をすっぽかす

認知症になると、約束しても、その記憶がすっぽり抜け落ちてしまうことが起こります。家族は約束を破っても平然としている姿にショックを受けますが、体験したできごとが全体的に記憶から抜け落ちるのはアルツハイマー型認知症のもの忘れの特徴です。
本人は約束したこと自体を忘れているので「悪いことをした」という自覚がなくて当然なのです。問い詰め、責め立てても本人にとっては身に覚えのないこと。

「約束したんだから、ちゃんと保育園のお迎えに行って」と責めるのではなく「今、一緒に遊んであげて」など、できることを一緒に探していきましょう。

同じものを何度も買ってくる

同じことを何度も繰り返し注意するのは家族にとって非常につらいものです。つい声を荒らげてしまうのも無理ありません。
しかし、認知症の人は新しい出来事を覚えることができません。覚えていないけれど、「牛乳を買わなければ」「パンがないと困る」という不安に駆られて買い物をするのです。

記憶に障害がある認知症も、強い負の感情は記憶に残りやすいと言われます。つい、怒ったり怒鳴ったりしてしまったときはすぐに笑顔を見せましょう。作り笑いでかまいません。笑顔で「同じものがたくさんあるからメモしておこう」など、前向きな対処法を提案してみましょう。

薬を何度も飲もうとする

薬の飲み忘れ自体は誰しも経験することですが、認知症によって記憶力や判断力が衰えると、薬を飲んだという行為自体を忘れてしまいます。家族が飲んだ薬のPTP包装を見せ、客観的な事実を示しても、本人は「飲んでない」という認識のため、納得してもらえないこともしばしばあります。

「飲んだ」「飲まない」という口論はかえって執着心を増します。こういうケースでは服薬しても害のないサプリメントなどを渡し、「薬を飲まなければ」という執着を取り除くのが得策。過剰服用を防ぐためのプラセボ(偽薬)もあります。医師や薬剤師に相談してみるとよいでしょう。

突拍子もない作り話をする(ありもしない自慢話をする)

認知症の人が無意識のうちに作り話をすることを「作話 」と呼びます。作話には本人の願望や不安な気持ちが反映されていることもあれば、単にテレビや周囲の人から見聞きした話を断片的につなげたものなど、さまざまです。周囲から見れば「そんなわけはない」と思うような内容も本人にとっては「真実」です。

だからこそ、否定されると腹が立ちます。荒唐無稽な作り話でも頭から否定するのは禁物。「○○さんは元気ですか」など話を合わせた上で「その前にごはんを食べましょうか」など、関心の方向を変える話題を提供するとよいでしょう。

ものやお金を盗られたと言う

ものやお金を盗られたと言い張るのは「もの盗られ妄想」と呼ばれる症状のひとつです。感情的に否定するとますますヒートアップするので、「一緒に探そう」と協力する姿勢を見せましょう。
それとなく目のつくところに置いて、本人に発見させるのがコツ。家族が見つけると「やっぱり、お前が盗んでいた」と疑われることもあるためです。

いちばん身近で介護に取り組んでいる主な介護者に疑いが向くことが多く、家族にとってはつらい気持ちになります。ただ、裏を返せば、どろぼう扱いされるのは、それだけ頼りにしているということ。実は誇るべきことなのです。

話し方で介護もラクになる!認知症の人に伝わりやすい言いかえフレーズを紹介

2023年12月22日発売の『認知症心理学の専門家が教える 認知症の人にラクに伝わる言いかえフレーズ』では、認知症研究の第一人者である著者が、具体的なシーンに対して、認知症の人に伝わりやすい言葉かけを、○×形式で紹介していきます。

軽度~重度の認知症の人にありがちなケースや、認知症の疑いがあるケースでも気を付けたい言葉かけを収録しています。

また、本書は言いかえフレーズのみでなく、認知症の種類や症状などの基礎知識や、介護をする家族のよくあるお悩みに対するQ&A、介護保険サービスなどのお役立ち情報も紹介しています。 

認知症の人を介護していて、コミュニケーションに困っている方はもちろん、年末年始など久しぶりに親に会ったときに「あれ…?認知症かも?」と感じて、認知症について調べ始めたばかりの方も活用できる1冊です。

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