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一番身近なはずのに、気づかない世界

ここはとある星。そしてこの星はたくさんの国、そしてたくさんの街からできています。街には必ず塀に囲まれた23対、つまり46本の塔が立っています。46本の塔は必ずどの街にも同じものがあります。対となる塔は同じ大きさ、同じ形をしています。しかし、宇宙の数多ある星のうち、約半分の星では1対だけ異なる形、大きさの塔が対となっています。

染色体の塔

この塔は街、国、星にとってとっても大切な存在。なぜなら、塔の中にはこの星の最重要機密情報が書かれた本が詰めこまれているから。その本の数は膨大。その本は、星が栄えるためのたくさんの商品の設計図となるのです。

書庫

この星では街と街。さらに国と国での交流も盛ん。貿易も頻繁に行われています。ある日この星のどこからか、ある商品が欲しいと発注書が届きました。塔の本を管理する司書さんたちは大慌て。急いで商品づくりに必要な設計図となる本が置いてあるところに向かいます。
ところがこの本は貸出禁止。司書さんたちは本棚に並んでいる順に一冊一冊丁寧に紙に書き写していきます。この情報を書き写した紙は、商品をつくるための重要な設計図となります。

本をコピー

司書さんたちが本から書き写したこの長ーい紙。急いで書き写したのでこの紙にはいらない情報も一緒に含まれています。そこで不要な部分をハサミで切り取り、必要な情報をつなげて設計図を完成させます。

スプライシング

そして、この完成した設計図は、塔を囲っている塀の外にある工場へと運ばれていきます。

工場へ

工場では、この設計図通りに作業員たちが丁寧に商品を作り上げていきます。作業員たちは設計図を丁寧に確認しながら、部品を順番に数珠のようにつなげていきます。

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しかし、部品をつなげただけでは、商品は完成しません。最後は部品が数珠のようにつながったものを、プレス機にかけてしっかり形を整えます。そして、ついに商品の出来上がりです。

分子シャペロン

毎日、毎時、毎分、毎秒とこの街の住民は休むことなく常に仕事をこなしていきます。『この星の繁栄』ただそれだけのために。この星はどこだかわかりますか?

この星は私たち。

星、つまり私たちの体は、たくさんの街(細胞)、国(臓器)からできています。一つ一つは小さく見える街(細胞)。けれどその中には忙しく働くたくさんの住民たちがいます。たくさんの街(細胞)が国(臓器)をつくり、そして一人の人間(星)を作っているのです。

細胞は街

ぼんやりと過ごしていても、この星のどこかでは絶えず住民たちが働いてくれているから、私たちは健やかに過ごすことができるのです。
ぼんやりこの物語を読んでいる今もきっと。

私たちは星


【解説】
この物語は私たちの体をつくる細胞という一番身近なところのはずなのに、気づかない世界を描いています。つまり、私たちが息をし、体を動かすなど健康的に日常を過ごすために、細胞の中で絶えず行われている遺伝情報からのタンパク質合成という反応を描いています。
■街(細胞)の中には核膜(塀)に囲まれた染色体(塔)が23対あります。染色体は女性では同じ形・大きさのもの同士がすべて対となっています。しかし、男性では1対だけは異なる形、大きさのものが対となっています。これは男性と女性で性染色体が異なっており、女性ではX染色体が2つあり、それが対になっているのに対し、男性はX染色体とY染色体で異なるものが対となっているからです。つまり宇宙の中の約半数の星(男性)だけは1対だけ異なる形と大きさのものが対になっているということです。

■塔(染色体)の中にはたくさんの遺伝情報=DNA(本)が収められており、これらは『私たちが私たちであるため』、『日々を健康に生きるため』に大切な情報です。

■司書さん(メッセンジャーRNA)が本(遺伝情報)をコピーすること=タンパク質合成のために遺伝情報をDNAからmRNAに移す『転写』という行為を示しています。

■コピーしたものが塀の外の工場に向かう=mRNA(コピー紙)が核膜(塀)を超えて核の外の細胞質にある工場(リボソームRNA)に向かうことを示しています。

■工場でコピー紙をもとに部品を順番につなげる=mRNA(コピー紙)に書かれている遺伝情報をもとにアミノ酸(部品)が順番につながれていく

■プレス機で形を整える=アミノ酸(部品)が順番につながった鎖(ペプチド鎖)は分子シャペロン(プレス機)によって正しい形のタンパク質(商品)になる


【あとがき】
遺伝子と聞くとなんだか難しそうなイメージがあるかもしれません。けれど一番身近なことで、そして大切な話だと思っています。私が学生の頃、このことを勉強した際に頭の中で妄想した『細胞の中の住民たち』を主役にこの物語を書いてみました。(絵が下手なので伝わっているか心配ですが。。)
この物語を読んで、少しでも生物学や自分たちの体で起きていることに興味を持ってくれる人が増えたらうれしいです。
そして、つづけて、『細胞の世界』を描いていけたらと思っています。


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