【島根・広島篇】日本全国の支援団体と繋がりたい「全国出張プロジェクト」
こんにちは。
NPO法人ダイバーシティ工房学習支援事業部スタッフの山崎です。
ダイバーシティ工房では、今年度の9月から3月にかけて「全国出張プロジェクト」と称して、
全国各地の子ども若者支援に取り組まれている団体さんの活動を直接見に行く取り組みを開始しました。
プロジェクトを通して、全国の団体さんの活動を勉強して私たちの本拠地・市川市の地域づくりへ還元したり、
むすびめに来られる全国の利用者さんへの情報提供・連携に活かすことが目的です。
プロジェクトの記録を公開しながら、日本全国の支援団体から得た学びを共有したいと思います。
今回は広島県と島根県で、私たちダイバーシティ工房がこれまでに展開してきた事業、今後展開していきたい事業(保育・学習支援事業・食料支援・グループホーム等)をされている団体を視察訪問しました。
1日目
「有限会社ケンコウ設備 暮らり」→(デイサービス「くらすば」)(フリースペース「はなれ」)
2日目
「NPO法人石見銀山いくじの会」→(大森さくら保育園)(おおもり児童クラブ渡辺家)
3日目
「NPO法人緑と水の連絡会議」→(ほっとスペース ゆきみーる)
「認定特定非営利活動法人カタリバ」→(おんせんキャンパス)
「福祉っぽくない」居たくなる空間
有限会社ケンコウ設備 暮らり(デイサービスくらすば・フリースペースはなれ・まちにひらいたデザインオフィス) ウェブサイト
案内してくださったのは、有限会社ケンコウ設備 暮らりの大家 取締役の橋本康太さん。
暮らりさんでは、福祉がまちや人の暮らしの中に溶け込み、あらゆる人同士の繋がりを生む場が実践されていました。場のあり方や見え方が、とにかく素敵なのです。
デイサービスやフリースペースが入る建物の壁の色、ライトの色、曇りガラス、その一つ一つには意味があり、コンセプトに合わせて専属のデザイナーさんと選び作ってこられたそう。とても大切に、丁寧に場全体が作られていることが伝わってきます。
私たちも日頃大事にしたいと思っている「福祉施設らしくない」という感覚。居心地がよく、安心して居たくなるような場の実践を現地で見させていただくことができました。
徹底的に時間を意識し、大事なことのために余白を作る!
「余力を作り出すために1,2分も無駄にしない。やらなくてよいことはしない。省けるものは省く。それによってスタッフの負担も減らす。そして、時間をかけたいものにその時間を使う!」とは代表の橋本さん。
一般的な介護デイサービス施設で取り組まれるプログラムといえば、カラオケ、ボーリングなどが想像されますが、暮らりではこの時間意識から生まれる余白により、画一的にするのではなく利用者さんに合わせたプログラムを作っています。スタッフの時間も労力も必要だけれど、そこに注力したいという思いがあるそうです。
その利用者さんに合わせたケア、主体性を生み出す時間を大切に、話をしたりゆっくりする時間を作っている様子で、感銘を受けました。
まだ購入されたばかりだというリノベーション前の古民家を見せていただきました。
これから作る拠点は、1階がカフェと物販があり誰でも使えるスペース、その奥に子どものスペースができる予定だそう。子どもたちが安全に過ごせるようにする見守りの機能も果たす意味もあるようです。
暮らりさんでは、それぞれのスペースに思いやコンセプトがあり、細部までこだわって施設をつくられていることがよく伝わってきました。そして、人主体で温かい場のあり方は、時間や無駄なものに対する意識など、働く人の工夫や冷静な判断のもとで作られていることも、私たちの仕事への意識の刺激になりました。
「保育者たちも環境」という考え方
NPO法人 石見銀山いくじの会(大森さくら保育園・おおもり児童クラブ渡辺家)ウェブサイト
案内してくださったのは、NPO法人石見銀山いくじの会 理事の松場奈緒子さん。島根県で生まれ育った松場さんは、専門学校進学を機に上京し、結婚・出産後に大森町にUターンされたそうです。
大森さくら保育園さんでは、子どもが自分で判断して自分で決めるということを非常に大事にされている印象で、大人は必要以上に指示を出したり、子どもの行動を制限したりしないスタンスでした。スタッフは、子どもを信頼し見守りながら、子どもたちが安心して過ごせるように環境を整えています。
子どもたちは自由に意思決定をしながらも危ないことはしない。大人に言われたから守っているというよりも、経験から学んで行動しているようです。
ロケットストーブを使って餅を焼くこと、金槌を使って餅を割ること、大きなやかんに入ったお茶を運ぶこと、段差を歩くこと、川遊びをすること...大人が危なそうだなと思ってしまうことも、子どもたちが自分で気をつけながら過ごしている様子が見られました。
経験から学ぶということは、上手くいかなかったときに自分で考えてみることでもあると思います。何かを禁止することで子どもたちの学びの機会を奪っていないか、大人として自覚的でいたいと感じる空間でした。
(最近子どもたちに“制限”したことと言えば、「猿が出没したときに外に出ない」とのこと。とても大事なことですが、予想外の答えでした…笑)
時間の管理についても全くせかせかしておらず、まったりと時間が流れていく感覚で、とてもほっとする雰囲気でした。
「共通の指示をする、少しでも危ないと感じることはやらせない、など判断基準を統一しようとするのは大人の都合。子どもたちが大人になったら、いろいろなことを言う人と関わっていかなければならないから」と、大人の判断基準も特に統一はしていないそうです。
ここでは子どもがこれからの社会を生きていくのに本当に必要な力が身につくのだろうな、と強く感じました。
親でも先生でもない「ななめ」の関係の存在
保育園同様に、学童クラブでも、子ども主体の取り組みがさまざま見られました。
一般的によく見かける学童とは異なり、武家屋敷の造りをそのままいかした建物、立派な花瓶もそのまま置いてあったり、こたつもあり、まるでおばあちゃんの家のような空間でした。
同時に、学童到着時には保護者に連絡がいくシステムの導入や、窓は耐久性のある割れにくいガラスへと交換など、安全・便利になる部分については新しい技術も上手に取り入れ、バランスをとりながら運営をされていました。
地域では、身近な大人が自ら楽しんでいる姿を見たり、親でも先生でもない「ななめ」の関係の存在と関わることによる安心感もあるように思いました。
「おかえり」と声をかけてくれる地域の方や、遊戯場の建築に携わった左官職人さんなど、日頃触れ合う人を通して世の中には色々な人がいて、様々な職業があることを知るきっかけにもなります。
保育園は・学童は、こうあるべき、という考え方に囚われず、この場所が子どもたちのこれからの世界とあらゆる面で繋がっていることがとても印象的でした。
今まで出会ったことのない大人との出会い
NPO法人緑と水の連絡会議(ほっとスペースゆきみーる)ウェブサイト
ほっとスペースゆきみーるさんを案内してくださったのは、NPO法人緑と水の連絡会議 副理事長・ほっとスペースゆきみーる 室長の高橋賢史さん・相談員の根冝めぐみさん。
館内の設備や取り組み等については、実際に館内を歩きながら、根冝さんが一つずつ丁寧にお話ししてくださいました。
15歳以上の居場所を必要とする人と人とを繋ぐ場所を作りたいとの願いから生まれた場には、自分のペースに合わせて利用する方々の姿がありました。
子ども食堂は月1回。若者支援であるため、39歳までの方は無料。カレーライスなどのご飯が40~50食提供されており、コロナ禍ではテイクアウトが120食ほど提供されたそう。子ども食堂を運営する自分たちにとっても、この食数を用意するすごさがわかりました。
国際ボランティアで、視察時は韓国人とフランス人の2名の海外からの方がおられるほか、今まで出会ったことのない大人との出会いを体験するために「変なスタッフ」がたくさんいますというお話がありました。
ユニークなご経歴があったり、型にはまった考え方をしなかったりする方々がたくさんおられるそうです。
学校や一般社会のきまり等が全てではなく、世の中にはいろんな生き方や価値観があり、周りと違ってもそれでもちゃんと生きていけるんだよ、そう伝わることで、子どもや若者たちの自信や安心に繋がる空間だと感じました。
理解してもらうまで時間はかかったけれど、今は学校側から相談される
認定特定非営利活動法人カタリバ(おんせんキャンパス)ウェブサイト
おんせんキャンパスさんを案内してくださったのは、スタッフの石飛紫明さん・黒瀬麻衣さん。建物の中を回りながら、子どもたちの様子や設備、学習に使用している教材教具など説明していただきました。
現在、おんせんキャンパスに勤務されているスタッフは10名で、元教員・元教育委員会、児童絵本作家、ヨガインストラクターなど経歴もさまざま。子ども1人に対して1人のスタッフがメンターとして付くしくみがあり、メンターは、特にその子の思いや現在の状況について細かく気を配りながら、相談にのったり、一緒に計画を立てたりしていく存在です。
おんせんキャンパスでは、雲南市教育委員会・市内の学校とチームとして機能していることが大きな特徴です。
これは、子どもたちや保護者の方々にとっても安心に繋がる大きな要素だと感じました。
地域の方々や学校の先生方との関係構築については、少しずつできることを積み重ね、丁寧に時間をかけて行ってきたそうです。
具体的には週1回の報告書の送付や2ヶ月に一度の情報交換会の実施で連携し、今では学校側から相談されるほどの関係があるとか。
また、市にはキャンパス前にバス停を作ってもらうことで、通学に遠い子どもがバスを利用できるようにもなりました。
毎週水曜日は閉所し、ケース会議や情報共有、担当事業ごとのミーティング等を行って、スタッフ間の密な連携が図られていることも、重要な役割を果たしているように感じられました。
ここでは約7割の子どもが何らかのかたちで本人の希望によりまた学校に行くそうです。学校に戻ることだけが良いわけではないし、本人の希望や、復帰が望ましいわけではないケースもあるため、あくまで一人ひとりの状況に合わせた対応をされています。
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今回の視察では、どの施設でも「利用者主体」で、利用する方の思いや立場を尊重されながら、丁寧に関わりを持たれていることが共通していました。
地域の理解や学校との連携では、いきなり密な関係になることは難しく、地道な積み重ねを感じました。今の私たちにもできることを少しずつ積み上げ、信頼関係を構築していくことが大切だと感じました。
ダイバーシティ工房でも「待つ保育」「待つ支援」などを大切にしています。これは今回訪問した施設でも似た価値観で運営されているように感じました。私たちもこれまで以上に利用者の力を信じ、待てる保育者・支援者を目指していきたいです。
まだ続く全国出張、引き続き学びをご報告していきます。お楽しみに!
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「全国出張プロジェクト2023」は、厚生労働省による孤独・孤立対策のための自殺防止対策事業の支援を受けています。
ダイバーシティ工房は、どんなライフステージにあってもだれもがふと相談できる地域づくりを目指し活動するNPO法人です。
SNS相談むすびめのほか、学習教室、コミュニティカフェ、保育園、食料支援、生活支援拠点の運営など地域の0歳~20歳の子ども・若者とその家族を主な対象に活動を行っています。
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