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51 森林環境税(Forest Environmental Tax)


はじめに

今日のコラムでは、租税教育の内容に触れながら、今話題になっている「森林環境税」について考えていきたいと思います。なぜ、話題になっているのか、また、税とはどのようなもので、何が大切なのかを見ていければと思います。

森林環境税とは

森林環境税について、林野庁のホームページを見ると次のように説明が書かれています。この説明を読むと目的と税の徴収方法を知ることができます。

(林野庁のホームページより)
「森林環境税」は、令和6(2024)年度から、個人住民税均等割の枠組みを用いて、国税として1人年額1,000円を市町村が賦課徴収するものです。
また、「森林環境譲与税」は、市町村による森林整備の財源として、令和元(2019)年度から、市町村と都道府県に対して、私有林人工林面積、林業就業者数及び人口による客観的な基準で按分して譲与されています。
森林環境譲与税は、森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律に基づき、市町村においては、間伐等の「森林の整備に関する施策」と人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の「森林の整備の促進に関する施策」に充てることとされています。また、都道府県においては「森林整備を実施する市町村の支援等に関する費用」に充てることとされています。

ポイントの一つ目は、国税として一人1,000円ずつ均等に集めるという点です。これは、所得の差に関係なく一律徴取するという考え方です。二つ目のポイントは、森林の管理や整備などを目的とした目的税という点です。このことを踏まえて、次にこの森林環境税の導入に際して今どのような点に注目が集まっているのかをお話していきたいと思います。

目的に応じた使い方ができていない

この税金は、現在の住民税と呼ばれる住んでいる地域に納めている税金に上乗せされて納税者から直接徴収されます。つまり、「増税」という現象が起きるわけです。もう少し簡単に言えば、収入から1,000円が毎月引かれて、森林のために使われることになるということを意味します。
では、この森林のために使う予定の税金ですが、どのくらい有効に使われているのでしょうか。実は、半分ほどしか使われておらず、現在、集めた税金の約半分が基金として積み上げられています。まだ、1,000円ずつの徴収が始まっていないのに、どうしてそんなことが起きているのか疑問に思うかと思いますが、先行導入的に別の財源から各地方自治体に交付金が配分される制度は始まっているのです。ですから、現在でもこの税金がどのように使われているのかを調べることができるというわけです。その結果について次に具体的に述べていきたいと思います。

交付されても使えない現状

日本は、森林面積の多い国です。昭和の終わりに植樹した杉の木が大きく成長し、その多さから近年では花粉症に悩む人が増える等の問題を引き起こしているほどです。
また、森林の手入れが間に合わず、せっかく植林をしても周囲の大きな木々の枝のせいで日が当たらないといった状況が広がっています。そうすると、木は細く長く成長してしまい、近年激甚化している台風や降雪の際の重みで木が折れたり、根こそぎ流出してしまいます。それだけではなく、樹木以外の植物の生育状況にも悪影響を与えるのです。その結果、山はやせ細り保水性も低くなり、下流域への危険性も高まります。
ですから、間伐といって木々を適切に切り倒したり、枝打ちをしたりして、古来より山の手入れをしてきたわけです。そうして山の豊かさを守ることで、栄養分の多い水が海に注ぎ、海もまた豊かになり、日本の食文化や伝統を支えていたのです。つまり、林業というものに携わる多くの人々の働きがあったからこそ、私たちは大変豊かな自然の恵みを享受することができてきたということが言えるわけです。
そうした、林業に携わる方々が現在、後継者不足等の理由で減少しているという現実があります。他の産業においても少子高齢化が影響し、人手不足が叫ばれていることは皆さんもご承知の通りです。
これだけ重要な仕事である林業の分野なわけですが、人手不足の中でいくら備品や車両などの補助金として、森林環境税の一部を用いたとしても使い手が少なければ、使いきれないというのが現状なのです。また、森林がないという大都市では、元来、目的税なので用途が見つからないため基金としておくしかないのです。さらに、木材を用いて建物を建てる際に補助金として活用できることを知らない人も多くいることがこのことに関係しているように思います。

林業の現場の現状

総務省によると、 2020年時点で林業に携わっている方の数は、約4万5千人前後ということです。重要なのは、高齢化率です。高齢化率とは65歳以上の割合を示したものですが、林業の高齢化率は25%ということでした。4人に1人は65歳以上ということです。これがどのくらいの高さかというと、全産業の高齢化率の平均が15%(6人に1人から7人に1人の間)ですから、約10%も高い水準ということです。
林業に携わる人の数を年代別に比較すると1980年頃は12万人以上のかたがおられたのに比べると、現在は4.5万人程度ですから、約5分の1に減少していることがわかります。その内、50歳以上の方が71%を占めているという現状です。なぜここまで、林業に携わる方々が減少したのでしょうか。それには次のような理由があると実際に携わってきている方々は述べています。
①林業の仕事量が減少した ②林業の労働条件が 悪い ③山村の過疎化
こうした重大な問題に対応するために、今回話題になっている「森林環境税」が用いられるというわけです。

どのように用いていくかが大切

この制度が始まったのは、2019年度からのことでした。これまでの約3年間で約840億円が各地方自治体に森林の保全や林業に関わる事業に用いることを目的として配分されてきました。
しかし、その内約半分にあたる約400億円がその目的のために使われていません。別の目的に使うことのできないお金ですから、基金としているわけですが、使っていないのであれば、2024年から一人1,000円ずつ増税して集めなくてもいいのでないかという意見が生じているわけです。
林業の担い手の不足により、そもそも補助金を活用しようという人が少ないこともあり、十分に交付されたお金が活用されていない現状があることは事実です。しかし、お金が使えていないことと、本当はやらなくてはいけないことが沢山あることは別の議論だと考えることもできます。
森林がない地域にも交付されているこのお金ですが、木材を購入する人が大都市で増えれば木材の価格も安定し、需要が高まれば高い供給力を求められます。そうすると、設備の導入や人手を確保する必要が出てきます。その時必要なのがお金なのです。高い賃金に魅力を感じて林業に携わる人が増えることもあるでしょうし、事業に対して補助金があるのであれば、新たに林業に参入する人も増えるでしょう。
こうしたことを自分事としてとらえるためにも、一人一人が直接的に税を治める今後の納税の仕方は、ある意味で当事者意識を持たせる効果があると考えられます。国民一人一人が、納税者として今以上に関心が高まることで、森林環境税を用いた補助金や助成金の申請も盛んになるように思います。活用が進むと行政もそのバリエーションを増やす試みを見せるかもしれません。そうした様々な取り組みにより、林業が盛んになっていくことは、国土の豊かさにつながる大切な社会的な事業としてとらえることができるわけですから、広く薄く税を負担するという考え方も理解できるわけです。

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