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社労士試験 予備校では教えないポイント解説 vol.063

労働者災害補償保険法(3)

給付基礎日額

試験上というよりも、実務上重要な論点です。社労士試験は電卓の使用が認められていませんので、おそらく実際の給付日額の計算問題は出題されないと思いますが、合格後に『実務経験(2年間)』のない者が社労士登録するために受講する『事務指定講習』では実例を出しての計算問題が出題されます。ただし、合否を決める試験ではないので、間違っていても大丈夫です。講習修了後に模範解答ももらえます。とはいえ、よっぽどひどい解答であったり白紙に近かったら『再提出』はあり得ますので、もし受講されるのでしたら、頑張って勉強してください。

①給付基礎日額

社労士試験で勉強する各法律ごとに『1日分の基本金額』の呼び方が違いますが、そこをクロスさせて✕。。。というような問題は出ませんので、試験上はあまり気にする必要はないですが、社労士として活躍されるには、ここは間違ったら恥ずかしいところですね。また、算定基礎期間も3箇月と6箇月の違いもあります(今回の労災保険法は3箇月)ので、そこもしっかりと覚えましょう。当然、算定基礎期間は実務においても重要なのですが、申請書を見たら想像が付きますので、ご安心下さい(笑)。

1)給付基礎日額の原則

『給付基礎日額は、労働基準法第12条の平均賃金に相当する額とする。給付基礎日額に1円未満の端数があるときは、これを1円に切り上げるものとする。』
1円未満を切り上げるのは、もし四捨五入などで切り捨てがあると、労働基準法で定められた『全額払いの原則』に反するからです。また、いつから遡って計算するかという『算定事由発生日』は、『負傷若しくは死亡の原因である事故が発生した日又は診断によって疾病の発生が確定した日』となります。実務上、被災労働者が病院に行かない等で『診断によって疾病の発生が確定した日』がない場合、受給手続きの際に困難を極めるので、実務に就かれたら、『労災になるかも?』という時(というより、労災にならなくても)には、必ず病院に行くように指導してください。
また、平均賃金相当額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められるときは、厚生労働省令で定めるところによって政府(労働基準監督署長)が算定する額を給付基礎日額とします。

2)給付基礎日額の特例

給付基礎日額の計算の原則通りに計算すると、実態に反する計算結果(計算結果が低くなってしまう等)という場合があり、以下の特例が設けられています。
1.私傷病休業者等の特例
2.じん肺患者等の特例
3.船員の特例
4.自動変更対象額の特例

1.私傷病休業者等の特例

労働基準法では、平均賃金の計算の際に、業務関連事項で『それを含めて計算すると平均賃金が不当に低くなる項目』(業務上傷病の休業期間中の賃金や試用期間中の賃金等)は除いて計算することが規定されていますが、さらに労災保険法での除外項目です。
平均賃金相当額(給付基礎日額)の算定期間中に『業務外の事由による負傷又は疾病の療養のために休業した期間』や『親族の疾病又は負傷等の看護のために休業した期間』がある場合は、そのまま平均賃金相当額を算定すると、給付基礎日額が低くなるおそれがあります。そこで、このような休業を伴う場合は、その休業期間中の日数や賃金を算定基礎から除外して算定した平均賃金相当額を、給付基礎日額として最低保障します。
労働基準法で除外項目となっていないのは、労働基準法での平均賃金の計算は使用者の補償義務の額の計算なので、私傷病休業中の賃金が低くなるのは、使用者の責任ではないからです。
【最低補償という意味】
次の①②のいずれか『高い方』を給付基礎日額とするということです。
①労働基準法に基づいた平均賃金
②(最低保障)私傷病・親族看護による休業期間の日数及びその期間中の賃金を、平均賃金の算定期間及び賃金の総額から控除した場合における平均賃金相当額
大抵は、②の方が高くなるはずです。もし逆転して①の方が高くなった場合を考慮して『最低保障』という言い方をしていますが、私には①の方が高くなるケース(つまり私傷病などで休んでいる方が賃金が高くなるケース。労働組合が強ければ『同額』はあるかも知れませんが。。。)が思い付きません。。。

2.じん肺患者等の特例

労働者が『じん肺』又は『振動障害』にかかった場合は、通常、疾病の発生が確定する前に作業・業務の転換が行われ、それに伴い賃金水準も低下することがありますので、そのまま平均賃金相当額を算定すると、給付基礎日額が低くなるおそれがあります。そこで、このような労働者の場合は、『作業転換前』の期間で算定した平均賃金相当額を、給付基礎日額として最低保障します。つまり、原則通りに算定した額とのいずれか『高い方』を、その労働者の給付基礎日額とするということです。
きつい仕事中は固定給が高かったり諸手当が付いたりして、賃金が高いことが多いからです。そのきつい仕事中の補償なのですからその時の賃金を元にするのは当たり前といえますね。

3.船員の特例

常態として、『毎週、毎月決まった日数、船に乗り込んでいるわけではない』船員の賃金の特性からきた規定です。
1年を通じて船員として船舶所有者に使用される者の賃金について、基本となるべき固定給のほか、船舶に乗り込むこと、船舶の就航区域、船積貨物の種類(つまり、『漁師』には限定されていないということ)等によって変動がある賃金が定められる場合などには、そのまま(算定期間3箇月で)平均賃金相当額を算定すると、その算定事由が発生した時期によって給付基礎日額が著しく変動してしまいます。そこで、このような場合には、算定事由発生日以前『1年間』について算定することとした場合における平均賃金相当額を給付基礎日額とします。前出の私傷病の場合のように『いずれか高い方』ではないことに注意が必要です。
この規定が適用されるケースを例示すると、以下の通りです。
・基本となるべき『固定給』の額が乗船中において乗船本給として増加する等により変動のある賃金が定められている場合
・基本となるべき『固定給』が下船することにより逓減する賃金を受ける場合
・基本となるべき『固定給』が乗下船にかかわらず一定であり、乗船することにより変動する『諸手当』を受ける場合

4.自動変更対象額の特例

国が定める最低保障額に変更があったら、最低保障額の対象となっている者の給付基礎日額も何らの手続きなく連動して変更されるので、『自動変更』というわけです。なお、科目(法律)により、この自動変更額をそのまま使う場合(労災保険法はそのまま使う)や、0.8等を掛ける場合などがありますので、注意が必要です。試験上、計算結果ではなく『計算式』が出される可能性があります。式中に『✕0.8』が入っている式と入っていない式が並べられて正誤判断させる問題です。試験中にこの問題を見ると、どうしても『✕0.8が入っている方』を選びたくなりますので、試験委員会の思うツボにはまらないようにしてください。
『平均賃金相当額が自動変更対象額(令和5年8月現在、4,020円)に満たない場合には、自動変更対象額(4,020円)とする。』
つまり、給付基礎日額は、4,020円が最低保障されます。

3)複数事業労働者の給付基礎日額

複数事業労働者は、そのいずれかで疾病・負傷して休業する場合には、その複数事業全ての収入を失うことになることになりますので、被災労働者ために、近年、新たに設けられた規定です。
複数事業労働者の業務上の事由、複数事業労働者の2以上の事業を要因とする事由又は複数事業労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡により、当該複数事業労働者、その遺族又は葬祭を行う者(葬祭費用などが支給されます)に対して保険給付を行う場合における給付基礎日額は、当該複数事業労働者を使用する事業ごとに算定した給付基礎日額に相当する額を合算した額を基礎として政府(労働基準監督署長)が算定する額とします。
なお、この場合の自動変更対象額の適用は、複数事業労働者を使用する各事業ごとに算定した給付基礎日額について各々には適用せず、これらを合算した額が自動変更対象額に満たない場合には、初めて自動変更対象額とします。複数事業労働者は、その各々の事業での賃金が低いことが多く、その各々で自動変更対象額が適用されると、給付基礎日額が異常に高くなってしまう(最低でも8,040円になってしまう)ことを避ける規定です。考えてみれば当たり前の話なのですが、『法の盲点』を突かれないための規定です。

4)自動変更対象額の変更

『厚生労働大臣は、年度の平均給与額が直近の自動変更対象額が変更された年度の前年度の平均給与額を超え、又は下がるに至った場合においては、その上昇し、又は低下した比率に応じて、その翌年度の8月1日以降の自動変更対象額を変更しなければならない。厚生労働大臣は、自動変更対象額を変更するときは、当該変更する年度の7月31日まで(つまり、変更する前日でもいいということ)に当該変更された自動変更対象額を告示するともとする。』
自動変更対象額は、毎年、賃金スライド改定が行われています。
政府が計算することなので、試験としては計算問題としては出されないとは思いますが、いつの平均給与額を用いるのかと、変更日が『翌年度の8月1日』ということは重要です。社会保険科目では『9月1日(定時改定)』が出てきますので混同しないように注意が必要です。また、『前年度』を用いるのは、給与額の集計に時間が掛かるためであり(現在はもっと早くできると思いますが。。。)、結果、変更されるのが『翌年』となるからです。翌年から見たら、『変更された前年度』というのが今年度ということです。反映が1年ずつズレるのは事務手続技術上、仕方ないことですね。額の公表が変更の前日でもいいのは、支給を行うべき政府が公表する側なので、何ら慌てる必要がないからです。
【端数処理】
自動変更対象額に5円未満の端数があるときは、これを切り捨て、5円以上10円未満の端数があるときは、これを10円に切り上げます。最低保障額のことなので全額払いの原則という概念の入る余地はなく、また、常に労働者側に不利なわけでもないので四捨五入という扱いになっています。
【平均給与額】
厚生労働省において作成する『毎月勤労統計』における労働者1人当たりの毎月決まって支給する給与の平均額をいいます。
全くの蛇足(というより愚痴)ですが、私の受験3年目の『労働一般』の選択式がこの『統計名・白書名』を問う問題でした。5つの空白が全てこれで、某予備校の講評でも『空前絶後の問題』『斜め上を行く問題』(要は、『悪問』と言いたいのだけれど、予備校という立場上言えない。。。)と言われていました。当然のように『2点救済』となりましたが、あともう少しで『1点救済』までいくところでした。もし。。。は言いたくありませんが、もし1点救済となっていたら、私は、この年で合格していました。。。だから、私は、統計名や白書名を見るたびにトラウマにさいなまれます。。。(笑)

②給付基礎日額のスライド

労災保険の保険給付は、長期にわたって行われる場合があるため、その間の賃金水準の変動等により、給付額の実質的な価値が低下してしまい、保険給付の目的である『稼得能力の損失の補填』が十分でなくなってしまうことがあります。そこで、給付基礎日額を賃金水準に合わせて上下させることとしています。これを一般に『スライド』といいます。試験上は、年金スライドは社会保険(厚生年金など)でも出てきますが、次の『休業給付』だけが特別な扱いなので、『休業給付だけが特別』と覚えてください。短期間に平均給与水準が大幅に変わったときの保障みたいな規定で、実際に適用されることはないと思います。次項を読めばわかりますが、『変更手続きがめんどくさいので、なるべく変更したくない。』という規定です(笑)。(こんな趣旨は、当然どこにも書いてないので、試験には出ません。)
なお、労災保険の給付を表現する場合、どこの予備校のテキストでも、●●(補償)等給付と(補償)が( )付きになっています。労災保険の給付のうち、複数業務要因災害と通勤災害は使用者に直接の補償義務はなく、単に『●●給付』なので、両方を一緒に表現するために、補償という文言を( )付きにしているわけです。法律用語ではありません。おそらく、誰か(予備校)がこういう表現を思い付いて、他の人(予備校)が真似したのだと思います。以前は、●●(補償)給付だったのですが、今は複数業務要因災害の補償が追加されたので、●●(補償)等給付と『等』が付きました。複数業務要因災害は、複数の事業場を掛け持ちした労働者の過労による災害の補償なので、使用者からしたら『知らんがな!』ですから、使用者には補償義務はありません(使用者は賃金に対応する労災保険料は支払わなければなりませんが、労働保険料徴収法で説明する『メリット制』の対象にはなりません。)。
なお、試験上、『●●給付』という『補償』が付いていない表現には注意して下さい。『通勤災害ですよ。』ということをわざと省略しての引っ掛け問題の可能性が高いです。通勤災害は使用者の補償義務がないので、一部、扱いが違うところがありますので、そこを出してきている問題ですね。

1)休業給付基礎日額のスライド

1.スライド改定の要件

休業(補償)等給付の額の算定基礎日額(以下、『休業給付基礎日額』といいます。)のスライド改定は、『算定事由発生日の属する四半期(1~3月、4~6月、7~9月、10~12月)の平均給与額』とその後の『四半期ごとの平均給与額』を比較し、後者が前者の『100分の110を超え、又は100分の90を下回るに至った場合』に行われます。ですので、そんな短期間では平均賃金水準が1割も上下することはないので、給付期間が相当に長期化している場合以外は、まず、この規定に該当することはないかと思います。

2.スライド改定の実施

当初の休業給付基礎日額にスライド率(平均給与額の変動率を基準として厚生労働大臣が定める率)を乗じて得た額を新しい休業給付基礎日額(改定日額)とし、その改定日額が当初の休業給付基礎日額の10%を超えて『上昇し、又は低下するに至った四半期の翌々四半期に属する最初の日以後に支給すべき事由が生じた休業(補償)等給付』についてこれ(10%を超えて上昇、又は低下した改定日額)を用います。
大変にややこしい表現です。『翌々四半期』から変更するのは、『支給を受けている今の四半期』はまだ算定期間中なので、当然、無理。『翌四半期』も、そんな急には平均賃金を集計するのは無理。なので、最善の努力をしての最短が『翌々四半期』ということです。だから、『最善の努力』はしたくないので、改定のハードルを高くしているわけです(注:筆者の推定です。)。ほとんどの場合、1年間どころか3年間ぐらいでも1割も平均賃金が上下することはないですから。(『個人単位』では、当然、あると思います。)
また、一度改定されてからは、『改定の基礎となった四半期(改定日額を最初に適用した前々四半期)』(つまり、通算の上下幅が1割を超えた最初の四半期)とその後の『四半期ごとの平均給与額』を同様に毎回比較し、後者が前者の『100分の110を超え、又は100分の90を下回る』に至った場合にスライド改定が行われます。ややこしい表現ですが、意味を考えれば当たり前のことなので、理解(イメージ)できてしまえば間違えることはないかと思います。

2)年金給付基準日額のスライド

1.スライド改定の時期

ここも、『すぐには算定できない』という事務手続き上の問題で、改定は『翌々年度の8月』となります。
年金たる保険給付(後の記事で説明する障害(補償)等年金や遺族(補償)等年金等)の算定の基礎として用いる給付基礎日額(以下、『年金給付基礎日額』といいます。)のスライド改定は、『算定事由発生日』の属する年度の翌々年度の8月以降の分として支給する年金たる保険給付』に係るものについて行われます。
これも、『翌年度』は、集計期間中なので、当然、無理。最善の努力で『翌々年度』の8月に改定ということです。大体、翌々年度の6月ぐらい翌年度分の集計が終わるそうです。わかってしまえば当たり前の話なのですが、初見で理解するのは難しいですね。。。

2.スライド改定の実施

当初の年金給付基礎日額に、その年のスライド率〈『年金たる保険給付を支給すべき月の属する年度の前年度(当該月が4月から7月までの月に該当する場合にあっては、前々年度)の平均給与額』を『算定事由発生日の属する年度の平均給与額』で除して得た率を基準として厚生労働大臣が定める率〉を乗じて得た額を、新たな年金給付基準日額として、毎年改定していきます。
『当該月が4月から7月の場合は前々年度』というのは、4月~7月は8月に改定するための計算猶予期間中のなので、スタートが4月~7月の場合の比較対象する『翌年度』は、集計が間に合ってないので計算ができず、『翌々年度の平均給与額と比較します。』ということです。逆から見たら『前々年度』ですね。つまり、最初のスライド改定は、『3年度後の8月』ということになります。
休業給付日額との違いは、
①スライド率は、制限なく『完全自動賃金スライド制』となります。つまり、0.1%でも変動があれば改定します。
②常に比較の元は『給付事由発生年度』の平均給与額となります。改定があってもズレていくことはありません。ですから、結果として、改定すべき8月から見ての『前々年度』から『前年度』への平均賃金変動率を、毎年、乗じていくことになります。最初のスライドが『翌々年度の8月(発生月が4月から7月の場合は3年後の8月)』に行われた後は、毎年、スライド改定されていくというイメージです。
少しの変動でもスライド改定できるのは、休業給付基礎日額のスライド改定と違って、『全ての対象者に一律のスライド改定率を乗じたらいい』ため、事務手続きの負担が少ないためです。(注:筆者の感想なので、試験には出ません。)

3)一時金の給付基礎日額のスライド

まず『一時金』の意味ですが、『一時的に』仮払いとして支払うという意味ではなく、『いっとき』に全て支払って完結し、以後の給付はない。。。という意味です。もちろん、読み方は『いちじきん』なのですが、ここで意味を取り違えると後々にまで響きますので、しっかりとイメージを捕えましょう。
一時金たる保険給付の額の算定の基礎として用いる給付基礎日額についても、年金給付基準日額と同様のスライド改定されます。
一時金というと、すぐに給付を受けて終わりというイメージで、翌々年度の8月(給付事由発生日が4月から7月の場合は、3年度後の8月)にスライド改定される年金のようにはスライド改定の対象にはならないイメージですが、諸事情で給付までの期間が長期化した場合を想定した規定です。『(理論上減ることもありますが)もらうのが遅くなったので利息が付いた。』というイメージで大丈夫です。
【一時金】(詳細は、後日の記事で説明します。)
・障害(補償)等年金前払一時金(障害を負った当初に、治療や自宅の改修などで費用が掛かる場合を想定した、障害年金の一部を繰上げ支給してもらう制度です。)
・障害(補償)等一時金(比較的障害の程度の軽い(8級以上)場合は、年金ではなく一時金として1回給付を受けて完了となります。)
・遺族(補償)等前払一時金(大黒柱が亡くなり、残された遺族が、葬式や被相続人の残した借金返済、引っ越しなどで当座のお金が必要な場合を想定しています。)
・障害(補償)等年金差額一時金(上記の障害(補償)等前払一時金を枠一杯までもらって亡くなった場合ともらわなかった場合との差額の調整額のことです。)
・遺族(補償)等一時金(遺族(補償)等年金の受給権者がいない場合に、一定の遺族等に支給されるものです。)
・葬祭料等(葬祭給付) (葬祭給付は、複数業務要因災害と通勤災害の場合に支給される葬祭料の名称です。)

③年齢階層別の最低限度額・最高限度額

労災保険の保険給付は、長期にわたって行われる場合があるため、平均賃金が低額な若年時に被災した労働者の保険給付の額が生涯においてその低い額で据え置かれたり、逆に、平均賃金が高額な壮年時に被災した労働者の保険給付の額が老年に達してもなおその高い額のまま据え置かれたりすると、被災時の年齢による不均衡が生じることがあります。そこで、この不均衡を是正するため、給付基礎日額を5歳刻み年齢階層別に定めた最低限度額・最高限度額の範囲内に収めることとしています。
なお、この最低・最高限度額の設定は、厚生労働省において作成する『賃金構造基本統計』をもとに設定され、『その年の』8月から翌年7月まで用いる最低・最高限度額が毎年7月31日までに告示されます。スライド改定のように比べる対象がありませんし、支給対象者の年齢はすでに把握できていますので、前年度の賃金の集計が終ったらすぐに反映させるということです。
【最低・最高限度額一覧表】
詳細略。(お手持ちのテキストには掲載されていますので、そちらをご参照願います。ただし、まるまる覚えることはあまりにも費用対効果が悪すぎるのでしないでください。)
限度額の設定が『一番金額が高い』年齢階層が、
・最低限度額は45歳以上50歳未満の7,362円(令和5年8月適用分)
・最高限度額は55歳以上60歳未満の25,144円(同)※この『年齢階層がズレてるところ』が大事です。
と、『最高限度額の最低額』が、25歳未満と70歳以上の階層で同額の13,314円(このポイント、別の項目でも使います。)
ぐらいを押さえておけば十分かと思います。
金額は毎年変更されるので、金額そのものは試験では問われないと思います。

1)休業給付基礎日額に係る最低・最高限度額の適用

療養を開始した日から起算して1年6箇月を経過した日以降の日について支給される休業(補償)等給付に掛かる休業給付基礎日額については、年齢階層ごとに定められた最低・最高限度額の適用を受け、その範囲内に収められます。
具体的には、休業(補償)等給付を受ける労働者の各四半期の初日(基準日)ごとの年齢を年齢階層に当てはめ(つまり、毎月年齢を確認するわけではないということ。四半期ごとのスライド改定と連動しているため。)、その者の休業給付基礎日額がその年齢階層の最低限度額を下回る場合にはその最低限度額を休業給付基礎日額とし、逆に、その年齢階層の最高限度額を上回っている場合にはその最高限度額を休業給付基礎日額とします。
もし、その休業給付基礎日額についてスライド改定が行われた場合には、スライド改定後の給付基礎日額について最低・最高限度額が適用されます。先に限度額を適用してからスライド改定するわけではありません。そもそも、限度額の変更は平均賃金の変動が基礎になっているのに、その限度額に重ねて平均賃金の変動を掛けるのはおかしい話だと言えますよね。

2)年金給付基礎日額に係る最低・最高限度額の適用

年金たる保険給付を受給している者の年金給付基礎日額について、その当初から、年齢階層ごとに定められた最低・最高限度額(前出の休業給付基礎日額の最低・最高限度額と同じ額)の適用を受け、その範囲内に収められます。
具体的には、年金たる保険給付を受ける労働者の毎年8月1日(基準日)ごとの年齢を同日から1年間の年齢として、これを年齢階層に当てはめて適用します。実際の誕生月基準ではありませんので注意が必要です。
なお、保険給付には、被災労働者が亡くなった場合の遺族(補償)等年金もありますが、ここで用いる年齢階層は、その亡くなった労働者が『仮に生きていたとした場合』としての毎年8月1日(基準日)ごとの年齢を当てはめます。その年金を受給している遺族の年齢を年齢階層に当てはめるわけではありません。
なお、一時金については、その性格上、年齢による不均衡という概念が生じませんので、一時金には年齢階層別の最低・最高限度額は適用されません。


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