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社労士試験 予備校では教えないポイント解説 vol.064

労働者災害補償保険法(4)

保険給付Ⅰ

①保険給付の種類

労災保険法の保険給付は、大きく
・業務災害に関する保険給付
・複数業務要因災害に関する保険給付
・通勤災害に関する保険給付
・二次健康診断等給付(『給付』という名称にはなっていますが、これは『二次健康診断』と『特定保健指導』を指し、ともに『現物支給』なので、なにがしかの給付金がもらえるわけではありません。)
の4つから構成されています。
労災保険法本則で定められている保険給付は、以下の通りです。『本則で』とわざわざ注釈しているので、後の記事で説明しますが、別の規定による給付があり、被災労働者のリハビリや残された遺族等の就学支援などを行う『社会復帰促進等支援』と、主に賞与に対応する保険料を財源とする保険給付金の上乗せという意味合いの『特別支給金』があります。
・傷病(療養(補償)等給付、休業(補償)等給付、傷病(補償)等給付)
・障害(障害(補償)等給付)
・要介護状態(介護(補償)等給付)
・死亡(遺族(補償)給付、葬祭料(葬祭給付))
・脳血管・心臓疾患発生のおそれ(二次健康診断等給付)
なお、傷病補償年金、介護補償給付、二次健康診断等給付は、労働基準法等の災害補償制度には設けられていない、労災保険法独自の保険給付です。
なお、通勤災害や複数業務要因災害に関する保険給付は、業務災害に関する給付とほぼ同様の内容ですが、通勤災害は、労働基準法等に規定する災害補償の事由ではなく、使用者に補償責任はない(通勤途中の駅の階段から落ちても、使用者にしたら『知らんがな!』ですよね。)ことから、通勤災害に関する給付の名称については、『補償』という文字は用いられていません。(このポイントは試験上重要で、意図的に『通勤災害』とは書かずに、『●●給付』と表現してくることがあります。)また、複数業務要因災害に関しても、複数の就業先の業務上の負荷を総合して評価することにより認定されるものであり、それぞれの就業先の業務上の負荷のみでは業務と傷病等に因果関係が認められず、それぞれの就業先の使用者に補償責任はないことから複数業務要因災害に関する保険給付の名称についても、『補償』という文字は用いられていません。
ここで、私が社労士勉強初年度に理解しづらかったのが、『傷病補償給付』と『障害補償給付』の違いでした。今となっては間違うことはないのですが、名称が似ているので理解するのに苦労しました。
・『傷病』(補償)等給付…療養開始後1年6箇月経ってもまだ『治っていない』状態で、その時点で障害等級第3級以上に該当する場合に支給されるもの。前の記事で、休業給付の最低・最高限度額が支給開始から1年6箇月経過したら適用されるのは、この休業(補償)等給付から傷病(補償)等給付に切り替わるタイミングに合わせているということです。このタイミングで傷病(補償)等給付に切り替わらなかった場合でも休業(補償)等給付に最低・最高限度額が適用され、切り替わった者と切り替わらなかった者の均衡をとっているということです。
・『障害』(補償)等給付…傷病にかかり『治った』場合に、一定の障害が残った場合に支給されるもの。ここで『治る』とは、必ずしも『元通りになる』ということではなく、症状が固定化してこれ以上の治療を続ける必要がなくなった、又は、これ以上治療を続けても効果が期待できない状態をいいます。
【保険給付の請求】
『業務災害に関する保険給付(傷病補償年金及び介護補償給付を除く。)は、労働基準法に規定する災害補償の事由又は船員法に規定する災害補償の事由が生じた場合に、補償を受けるべき労働者若しくは遺族又は葬祭を行う者に対し、その請求に基づいて行う。』
つまり、請求しないともらえないということです。
上記規定で傷病補償年金と介護補償給付が除かれているのは、傷病補償年金は、休業補償給付を受けはじめて1年6箇月経ったら、職権で傷病補償年金の受給に該当するかどうかの判断がされ、該当していれば職権で支給が開始されるため、『請求』という概念がないためです。また請求することがないので、『時効』という概念もありません。また、介護補償給付は、必ず、傷病補償年金又は障害補償年金とセットとなるので、その年金の請求時に併せて請求するので、わざわざ介護補償給付だけを請求するというイメージがないためです。

②療養(補償)等給付

1)給付の種類

療養(補償)等給付は、療養の給付(『治療』という現物支給のこと)が原則とされていますが、それが困難な場合(労災指定病院が近くにない場合など)には療養の費用の支給(現金支給。病院窓口で支払った治療費の返金のこと。)が行われます。
労災保険が適用されると、全額労災保険から治療費が病院等に支払われ、その対象となった被災労働者の自己負担金はありません。ここが健康保険とは違うところですが、間違って(知らずに)健康保険の保険証を提示してしまって、3割の負担金を支払ってしまうことがよくあります。ここで、もし労災保険が適用されるのに間違って健康保険の保険証提示してしまって3割の自己負担金を支払ってしまった場合の処理の仕方を説明します。(以下、実務上の話なので試験には出ません。)
①まず、間違って使った保険証の健康保険の方に、残り7割を支払います(この時点で、労働者が全額負担していることになります。)。
②最初に病院でもらった3割分の領収証と①でもらった7割分の領収証とを併せて労災保険の方に請求する(これで10割全額が返ってきます。)。
病院側としては、すでに最初に労働者から支払ってもらった3割分と健康保険から支給された7割分で10割全額を受け取っていますので、何もすることはありません。
また似たような事案で、国民健康保険に入っていた方が会社勤めを始めたのに、なぜか国民健康保険の脱退の手続きをせずに、ご丁寧に保険料も支払っていたケースで、私傷病で病院に行って、またご丁寧に国民健康保険の保険証を出してしまったケースがあります(結構、あるそうです。)。この時の処理のとしては、
①まず、国民健康保険の方に7割分を支払う
②①でもらった領収証を本来負担すべきであった健康保険(協会健保又は組合健保)の方に提出してその7割分を返金してもらう。
ここで、自己負担の3割分はどちらの保険でも変わりありませんので全く関係ありませんし、病院側もすでに10割全額を受け取っていますので関係ありません。協会健保や組合健保側から国民健康保険側へ自動的に支払ってくれることもありません。
③国民健康保険を脱退し、余分に支払っていた保険料を返還してもらう。(2年間の時効があります。注意。)多分、①の処理をしていないと脱退の手続きはしてくれないと思います。
なお、労災保険が適用されるかどうかわからない場合でも、被災場所から、直接、車(救急車ならなお良し)で来院するなど『労災事故かもしれない』と推定される場合は、病院側は、一応、労災事故として扱い、後に労災事故と認定されなかった場合には、その時点で健康保険からの給付に切り替えるという扱いになります。

1.療養の給付

『療養(補償)等給付は、療養の給付とする。療養の給付は、社会復帰促進等事業として設置された病院若しくは診療所又は都道府県労働局長の指定する病院若しくは診療所、薬局若しくは訪問看護事業者(以下、『指定病院等』という。)において行う。』
つまり、条文上も、療養(補償)等給付は『療養の給付』として現物支給されるのが原則ということです。

2.療養の費用の支給

『政府は、療養の給付をすることが困難な場合又は療養の給付を受けないことについて労働者に相当の理由がある場合には、療養の給付に代えて療養の費用を支給することができる。』
つまり、療養の給付(現物支給)と療養の費用の支給(現金支給)のいずれを受けるのかが、労働者の選択に委ねられているわけではありません。
【療養の給付をすることが困難な場合】
・その地区に労災指定病院等がない場合
・特殊な技術又は診療施設を必要とする傷病の場合に、最寄りの労災指定病院等にこれらの技術又は施設の設置がなされていない場合
…等
【労働者に相当の理由がある場合】
・傷病が労災指定病院等以外の病院・診療所等で緊急な治療を必要とする場合
・最寄りの病院・診療所等が労災指定病院等でない場合
…等の事情がある場合をいいます。この『事情』は、できるだけ被災労働者に有利に広く解釈するという扱いになっています。ただし、『その被災労働者の行きつけの病院が、最寄りでもなく労災指定病院等でもないのに、わざわざその病院に行った』というケースは認められないようです。『選り好みしてる余裕があるやん。。。』ということですね。

2)給付の範囲

『療養の給付の範囲は、次の①から⑥(政府が必要と認めるものに限る。)による。』
①診察
②薬剤又は治療材料の支給
③処置、手術その他の治療
④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
⑥移送(この移送は、交通費の精算のことなので、現実上は、現物支給ではなく現金給付となります。)
【温泉療養】
治癒前に病院等の付属施設で医師が直接指導のもとに行うものについては給付の対象となります。

3)支給期間

療養の必要が生じたときから、傷病が治癒するか、又は被災労働者が死亡して治療を必要としなくなるまで支給されます。つまり、『何年間』という決められた期限はありません。
また、『治癒後』には、療養(補償)等給付や休業(補償)等給付や傷病(補償)等年金は支給されません。ただし、一定の障害が残った場合や被災労働者が死亡した場合には、次回以降の記事で説明する障害(補償)等給付や遺族(補償)等給付が支給されます。

4)請求手続

1.療養の給付に掛かる請求手続

療養の給付を受けようとする者は、所定の事項を記載した『療養(補償)等給付たる療養の給付請求書』を、当該療養の給付を受けようとする指定病院等を経由して、被災労働者の所属事業所(一括有期事業の場合は一括事業所たる事業所)を管轄する所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。指定病院等を経由するというのは、指定病院等は、健康保険ならば窓口で支払ってもらう3割分の負担金はもらってないので、その分も含めた10割全額の請求を掛けるため、『~療養の給付請求書』を添付する必要があるというイメージですね。

2.療養の費用の支給に掛かる請求手続き

療養の費用の支給を受けようとする者は、所定の事項を記載した『療養(補償)等給付たる療養の費用請求書』を、『(治療を受けた)病院等を経由せずに』直接、所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。病院等を経由しないのは、この場合、この治療を受けた病院は指定病院ではないということになりますので、恐らく、窓口で10割全額を支払ってもらってるので、病院側としては、もう関係がないということです。病院側は、労災保険が適用されると推定される場合は、健康保険を使わせてはくれませんが、もし間違って健康保険を使ってしまったら、上記の精算が必要となります。
指定病院等で治療を受けた場合でも、移送に要した費用があるときは、この費用は『療養の費用』として請求することになります。通院等に要した費用についても同様です。

3.事業主・診療担当者の証明

1.2.の請求書に記載する事項のうち、
・負傷又は発病の年月日(業務災害・通勤災害の場合)
・災害の原因及び発生状況(業務災害の場合)
などの事項については、事業主の証明を受けなければなりません。
ただし、複数事業労働者については、
・非災害発生事業場の事業主
・通勤災害に係る事業主以外の事業主
からは証明を受ける必要はありません。(この事業主は、証明のしようがありません。)
また、2.(療養の費用の支給)の請求書に記載する事項のうち、
・傷病名及び療養の内容
・療養に要した費用の額(原則)
については、診療担当者の証明を受けなければなりません。(診療した医師・病院等にしかわからないことです。)

5)療養給付の一部負担金

『政府は、次の①から④に掲げる者を除き、療養給付(『補償』が付いていないので、複数業務要因災害と通勤災害のことです。)を受ける労働者から200円(健康保険法に定める日雇特例被保険者である労働者については100円)を一部負担金として徴収する。』
額としては非常に少額なのですが、複数業務要因災害と通勤災害は元々補償の対象ではなかったところに追加で補償の対象としたので、均衡の観点から、少額ではあるものの一部負担金を徴収することにしています。もし(まず、ないとは思いますが)、療養費用総額が200円(日雇特例被保険者の場合は100円)に満たない場合は、その現に療養に要した費用の総額となります。
また、この一部負担金は、療養給付を受ける労働者に支給される休業給付であって、最初に支給すべき事由の生じた日に係るものの額から控除することにより行います。したがって、わざわざ負担金を支払うという手続きはありません。
①第三者の行為によって生じた事故により療養給付を受ける者(その労働者に責任はないため。)
②療養の開始後3日以内に死亡した者その他休業給付を受けない者(療養の開始後3日目までは、休業給付が支給されないので、控除のしようがないため。)
③同一の通勤災害に係る療養給付についてすでに一部負担金を納付した者(つまり、同一の通勤災害に係る給付については、『初回だけ』でいいということです。)
④特別加入者(保険給付を受ける者が労災保険料も個人負担しているため。)

③休業(補償)等給付

1)支給要件

『休業(補償)等給付は、労働者が業務上の事由、複数事業労働者の2以上の事業を要因とする事由又は通勤による負傷又は疾病に係る療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第4日目から支給するものとし、その額は、1日につき給付基礎日額の100分の60に相当する額とする。』
支給額が100分の60と、若干少ないように感じますが、所得税は非課税ですし社会保険料も控除されるわけではありませんので、手取り額としては、そんなに少ないわけではありません。また、後の記事で書きますが、社会復帰促進等事業として、さらに、『休業特別支給金』として、100分の20(定率)の上積み給付が支給されます。(つまり、足して100分の80となります。)
以下、上記条文を細かく見ていきます。(試験上も実務上も重要なポイントです。)

1.療養のためであること

休業(補償)等給付は、『療養』のために休業している場合でないと支給されません。したがって、治癒後の処置(いわゆる外科後処置)により休業している場合には、支給されません。

2.労働不能であること

『労働することができない』とは、必ずしも負傷直前の労働ができないという意味ではなく、一般的に働けないことをいいます。したがって、軽作業に就くことによって症状の悪化が認められない場合、あるいはその作業に実際に就労した場合には、労働不能とは認められません。ただし、通院等のため、所定労働時間の一部について労働する場合には、労働不能(一部労働不能)と認められることがあります。
複数事業労働者の場合は、すべての事業場における就労状況等を踏まえて判断します。例えば、複数事業労働者が、現に(その複数事業の内の)一の事業場において労働者として就労した場合には、原則、労働不能とは認められません。ただし、現に一の事業場において労働者として就労しているものの、(被災した)他方の事業場において通院等のため、(その複数事業の)所定労働時間の全部又は一部について労働することができない場合には、労働不能(一部労働不能)と認められることがあります。例えば、午前中がA事業場、午後からB事業場で働く労働者が、被災したA事業場のための通院のためにB事業も休まざるをえないケースが該当します。

3.賃金を受けない日であること

『賃金を受けない日』とは、賃金をまったく受けない日はもちろん、『平均賃金の60%未満(つまり、休業(補償)等給付の額未満)の金額しか受けない日』も含まれます(全部労働不能の場合)。
一部労働不能の場合は、働いた時間分の賃金は支払われなければなりませんので、所定労働時間の一部分について労働する場合は、『平均賃金と当該労働時間に対して支払われる賃金との差額(つまり『労働不能部分に対応する平均賃金』)の60%未満の金額しか受けない日』をいいます。労働基準法にはない考え方です。ちょっと分かりにくいですが、後述の、2)支給額2.を読めば判ります(?)。
・労働基準法…『1日分の賃金の60%よりも少ない額』を差額支給
・労災保険法…『働けなかった分の賃金の60%よりも少ない額』を差額支給
という意味合いです。計算すれば判りますが、労災保険法の方が、労働者が受け取る総額(実際に働いた部分の賃金+給付金額の合計額)が多くなります。(全部労働不能の場合は同額)
【計算例】(分かりやすくするためにキリのいい数字にしています。また賃金額=休業給付基礎日額としています。)※この計算例は後述の『支給額』の計算例にもなっています。
労働者のモデル:
・1日5時間勤務で1万円の賃金(1時間2000円)
・2時間働いたところで業務災害により被災し休業した。
・労働した分に相当する賃金は4000円(これは、必ず、支払わなければいけません。)
労働基準法の休業手当
10000✕0.6-4000=2000円
つまり、手取総額は、6000円
労災保険法の休業補償給付
(10000-4000)✕0.6=3600円
つまり、手当総額は、7600円
この違いは、労働基準法は『生活補償』、労災保険法は『事業主の償い』という意味合いの違いから来ているものです。

4.待機期間を満了していること

休業の最初の3日間は、待機期間(ホントに労災事故が起こったのかの確認期間という意味合いです。労災保険目当てであっても、さすがに3日間の無給期間は厳しいだろうということです。)とされ、休業(補償)等給付は支給されません。この待機期間は継続している必要はなく、また、その間に金銭を受けていても成立します。(ここが健康保険法とは違うところです。)
業務災害の場合(休業補償給付)の場合であれば待機の3日間について、原則として労働基準法の規定により事業主が休業補償を支払う義務があります。(つまり、その間に金銭を受けていても成立するということです。)試験上は、この取り扱いを、『休業給付(つまり通勤災害だとはわざと書かない)』は。。。と出してきて✕という問題となります。
また、休業(補償)等給付は、その支給要件に該当する限り、休日又は出勤停止の懲戒処分を受けた等の理由で雇用契約上の賃金請求権を有しない日についても支給されます。これは、事業主に懲罰的補償義務があるからというわけではなく、元々の休業給付基礎日額の計算は、賃金総額を、その間の出勤日数ではなく『暦日数』で除しているので、休日等も当然に受給する権利があるということです。

2)支給額

1.全部労働不能の場合

所定労働時間の全部(つまり、丸々1日)について労働不能である場合は、原則として、1日につき『給付基礎日額』の100分の60に相当する額が支給されます。
また、全部労働不能の場合であって金銭を受領した場合は、事業主から支払われた金額が平均賃金の60%未満であるときは、後記2.の部分算定日に該当する場合を除き、休業(補償)等給付の全額が支給され、当該額が平均賃金の60%以上である場合は、『賃金を受けない日』に該当しないため、全額が支給されません。『差額支給』ではないところに注意が必要です。ここも健康保険法とは違うところです。イメージとしては、労災保険料を支払っている事業主がさらに補償的給付をしているのに、労災保険が給付されない(減額されてしまう)のはおかしいということですね。

2.部分算定日の場合

(上記計算例参照)
所定労働時間のうちその一部分についてのみ労働する日若しくは賃金が支払われる休暇(以下『部分算定日』といいます。)又は複数事業労働者の部分算定日については、1日について『給付基礎日額から部分算定日に対して支払われる賃金の額(上記例の4000円)を控除して得た額(賃金を受けなかった部分に対応する給付基礎日額。上記例の6000円に相当する額)』の100分の60に相当する額(つまり3600円)が支給されます。
試験では、計算式で出される可能性が高いのですが、そんなに複雑な計算にならないので、ズバリ計算結果を選ばせる問題になるかもしれません。試験問題用紙の余白にはいくら落書きしてもいいのですから、計算問題といってもパニックにならずに落ち着いて解きましょう。落ち着いて解けば、完全に『サービス問題』です。
【最高限度額が適用されている場合】
①最高限度額の適用がないものとした給付基礎日額から部分算定日に対して支払われる賃金の額を控除して得た額
②①の額が最高限度額を越えるときは、最高限度額に相当する額
③②の額の100分の60に相当する額
が支給されます。最初の①の段階で最高限度額で頭打ちするわけではないということです。あくまでも『働けなかった部分』だけで見ての最高限度額ということです。

3)支給期間

休業の4日目から、休業日が継続していると断続しているとを問わず、実際の休業日について休業の続く間支給されますが、傷病(補償)等年金を受けることとなった場合は打ち切られます。傷病(補償)等給付は、長期化した休業給付が年金化したというイメージですので、給付の趣旨が同じ(生活補償)なので両方が併給されるということはありません。ここでの試験上での注意点は、療養(補償)等給付は、どちらとも併給されるということです。療養(補償)等給付は、『治療費』の補償だから、給付目的が違うからです。

4)休業(補償)等給付の支給制限

『労働者が次の①②のいずれかに該当する場合(厚生労働省令で定める場合に限る。)には、休業(補償)等給付は、行わない。』
①刑事施設、労役場その他これらに準ずる施設に拘禁されている場合
②少年院その他これに準ずる施設に収容されている場合
これは、別に懲罰的対応というわけではなく、単に、支給要件である『療養のため労働することができない』を満たしていないからです。どのテキストにも当たり前と思われるこの論点が記載されていますが、恐らく、『法の盲点』を突こうとして裁判となった事案があるのでは(?)だと思います。。。(筆者の想像です。)なお、刑事施設等内での療養は、国の負担で無償でおこなわれます。
【厚生労働省令で定める場合】
現に刑の執行を受けている場合等をいい、いわゆる未決勾留者は、(刑が確定していないので)支給制限の対象にはなりません。

④傷病(補償)等年金

1)支給要件

『傷病(補償)等年金は、業務上の事由、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要件とする事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかった労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後1年6箇月を経過した日において次の①②のいずれにも該当するとき、又は同日後次の①②のいずれにも該当することとなったときに、その状態が継続している間、当該労働者に対して支給する。』
①当該負傷又は疾病が治っていないこと
②当該負傷又は疾病による障害の程度が傷病等級(第3級以上)に該当すること
【支給決定手続】
『所轄労働基準監督署長は、療養開始後1年6箇月を経過した日において治っていない者から、その1年6箇月を経過した日以後1箇月以内に、『傷病の状態に関する届』を提出させ、職権により、傷病(補償)等年金を給付するか否かを決定する。』
つまり、傷病(補償)等年金は、労働基準監督署長の職権により支給が決定されるのであって、労働者の請求によって支給が決定されるわけではありません。したがって、時効という概念もありません。また、支給が否認された場合でも、引き続き休業(補償)等給付の要件に該当する限りは、休業(補償)等給付が支給されます。なお、傷病(補償)等年金の支給要件に係る『障害の程度』は、6箇月以上の期間にわたって存する障害の状態によって認定されます。
ちなみに、以上の認定が行われる前提として、当然に休業(補償)等給付がおこなわれていることになりますので、労働基準監督署長は、その事実を承知しているということになります。したがって、『傷病の状態等に関する届』を提出しなかった場合は、休業(補償)等給付も支給されません。『1年6箇月も療養すれば、さすがに治ってるだろう。。。』と捕らえられるということですね。

2)支給額

傷病(補償)等年金の支給額は、傷病等級に応じ、次の額とされています。
※下記の『第○級は●日分』という対応関係は、社会保険も含めてまったく同じ対応関係になりますので、第1級~第3級ぐらいは覚えておきましょう。また、『何の』●日分ということも重要です。
・傷病等級第1級…1年につき給付基礎日額の313日分
365日から1年間の日曜日の数(52日)を引いた日数と覚えましょう。テキストのどこにも書いてませんが、多分、そういう意味だと思います。
・傷病等級第2級…1年につき給付基礎日額の277日分
第1級との差が36日分なので、月3日分少ないということです。全体で隔週2日制の休みというイメージです。
・傷病等級第3級…1年につき給付基礎日額の245日分
第1級との差が68日分です。第1級の日数分から1年間の土曜日の数52日分と(近年祝日法の改定により制定された)『5月4日』を除く祝日の数16日分を引いたものだという意味だと思います。
語呂合わせで覚える方法もありますが、365日から、本来働かない日(つまり、賃金がもらえない日)の『日曜日』と『土曜日』と『祝日』の数を引くという考え方の方が、なんとなく理にかなっていると思いませんか?(笑) ※どこにも書いてません。筆者の勝手な推測です。もちろん試験に出る論点ではありません。
【障害の程度に変更があった場合】
傷病(補償)等年金を受ける労働者の当該障害の程度に変更があったため、新たに他の傷病等級に該当するに至った場合には、所轄労働基準監督署長の職権により、その翌月から、新たに該当するに至った傷病等級に応ずる傷病(補償)等年金が支給されます。

3)労働基準法の打切補償との関係

『業務上負傷し、又は傷病にかかった労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなった場合には、労働基準法の解雇制限の規定の運用については、当該使用者は、それぞれ、当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなった日において、同法の打切補償を支払ったものとみなす。』
つまり、この規定に該当した場合には解雇できるということです。打切補償は平均賃金の1200日分という、言うなれば『一時金』であるのに対して、傷病補償年金は、症状が支給要件に該当する限り永遠にもらえる年金だから『打切補償』と同等以上だという考えです。
ここで試験上重要なのは、『傷病補償年金』とさらっと書いてあることです。つまり『業務災害に限る』ということです。元々、複数業務要因災害や通勤災害には解雇制限が適用されません(つまり、使用者はいつでも解雇できる)ので、試験では、『傷病年金』を受給している労働者は。。。と出してきて、✕ということですね。

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