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社労士試験 予備校では教えないポイント解説 vol.059

労働安全衛生法(11)

面接指導等

今回は、面接指導とストレスチェックが主な内容です。ストレスチェックは比較的最近に導入されましたので、以前に社労士試験を勉強されていて、久しぶりに今回の記事を読まれた方は、初見の項目となるかもしれません。
ただ、ここも当たり前な内容ばかりなので、ストレスチェックを実施できる者(近年、増えています。)や記録保存期間を押さえておけば、試験に出ても、間違うところはないかと思います。

①面接指導の実施等

面接指導とは、問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて必要な指導を行うことをいいます。
長時間労働など過重な労働に従事する労働者の健康状態を把握し、適切な措置を講ずるようにするため、事業者は、一定の要件に該当する労働者に対し、医師による面接指導を実施しなければなりません。また、事業者は、これらの面接指導を行う労働者以外の労働者であって健康への配慮が必要なものについては、厚生労働省令で定めるところにより、必要な措置を講ずるように努めなければなりません。
この面接指導には、
・長時間労働者からの申出による面接指導
・研究開発業務従事者への面接指導
・高度プロフェッショナル制度の対象労働者への面接指導
があります。
試験上の留意点は、研究開発業務従事者も高度プロフェッショナル制度対象労働者も、一定の要件に該当すれば労働者からの申出がなくても面接指導を行わなければなりませんが、その一定の要件に該当していなくても一定以上の長時間労働者から疲労の蓄積があるという申出があった場合には、面接指導を行わなければなりません。当たり前なことなのですが、この点をうっかり勘違いして解答してしまうと致命的ですので注意しましょう。

1)長時間労働者からの申出による面接指導の実施

事業者は、その労働時間の状況その他の項目が労働者の健康の保持を考慮して定める一定の要件に該当する労働者(研究開発労働者業務従事者、及び高度プロフェッショナル制度の労働者を除く)に対し、当該労働者の申出により、医師による健康診断を行わなければなりません。
この『一定の要件』とは、休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が1月当たり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者であることとされています。(ただし、当該超えた時間の算定期日前1月以内に当該面接指導又は研究開発業務従事者への面接指導を受けた労働者などであって当該面接指導を受ける必要がないと医師が認めたものは除かれます。)
なお、産業医(✕医師、✕労働衛生指導医。試験上注意です。)は、この要件に該当する労働者に対して、面接指導の申出を行うよう勧奨することができます。
【超えた時間の算定】
毎月1回以上、一定の期日を定めて行わなければなりません。また、事業者は、超えた時間の算定を行ったときは、速やかに、その超えた時間が1月当たり80時間を超えた時間に関する情報を通知しなければなりません。
【疲労の蓄積】
労働者からの申出があれば、診断書等の特別な証明を求めず、疲労の蓄積があると取り扱うこととされています。

2)面接指導の事後措置等

1.医師からの意見聴取

『事業者は、前項の面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴かなければならない。』
【意見聴取の時期】
医師からの意見聴取は、面接指導が行われた後(労働者が事業者指定医師以外の医師の行う面接指導を受けたときは、当該労働者が当該面接指導の結果を証明する書面を事業者に提出した後)、遅滞なく行わなければなりません。

2.事後措置

『事業者は、前記の医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を勘案して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。』

3)面接指導の結果の記録

事業者は、前記面接指導の結果に基づき、当該面接指導の結果の記録(医師の意見記載も含む。)を作成して、これを5年間保存しなければなりません。
保存期間については、『3年間』というものが多いのですが、ここは『5年間』です。試験に出される可能性がありますので、ちゃんと押さえましょう。この5年間というのは、一般健康診断の結果の保存期間の5年間に合わせていると覚えておけば大丈夫です。
『3年間』というのは、短期債権の時効(民法の改正により、5年間、当分の間は3年間となった。)の規定から来ているものが多いです。健康診断は短期債権ではありませんので。。。

4.研究開発業務従事者への面接指導

労働基準法36条11項に規定する新技術・新商品等の研究開発業務に従事する者(同法,41条(管理監督者等の規定)により労働時間・休憩・休日の規定が適用除外となる者及び後記高度プロフェッショナル制度の対象労働者の面接指導の対象となる者を除きます。)について、休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間について、1月当たり100時間を超える場合には、事業者は、当該労働者からの申出がなくても、医師による面接指導を行わなければなりません。
なお、この場合の事後措置等及び結果の記録は、前記と同様ですが、前記の『就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜の回数の減少の措置』は、『就業場所の変更、職務内容の変更、有給休暇(労働基準法39条の規定による年次有給休暇を除く。)の付与、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置』と読み替えるものとされています。『研究開発業務』と職務が限定されているので、『作業の転換』ということができないためです。
また、過労死ラインと定められているのが『100時間』なので、ぴったり100時間は過労死基準に抵触します。三六協定では、特別条項であっても、休憩時間を除き週40時間を超えて労働させる時間は、1箇月100時間未満(三六協定の届出書には『分』を書く欄がないので、最大は99時間となります。)なのですが、この面接指導は『100時間を超える場合』となっていて、ぴったり100時間はセーフの扱いになっています。社労士試験では、『以上と超える』、『以下と未満』という引っ掛けは少ないので、ここを引っ掛けてはこないとは思いますが。。。
【1月当たり100時間に満たない場合】
研究開発業務に従事する労働者であって、上記の面接指導の対象となるもの以外のものであっても、休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた時間が1月当たり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者から申出があったときは、事業者は、1)の面接指導(長時間労働者からの申出による面接指導)を行わなければなりません。
まったくの挙げ足取りですが、ここの規定は『100時間に満たない』です。ということは、ぴったり100時間の場合は、強制的な面接指導にも、申出による面接指導にも、どちらにも入らない。。。ということになってしまいます。ですが、試験には出ない論点ですので、さらっと流してください。。。ぴったり100時間の場合の取り扱いは、過労死ラインが100時間なのですから『強制的』な面接指導の方に入ると考えるのが自然かと思います。

5)労働時間の状況の把握

事業者は、前記1)又は4)の面接指導を実施するため、タイムカードによる記録、パーソナルコンピューター等の電子計算機等の使用時間の記録等の客観的な方法により、労働者(下記、高度プロフェッショナル制度の対象労働者の面接指導の対象となる者を除きます。)の労働時間の状況を把握しなければなりません。
また、事業者は、これらの客観的な方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければなりません。ここは『5年間』ではなく『3年間』です。これは、面接指導後『5年間保存』というのと趣旨が違って、疲労の蓄積により退職を選択した労働者の『未払残業代』の短縮債権の時効3年間という意味合いと考えて大丈夫です。

6)高度プロフェッショナル制度の対象労働者への面接指導等

労働基準法第41条の2.1項に規定する高度プロフェッショナル制度の対象労働者であって、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた時間について、1月当たり100時間を超えるものに対し、事業者は、当該労働者からの申出がなくても、医師による面接指導を行わなければなりません。
なお、この場合の事後措置等及び結果の記録は、前記2)と同様ですが、前記の『就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置』は、『職務内容の変更、有給休暇(労働基準法39条の規定による年次有給休暇を除く。)の付与、健康管理時間が短縮されるための記録等の措置』と読み替えるものとされています。ここも高度プロフェッショナル制度の対象労働者と職務が限定されており、職務に附随して深夜業が常となることも多いので、この読み替えとなります。また、『労働時間』という概念はなく『健康管理時間』として管理されているので、表現も『健康管理時間』となっています。
また、ここも『100時間に満たない場合』としての規定で、労働者からの申出があれば(前記のように『80時間を超えて』という下限規定はありません。特にその趣旨は書かれていませんが、高度プロフェッショナル制度の対象労働者は、深夜業の制限もないので疲労の蓄積が起こりやすいからだと思います。)、事業者は、当該面接指導を行うよう努めなければなりません。ここもぴったり100時間の場合はどちらにも入らないという問題点はありますが、ここも、過労死ラインが100時間ということを鑑みて、強制的な面接指導が行われるということで大丈夫かと思います。
また、4)の研究開発業務従事者の面接指導と6)の高度プロフェッショナル制度の対象労働者の面接指導を行わなかった場合、ともに、事業者に対して罰則(50万円以下の罰金)が課されます。

②心理的な負担の程度を把握するための検査等

1)ストレスチェックの実施

事業者は、常時使用摩する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、医師、保健師又は厚生労働大臣が定める研修を修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士若しくは公認心理師(以下、『医師等』といいます。)による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を行わなければなりません。
なお、検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはなりません。ただ、この『監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない』という趣旨は、そもそもストレスチェックの回答項目は、会社や上司、同僚に対する不満や批判といった内容も含まれるため、『このストレスチェックの回答は、◯◯のものだ』と把握されてしまうことを労働者が恐れて、正確な回答がされないということを防ぐためであり、ストレスチェックの回答がまだである労働者に対して、ストレスチェックの回答を促すことまでは禁止されていないという解釈になっています。
また、使用する労働者が常時50人未満の事業場については、当分の間『行うよう努めなければならない(努力義務)』とされています。つまり、使用する労働者が常時50人以上の事業場については、強制的義務ということになります。
【ストレスチェックの費用負担等】
ストレスチェックに要する費用は、一般健康診断と同じ趣旨(労働者の心の健康は、会社のため)で、事業者負担となります。また、恐らくストレスチェックの回答には1~2時間は要すると思いますが、原則的には特に労働時間として扱わなくてもよいことになっていますが、一般健康診断と同じく、労働時間中に行うことが望ましいとされています。そもそも『労働時間が終わってから回答しろ』ということそのものがストレスになってしまいますから。。。

2)ストレスチェックの事後措置

1.労働者への通知

事業者は、ストレスチェックを受けた労働者に対し、当該検査を行った医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければなりません。
この場合において、当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはなりません。
また、事業者は、労働者の同意を得て当該検査を行った医師等からその検査の結果の提供を受けた場合には、当該検査の結果に基づき、当該検査の結果の記録を作成して、これを5年間保存しなければなりません。この『5年間』というのは、一般健康診断の結果の保存期間の5年間とリンクしていると考えて大丈夫です。

2)面接指導の実施

上記の通知を受けた労働者であって、心理的な負担の程度が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当するもの(検査の結果、心理的な負担の程度が高い者であって、面接指導を受ける必要があると当該検査を行った医師等が認めたものをいいます。)が医師による面接指導を受けることを希望する旨を申し出たときは、事業者は、当該申出をした労働者に対し、医師による面接指導を行わなければなりません。
この場合において、事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取り扱いをしてはなりません。

3)面接指導の事後措置

面接指導を実施した事業者は、前記①2)と同様に、その結果に基づき、医師の意見を聴いた上で、必要があると認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置その他の適切な措置を講じなければなりません。
【医師が確認する事項等】
ストレスチェックにおける検査項目のほか、当該労働者の勤務の状況、心理的な負担の状況及び心身の状況です。
また、この事業者による医師からの意見聴取は、面接指導が行われた後、遅滞なく行わなければなりません。

3)面接指導の結果の記録等

1.面接指導の結果の記録

事業者は、面接指導の結果に基づき、当該面接指導の結果の記録を作成して、これを5年間保存しなければなりません。
この『5年間』は、前記ストレスチェックの結果の保存期間に合わせたものです。

2.検査結果の報告

常時50人以上の労働者を使用する事業者は、1年以内ごとに1回、定期に、心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)結果等報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。
『50人以上』という要件は、ストレスチェックの強制的実施義務の発生や、産業医、衛生管理者の選任義務発生の要件と同じです。したがって、『ストレスチェックを実施していない』となれば、これを、労働基準監督署長が把握することは難しくありません。


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