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社労士試験 予備校では教えないポイント解説 vol.050

労働安全衛生法(2)

安全衛生管理体制 Ⅰ(その1)

ⅠとⅡの記事の内容の違いは、Ⅰは全産業、Ⅱは(労災事故の多い)建設業と造船業(主に建設業)に特化した規定です。
また、似たような名前の人がたくさん登場しますので、頑張って仕分けましょう。ポイントは『管理者』と付くか付かないかで仕分けたら分かりやすいかと思います。『管理者は管理する人だから責任も重いので、選任の届出も必要。。。』という感じです。
※ Ⅰ は、記事が長文になりそうなので、二分割しました。

①総括安全衛生管理者

労働安全衛生法では、労働者の安全と健康を確保するため、事業場ごと、あるいは建設現場等の場所ごとに、事業者に対して安全衛生体制を確立することを義務付けています。
まず全産業に共通する事業場ごとの安全衛生管理体制をみます。大事なのは、事業の規模によって、管理体制も変わるということです。大きな規模の事業を基本に考えると、小さな規模の事業の管理体制も理解しやすいです。
大きな規模の事業では、
まず、事業者(社長クラス)が、総括安全衛生管理者(現場責任者。現場監督ではない。決裁権のある支社長や支店長クラスのことです。)を選任しますが、総括安全衛生管理者である支社長等は現場ごとの安全衛生には詳しくないので、安全に関しては、一定の資格と経験のある安全管理者が、衛生に関しては、これも一定の資格と経験のある衛生管理者が担当することになります。そして、事業者から選任された産業医が、全体の健康管理を担うという形が基本です。産業医の格付けは、安全管理者や衛生管理者よりはやや上という格付けです。ですから、産業医からの意見申し立ては、事業者や総括安全衛生管理者に対しては『勧告』、安全管理者や衛生管理者に対しては『指導・助言』という上から目線(笑)の表現となります。

1)選任規模

『事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は救護に関する技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、安全衛生に関する業務を統括管理させなければならない。』
試験でのポイントは、多分、『総括』安全衛生管理者なのに、『統括』管理させなければならない。。。という部分だけですね。
また、試験には出ないと思いますが、『救護に関する技術的事項を管理する者』。。。と、かなり回りくどい言い回しの部分については、労働安全衛生法の次の条項から読み取ることができます。

(救護に関する訓練)
第二十四条の四 事業者は、次に掲げる事項についての訓練を行わなければならない。
一 (省略)
二 救急そ生の方法その他救急処置に関すること。
三 前二号に掲げるもののほか、安全な救護の方法に関すること。
(省略)

(救護の安全に関する規程)
第二十四条の五 事業者は、第二十四の三第二項各号の区分に応じ、当該各号に掲げる時までに、労働者の救護の安全に関し次の事項を定めなければならない。
(省略)
 
(救護に関する技術的事項を管理する者の選任)
第二十四条の七 法第二十五条の二第二項の規程による救護に関する技術的事項を管理する者の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 (省略)
二 その事業場に専属の者を選任すること。
(省略)

(救護に関する技術的事項を管理する者の資格)
第二十四の八 法第二十五条の二第二項の厚生労働省令で定める資格を有する者は、次の各号の区分に応じ、当該各号に掲げる者で、厚生労働大臣の定める研修を修了したものとする。
一 令第九条の二第一号に掲げる仕事 三年以上ずい道等の建設の仕事に従事した経験を有する者
二 令第九条の二第二号に掲げる仕事 三年以上圧気工法による作業を行う仕事に従事した経験を有する者

となっていますので、以後の記事内で出てくるずい道(トンネルのこと)をカッターで掘り進める工事や圧気工法(トンネルが崩れないように気圧を保って膨らませる工法)にたずさわる、要は、トンネル工事を指していることがわかります。トンネル工事の崩落事故や坑内火災では、『救助に行った人が、続発した崩落に巻き込まれてしまう、一酸化炭素中毒になって死亡してしまう。。。』ということがあるので、こういう規程があるのです。
【選任義務の生ずる事業場の規模】
1.林業、鉱業、建設業、運送業及び清掃業(この清掃業は、ビルの窓の清掃業を指します)(いわゆる屋外的事業)…常時100人以上
2.製造業(物の加工業を含む)、各種小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業など(一部省略)(ゴルフ場業が入っていますが、主に屋内的事業)…常時300人以上
3.その他の業種(主に事務的な業種や金融業、不動産業など)…常時1000人以上
この人数要件は学習上大事ですが、『ソースかつ食べていざ戦場へ』という語呂合わせでほとんどの受験生が覚えているので、100、300、1000という数字そのものは問われないと思いますが、他の管理者や産業医等との人数要件の関係がややこしいので、例えば、
・『深夜業務のある常時600人の建設業』の管理体制はどれが正しいか?
という具体例を出してくる可能性は高いです。
また、安全衛生管理体制の学習のトップで総括安全衛生管理者を習うので、総括安全衛生管理者は『絶対的に必要』というイメージを持ってしまいますが、そんなことはなく、安全管理者と衛生管理だけでOK(もっと小さい規模ならそれも不要)の事業場もあります。
【派遣労働者】
派遣労働者がいる場合の『常時使用する労働者数』の算定に当たっては、次の通りの扱いです。
・総括安全衛生管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、衛生推進者及び産業医の選任、並びに衛生委員会の設置…派遣先、及び、派遣元の事業場ともに、それぞれ派遣中の労働者を含めて算定します。産業医以外は、すべて『衛生』という語句が含まれていますので覚えやすいです。派遣中の労働者でも、なんかの用事で派遣元の会社に立ち寄ってトイレに行くだろう。。。というイメージで十分です。
・安全管理者の選任及び安全委員会の設置…派遣先の事業場のみに含めて、派遣元においては含めません。危険があるのは派遣先だからです。『衛生』という語句が含まれていませんので覚えやすいです。

2)職務

総括安全衛生管理者は、安全管理者、衛生管理者及び救護に関する技術的事項を管理する者の指揮をするとともに、安全衛生に関する業務を統括管理しなければなりません。
ざっくりとした規定ですが、具体例には、
1.労働者の危険又は健康障害を防止する措置
2.労働者の安全又は衛生のための教育の実施
3.健康診断の実施その他健康の保持推進のための措置
4.労働災害の原因の調査及び再発防止対策
5.労働災害を防止するための必要な業務で厚生労働省令で定めるもの(安全衛生に関する方針の表明、危険性又は有害性等の調査、表示対象物及び通知対象物による危険性又は有害性等の調査並びにこれらの結果に基づき構ずる措置等)
(規則3の2)
です。試験には出ないか、出ても正誤判断を誤るようなところではないのですが、上記を見たら判るように、ほとんどの事案が、技術的・知識的に、相当なレベルを必要としますので、ほとんど外注になるようなことばかりです。つまり、費用が掛かるわけなので、そういう観点からも、総括安全衛生管理者は、お金を動かす決済権限を持った人である必要があるわけです。

3)資格

総括安全衛生管理者は、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者をもって充てなければならなりません。
要は、上記のようにお金を動かす決済権限が必要だからですが、逆に、特段の免許や資格・経験を有する必要はありません。
また、事業者は、総括安全衛生管理者が旅行、疾病、事故その他やむを得ない事由によって職務を遂行することができないときは、代理者を選任しなければなりません。

4)行政庁の勧告

都道府県労働局長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは総括安全衛生管理者の業務の執行について事業者に勧告することができます。
試験上は、主語と目的語の『都道府県労働局』(✕厚生労働大臣)が『事業者』(✕総括安全衛生管理者)にというところがポイントです。つまり、総括安全衛生管理者の業務の執行に問題があっても、その総括安全衛生管理者には、直接言わないということです。

②安全管理者

1)選任規模

事業者は、①『総括安全衛生管理者』1)1.2.の業種(つまり、事務的な業種以外)の事業場で、常時50人以上の労働者を使用するものにあっては、その事業場ごとに安全管理者を選任しなければなりません。
ただし、次に説明する衛生管理者とは違って、規定内で『何人』という定めはありません。『事業者の判断で、必要な人数選任しなさい。』という趣旨です。また、この規定で判るように、屋外的な業種の事業場でも、常時50人~99人までの事業場は、この安全管理者の選任はしなくてはいけませんが、総括安全衛生管理者の選任は不要です。

2)職務等

安全管理者は、総括安全衛生管理者が統括管理する業務のうち、安全に係る技術的事項を管理するとともに、作業場等を巡視し、設備、作業方法等に危険なおそれがあるときは、直ちに、その危険を防止するために必要な措置を構じなければなりません。
また、事業者は、安全管理者に対し、安全に関する措置をなし得る権限を与えなければなりません。
なお、上記のように、安全管理者には、作業場の巡視義務が課せられていますが、規定内では、その頻度についての規定はされていません。『安全管理者の判断で必要な頻度でしてください。』ということですが、趣旨としては『毎日してください。』ということです。後述しますが、安全管理者は、その事業場に常駐しているはずですから、『毎日、巡視できるでしょ?』ということです。
労働基準監督署長(✕都道府県労働局長)は、労働災害を防止するために必要があると認めるときは、事業者に対し、安全管理者の増員又は解任を命ずることができます。(法11-Ⅱ)なお、衛生管理者についても同様です。

3)資格

安全管理者は、次のいずれかの資格を有する者でなければなりません。
1.次のいずれかに該当する者で、厚生労働大臣が定める研修を終了した者
・大学又は高等専門学校における理科系統の正規の課程を修めて卒業した者等で、その後2年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの
・高等学校又は中等教育学校において理科系統の正規の学科を修めて卒業した者で、その後4年間以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの
2.労働安全コンサルタント
3.その他厚生労働大臣が定める者
安全管理者は、この安全衛生管理体制を構成する人の中で、恐らく、一番、資格要件のハードルが高いと思います。難易度でいえば産業医がの方が上だと思いますが(産業医は、そもそもお医者さんである必要がある)、『理系の大学・高等学校等を出ること+実務経験』ですから、入社した段階で資格要件が絶対的にない人もいるわけですし、会社も、最初から『安全管理者にしよう』と職務を限定して採用しているわけではないでしょうから、対象人数が少ないです。だから、前述の規定で、安全管理者には人数要件がないものと理解できます。

4)専属

安全管理者は、その事業場に専属の者を選任しなければなりません。ただし、2人以上の安全管理者を選任する場合において、当該安全管理者の中に労働安全コンサルタントがいるときは、当該労働安全コンサルタントのうち1人については、事業場に専属の者でなくても差し支えありません。
ただし書き以後が分かりにくいのですが、要は、
・安全管理者が1人のときは、それが労働安全コンサルタントであっても、絶対的に専属であること。
・安全管理者が2人以上のときは、その中に労働安全コンサルタントの人がいたら、その内の1人だけは専属でなくてもいい。逆にいえば、労働安全コンサルタントが2人以上だったら、最低限、専属でないとされたその1人以外は専属である必要がある。
ということです。
外部の労働安全コンサルタントに安全管理者を委任するのは費用が掛かりますから、通常、そんなにたくさんの労働安全コンサルタントに安全管理者を委任することはないと思いますし、労働安全コンサルタント側としましても、『できればいくつかの事業場を兼任したい』というのが本音でしょうから、双方の利害関係がマッチした規定となっています。

5)専任

以下の事業場では、安全管理者のうち少なくとも1人を専任の安全管理者としなければなりません。
1.建設業、有機化学工業製品製造業、石油製品製造業…常時300人以上
2.無機化学工業製品製造業、化学肥料製造業、道路貨物運送業、港湾運送業…常時500人以上
3.紙・パルプ製造業、鉄鋼業、造船業…常時1000人以上
4.過去3年間の労働災害による休業1日以上の死傷者の合計が100人を超える上記1.~3.以外の安全管理者を選任すべき業種の事業場…常時2000人以上
もう覚えるしかないですが、コストパフォーマンスは低いですので、建設業が1.(300人以上)、造船業が以外に緩くて3.(1000人以上)、全体的には、火災が起きやすそうなものや工場が大型化(○○プラントという感じ)しそうなものが上位。。。という感じだけで十分だと思います。『大型化』という意味では、造船業は、事業場の大きさは、ほぼイコール『船の大きさ』ですので、そんなに大きな事業場にはならないので3.の扱いということで理解できます。
試験に出てくるのは、他に特別な取り扱いのある建設業と造船業の可能性が高いので、その2つだけ(300と1000)は押さえおきましょう。

【専属と専任】
この意味の違いは、さらっと逆に出されて✕という出し方をされますので、試験中に読み飛ばしのないようにしてください。ちゃんと読めば、間違うことはありません。
専属…その事業場のみに勤務すること。
つまり、労働安全コンサルタントとしたら、収入源が1箇所しかないということです。
専任…専属+通常の勤務時間をもっぱらその業務に費やすこと。
労働安全コンサルタントでしたらその業務の専門家ですからその扱いには問題はないでしょうが、その会社の社員だったら、他の業務はしてはいけないということですので、使用者としても考えるところですね。

③衛生管理者

1)選任規模

事業者は、すべての業種において、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに、事業場の規模に応じて、以下の人数の衛生管理者を選任しなければなりません。
・常時50人以上200人以下…1人以上
・常時200人を超え500人以下…2人以上
・常時500人を超え1000人以下…3人以上
・常時1000人を超え2000人以下…4人以上
・常時2000人を超え3000人以下…5人以上
・常時3000人を超える場合…6人以上
試験には、『常時1500人の事業場は衛生管理者は何人必要か?』というような出題のされ方をすると思います。最初の50人のラインは(正当率が高くなるので)問われることはないと思います。こういう『以上』か『超える』かも覚えなければならない場合は覚える量も多いので、ここは、
・1001人は4人
・3001人は6人
とだけ覚えておけば、あとは山勘でなんとかなると思います。これだと、『常時800人だと3人かな?』って正解を出せます。
また、この衛生管理者の人数要件に限らず、500とか1000といったピッタリ数字の『境目』は、事業者側(又は労働者側)に有利な取り扱いなら有利な方に『入る』、不利(又は手続きがめんどくさいようなこと)な扱いならば不利な方には『入らない』で、大体あってます。上の例だとピッタリ1000人だったら4人ではなく事業者側に有利な下の区分に入って3人となります。この扱いではなかったら、届出には『998人』とか、いかにも嘘っぽい数字を書かないといけませんし、そもそも、毎日、多少の増減があるのは常ですから『大体1000人だから衛生管理者は3人』としたいところです。
【共同選任】
都道府県労働局長は、必用であると認めるときは、地方労働審議会の議を経て、衛生管理者を選任することを要しない2以上の事業場で、同一の地域にあるものについて、共同して衛生管理者を選任すべきことを勧告することができます。

2)職務等

衛生管理者は、総括安全衛生管理者が統括管理する業務のうち、衛生に係る技術的事項を管理するとともに、少なくとも毎週1回作業場等を巡視し、設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防るため必用な措置を構じなければなりません。
また、事業者は、衛生管理者に対し、衛生に関する措置をなし得る権限を与えなければならないとされています。
安全管理者の巡視頻度は規定されていない(できれば毎日巡視してほしいというのが法趣旨)のに対し、衛生管理者の巡視頻度は『週に1回』と規定されています。清掃や整理整頓は、1日や2日では、そんなには乱れないので、週に1回ぐらいが妥当だろう。。。ということです。それに対し、安全は、いつでも危ないものは危ないので、できれば毎日巡視してほしい。。。ということです。(繰り返しになりますが、安全管理者の巡視頻度は規定されていません。)

3)資格

衛生管理者は、次の資格を有する者のうちから選任しなければなりません。
1.都道府県労働局長の免許(第1種衛生管理者免許、第2種衛生管理者免許)
※(覚える必用はありませんが)第1種衛生管理者免許でなければいけないのは(第1種の方が上位資格)、総括安全衛生管理者が100人以上又は300人以上で選任が必用とされる業種と農林水産業(林業は元々入ってます)+医療業です。残る事務的事業は、第2種衛生管理者免許でもいいです。
2.医師又は歯科医師
3.労働衛生コンサルタント
4.その他厚生労働大臣の定める者
安全管理者と違って『理科系の学校卒業』という要件がないので、事業者は必要な場合、誰かに白羽の矢を立てて衛生管理者免許を取らせることができますので、逆に人数要件があるということになります。
ちなみに、第1種衛生管理者試験も第2種衛生管理者免試験も、最終学歴により、次の期間の労働衛生の実務経験が必要です。
・大学または高等専門学校卒業…1年
・高等学校卒業…3年
・中学校卒業…10年
第1種の合格率は40%台で、合格者数年間で17000人前後
第2種の合格率は50%台で、合格者数年間で30000人前後(前が多い)
です。(合格率・合格者数は、年によって変わります。)
実務経験が必要なので、誰でもというわけではありませんが、次の記事で書きますが、職場で『安全パトロール』などと称する巡回があると思いますが、その巡回チームに入っていれば、実務経験は満たしていけるかと思います。したがって、部署的には『総務部』とか『施設管理部』等の人が該当するかと思います。

4)専属

衛生管理者は、その事業場に専属の者を選任しなければなりません。ただし、2人以上の衛生管理者を選任する場合において、当該衛生管理者の中に労働衛生コンサルタントがいるときは、当該労働衛生コンサルタントのうち1人については、事業場に専属の者でなくても差し支えありません。(労働安全コンサルタントと扱いは同じです。)
【他の事業場に派遣中の労働者】
派遣中の労働者は『専属の者』には該当しませんので、原則は派遣先の事業場の衛生管理者にはなれません。ただし、第2種衛生管理者免許でも衛生管理者として選任することができる(事務的な)業種であれば、(当然、最低でも第2種衛生管理者免許を持っていることとして)衛生管理者及び(次の記事で説明する)衛生推進者については、危険要因が少なく、派遣中の労働者であっても衛生管理に関して適切な措置を構ずることができる場合は、『専属の者』に該当するとして、衛生管理者や衛生推進者への選任ができます。

5)専任

次の事業場では、衛生管理者のうち少なくとも1人を専任の衛生管理者としなければなりません。
1.常時1000人を超える労働者を使用する事業場
2.常時500人を労働者を使用し、かつ、一定の有害業務に、常時30人以上の労働者を従事させる事業場
【一定の有害業務】
(以前の記事で説明した)1日につき2時間を超えて時間外労働をさせることのできない坑内労働その他健康上特に有害な業務。
ただし、『深夜業』が含まれないことは、次項の産業医との比較で注意を要します。

④産業医

1)専任規模

事業場は、すべての業務において、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに産業医を選任しなければなりません。また、常時3000人を超える労働者を使用する事業場においては、2人以上の産業医を選任する必要かあります。
つまり産業医が2人いる事業場には、衛生管理者が6人以上必ずいるということです。(セットで覚えましょう。)
産業医の選任義務のない事業場では、事業者は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師等に労働者の健康管理の全部叉は一部を行わせるように努めなければなりません。
産業医が行うべき具体例事項は次の通りです。
1.健康診断の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置
2.面接指導の実施及びこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置
3.ストレスチェックの実施並びにストレスチェック後の面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置
4.作業環境の維持管理
5.作業の管理
6.その他労働者の健康管理
7.健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増を図るための措置
8.衛生教育
9.労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置であって医学に関する専門的知識を必要とするもの
※治療行為が入ってないことに注意が必要です。産業医がいる『健康管理室』などでの治療行為は禁止されています。

2)職務等

1.基本的職務等

産業医は、労働者の健康管理等を行うとともに、少なくとも毎月1回作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を構じなければなりません。なお、作業場等の巡視については、産業医が、事業者から、毎月1回以上、次に掲げる事項について情報の提供を受けている場合であって、事業者の同意を得ているときは、少なくとも2月に1回行えば足ります。
・衛生管理者が毎週行うものとされている巡視の結果
・上記のほか、労働者の健康障害を防止し、又は労働者の健康を保持するために必要な情報であって、衛生委員会又は安全衛生委員会(※次回の記事)における調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの
巡視の頻度は、以前は『毎月』という頻度しかなかったのですが、専属とされた産業医を除き、産業医のもともとの職務である医師としての仕事が忙しいので。。。という要望(?)から、条件付きで『2箇月に1回』ということが認められました。
なお、産業医には『専任』という概念はありません。産業医は専門職だからです。
事業者は、産業医に対し、労働者の健康管理等をなし得る権限を与えなければなりません。また、事業者は、産業医に対し、厚生労働省令で定めるところにより、労働時間に関する情報その他産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報を提携じなければなりませんなりません。
産業医の意見には、何かと費用が掛かる事項も多いので、事業者に対して、産業医がその職務を行う上で必要な権限等を与えることを法律で規定しているのです。
【厚生労働省令により産業医に提供すべき情報】
1.健康診断実施後の措置又はストレスチェックの結果に基づく面接指導実施後の措置の規定により既に構じた措置又は構じようとする措置の内容に関する情報(これらの措置を構じない場合にあっては、その旨及びその理由)
2.休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間(高度プロフェッショナル制度の対象労働者においては、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間)が1月当たり80時間を超えた労働者に係る当該超えた時間に関する情報
3.上記のほか、労働者の業務に関する情報であって産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要と認めるもの

2.勧告等

産業医は、次のような勧告、指導又は助言をすることができます。なお、産業医は、事業者に下記の勧告をしようとするときは、あらかじめ、当該勧告の内容について。事業者の意見を求めるものとされています。
勧告には強い権限がある一方、その勧告に対する措置には費用が掛かる場合が多い(例えば、屋外に喫煙所を設ける等の勧告)こととのバランスを取った扱いです。
1.産業医は、労働者の健康を確保するために必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすらことができ、事業者は、当該勧告を受けたときは、これを尊重しなければならない。
2.産業医は、自己の職務に関する事項について、総括安全衛生管理者に対して勧告し、又は衛生管理者に対して指導し、若しくは助言することができる。
指導、助言の対象に安全衛生推進者、衛生推進者が入ってないのは、安全衛生推進者や衛生推進者は、50人未満の事業場が対象であり、産業医の選任義務がないので、両立しないからです。
事業者は、勧告を受けた後、遅滞なく、当該勧告の内容及び当該勧告を踏まえて構じた又は構じようとする措置の内容(措置を構じない場合にあっては、その旨及びその理由)を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければなりません。また、事業者は、産業医が事業者に対して勧告をしたこと又は総括安全衛生管理者、衛生管理者に対して勧告、指導若しくは助言したことを理由として、産業医に対し、解任その他不利益な取り扱いをしないようにしなければなりません。

3.資格

産業医は、医師であって、労働者の健康管理を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければなりません。
また、産業医は、次に掲げる者(1.及び2.については、その事業場の運営について利害関係を有しない者を除きます。)以外の者のうちから選任することとされています。
1.事業者が法人の場合にあっては、当該法人の代表者
2.事業者が法人でない場合にあっては、その事業を営む個人
3.事業場において、その事業の実施を統括管理する者
前述の不利益取扱いの禁止もそうですが、産業医と事業者等は、健康維持・増進等の対策のための費用をめぐって利害が対立するので、兼任を禁止しているのです。
【厚生労働省令で定める要件を満たした者】
1.労働者の健康管理等を行うために必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了じた者
2.産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であって厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であって、その大学が行う実習を履修したもの
3.労働衛生コンサルタント試験にした者で、その試験の区分が保険衛生である者
…等

4.専属

次の事業場においては、その事業場に専属の者を産業医として選任しなければなりません。
1.常時1000人以上の労働者を使用する事業場
2.一定の有害業務に、常時500人以上の労働者を従事させる事業場
【一定の有害業務】
衛生管理者の選任に掛かる有害業務(労働基準法36条に規定されている『1日につき2時間を超えて時間外労働をさせることができない有害業務』)のほか、
・深夜業を含む業務
・水銀、ヒ素、黄りん等の有害物を取り扱う業務
・病原体によって汚染のおそれが著しい業務
試験上での注意事項は、次の一点のみです。後は正誤判定を間違うことはないかと思います。
・『深夜業』が衛生管理者の専任判定の『健康上特に有害な業務』には入らないが、産業医の専任判定には入るということです。深夜業をしてもトイレの衛生管理には影響ないですが、健康管理には影響がある。。。という理解で大丈夫です。

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