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社労士試験 予備校では教えないポイント解説 vol.051

労働安全衛生法(3)

安全衛生管理体制 Ⅰ(その2)

(その1)より小規模な事業場と各委員会等を見ていきます。
今回の記事の内容は、一度さらっと見れば、試験では正誤判定を間違うことはないかと思いますので、気楽に読んでいって下さい。出てくる『数字』だけは確実に押さえておきましょう。

①安全衛生推進者・衛生推進者

1)選任規模

事業者は、安全管理者の選任を要する事業場及び衛生管理者の選任を要する事業場以外の事業場で、使用する労働者の数が10人以上50人未満の事業場ごとに、安全衛生推進者((人数が多ければ)安全管理者の選任を要する事業以外の業種にあっては、衛生推進者)を選任しなければなりません。
事業者は、安全衛生推進者又は衛生推進者を選任すべき事由が生じた日(事業場の新設、又は増員により常時10名以上になった場合等)から14日内に選任しなければなりませんが、選任報告書の提出義務はありません。
なお、事業者は、安全衛生推進者又は衛生推進者を選任したときは、当該安全衛生推進者又は衛生推進者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示する等により関係労働者に周知させなければなりません。

2)職務

安全衛生推進者又は衛生推進者には、(人数が多ければ)総括安全衛生管理者が統括管理することとされている業務(衛生推進者にあっては、衛生に係る業務に限る。)を担当させなければなりません。

3)資格

安全衛生推進者又は衛生推進者の選任は、都道府県労働局長の登録を受けた者が行う講習を修了した者その他(人数が多ければ)総括安全衛生管理者が統括管理する業務(衛生推進者にあっては、衛生に係る業務に限る。)を担当するための必要な能力を有すると認められる者のうちから行わなければなりません。
【必要な能力】
1.大学又は高等専門学校を卒業した者等で、その後1年以上安全衛生の実務(衛生推進者にあっては、衛生の実務。以下同じ。)に従事した経験を有するもの
2.高等学校又は中等教育学校を卒業した者で、その後3年以上安全衛生の実務に従事した経験を有するもの
3.5年以上安全衛生の実務に従事した経験を有するもの
…等

4)専属

安全衛生推進者又は衛生推進者は、原則としてその事業場に専属の者を選任しなければなりません。
ただし、労働安全コンサルタント又は労働衛生コンサルタント等から選任する場合は、専属である必要はありません。事業場が小さい規模なので、事業場の兼務が可能ということです。
また、労働基準監督署長による安全衛生推進者又は衛生推進者に係る増員・解任命令の規定はありません。

②作業主任者

1)選任作業

事業者は、高圧室内作業その他労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、政令で定めるもの(アセチレン溶接装置又はガス集合溶接装置を用いて行う金属の溶接等の作業、一定の放射線業務に係る作業)については、作業主任者を選任しなければなりません。
また、事業者は、作業主任者を選任したときは、当該作業主任者の氏名及びその者に行わせる事項を作業場の見やすい箇所に掲示する等により関係労働者に周知させなければなりません。

2)職務

作業主任者は、『作業に従事する労働者の指揮』のほか、機械・安全装置の点検、器具・工具等の使用状況の監視等の職務を行います。

3)資格

作業主任者は、次の者のうちから選任しなければなりません。
1.都道府県労働局長の免許を受けた者
2.都道府県労働局長の登録を受けた者(登録講習機関)が行う技能講習を修了した者
また、作業主任者については、14日以内の選任義務や選任報告書の提出義務は課せられていません。

③安全委員会

事業場における安全衛生を確保するためには、これまで述べてきた安全衛生管理体制を、事業者の方に一方的に設けるのみでは不十分です。他方で、労働者が安全衛生に十分に関心を持ち、その意見が事業者の行う安全衛生に関する措置に反映される必要があります。この目的で、委員会(事業の種類、常時就業している労働者の人数により規定される安全委員会、衛生委員会又は安全衛生委員)の設置規定が設けられています。

1)設置規模

事業者は、次の区分の事業場ごとに、安全委員会を設けなければなりません。
1.林業、鉱業、建設業、運送業の一部(道路貨物運送業、港湾運送業)、製造業の一部(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業)、清掃業、自動車整備業、機械修理業…常時50人以上
2.安全管理者の選任を要する事業(1.以外の事業場(つまり、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種小売業、旅館業、ゴルフ場業等(一部省略))。)…常時100人以上
安全管理者の『選任義務』は、2.の事業場であっても常時50人以上であることに注意が必要です。つまり、2.の事業場は、安全管理者はいても、常時100人未満の規模の事業場であれば、安全委員会は設置しなくてもいいことになります。ただし、後述の衛生委員会は設置しなければなりません。このように、試験上は、安全衛生管理体制は『何を問われてるか』がとても重要です。
また、事業者は、安全委員会を毎月1回以上開催するようにしなければならず、
1.安全委員会の意見及び当該意見を踏まえて講じた措置の内容
2.上記1.に掲げるもののほか、安全委員会における議事で重要なものに係る記録
を作成して、これを3年間保存しなければなりません。
また、事業者は、安全委員会の開催の都度、遅滞なく、安全委員会における議事の概要を労働者に周知させなければなりません。これは、衛生委員会、安全衛生委員会についても同様です。
なお、安全委員会等を設置したことやその開催状況について行政官庁に届け出る必要はありません。行政官庁にしても、毎月大量に各委員会の開催状況の報告書をもらうのも大変なので、『必要な時は提出を求めるるので、そっちで持っておいて。』という理解で大丈夫です。今は、やるなら電子申請になるでしょうから『保管場所』という問題は生じないと思いますが、紙時代に『いらない』って決めたので、今後も提出不要だと思います。

2)調査審議事項

安全委員会は、次の事項を調査審議し、事業者に対し意見を述べるものとされています。
1.労働者の危険を防止するための基本となるべき対策に関すること
2.労働災害の原因及び再発防止対策で、安全に係るものに関すること
3.上記1.2.のほか、労働者の危険の防止に関する重要事項
【労働者の危険の防止に関する重要事項(付議事項)】
1.安全に関する規程の作成
2.危険性又は有害性等の調査又は表示対象物及び通知対象物等(ともに後掲の記事で説明します。)による危険性又は有害性の調査並びにこれらの結果に基づき構ずる措置のうち、安全に係るもの
3.安全衛生に関する計画(安全に係る部分に限る。)の作成、実施、評価及び改善(PDCAサイクル)
4.安全教育の実施計画の作成
5.厚生労働大臣、都道府県労働局長、労働基準監督署長、労働基準監督官又は産業安全専門官から文書により命令、指示、勧告又は指導を受けた事項のうち労働の危険の防止
、に関することです。

3)委員

安全委員会の委員は、次の者をもって構成されます。なお、安全委員会の議長は、1.の委員がなるものとされています。
1.(議長)総括安全衛生管理者又は(総括安全衛生管理者の選任が必要ない規模の事業場等については)総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業場を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者(1名)
※総括安全衛生管理者の選任対象となる規模の事業場においては、必ず、その総括安全衛生管理者でなければならないという意味です。(衛生委員会又は安全衛生委員会について同じ。)
2.安全管理者のうちから事業者が指名した者
3.当該事業場の労働者で、安全に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者
また、事業者は、1.以外の委員の半数については、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときにおいてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときにおいては労働者の過半数を代表する者の推薦に基づき指名しなければなりません。このことは、衛生委員会・安全衛生管理者の場合も同様です。
【派遣労働者】
派遣先の事業者は、安全(衛生・安全衛生)に関し経験を有する派遣労働者を、安全委員会(衛生委員会・安全衛生委員会)の委員に指名することができます。管理者として統括管理させるのが目的ではなく、現場の状況をを知っている派遣労働者に対しても『広く意見を求める』ことが目的だからです。

④衛生委員会

1)設置規模

事業者は、業種を問わず、常時50人以上の労働者をする事業場ごとに、衛生委員会を設けなければなりません。
つまり、すべての業種において常時50人以上の事業場は衛生管理者の選任が必要なので、衛生管理者がいたら必ず衛生委員会も設置するということです。ここは珍しく『境目』の数字が合致するところです。
開催頻度は、毎月です。

2)調査審議事項

衛生委員会は、次の事項を調査審議し、事業者に対し意見を述べるものとされています。
1.労働者の健康障害を防止するための基本的となるべき対策に関すること
2.労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること
3.労働災害の原因及び対策で、衛生に係るものに関すること
4.上記1.~3.のほか、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項
また、事業者は、産業医が辞任したとき又は産業医を解任したときは、遅滞なく、その旨及びその理由を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければなりません。
【労働者の健康障害の防止等に関する重要事項(付議事項)】
1.衛生に関する規程の作成
2.危険性又は有害性等の調査、表示対象物又は通知対象物(ともに後掲の記事で説明します。)による危険性又は有害性等の調査並びにこれらの結果に基づき構ずる措置のうち、衛生に係るもの
3.安全衛生に関する計画(衛生に係る部分に限る。)の作成、実施、評価及び改善(PDCAサイクル)
4.衛生教育の実施計画の作成
5.新規化学物質等の有害性の調査及びその結果に対する対策の樹立
6.作業環境測定の結果及びその結果の評価に基づく対策の樹立
7.健康診断等の結果及びその結果に対する対策の樹立
8.労働者の健康の保持増進を図るための対策の樹立
9.長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立
10.労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立
11.リスクアセスメント対象物について、労働者が爆露される程度の低減措置及び爆露される程度を一定の濃度以下としなければならない物質(濃度基準値設定物質)に係る爆露濃度の抑制措置並びにリスクアセスメント対象物健康診断の実施及びその結果に基づき構ずる措置
12.厚生労働大臣、都道府県労働局長、労働基準監督署長、労働基準監督官又は労働衛生専門官から文書により命令、指導、表示勧告又は指導を受けた事項のうち、労働者の健康障害の防止
、に関することです。
1.2.3.4.12.は、安全委員会での付議事項の『安全』を『衛生』『健康障害の防止』に置き換えたものとなっています。
試験対策としては、5.の『新規化学物質』に関する事項と6.の『作業環境測定』に関する事項が、安全委員会ではなく衛生委員会の方に入っているというところを押さえておけば、大丈夫だと思います。

3)委員

衛生委員会の委員は、次の者をもって構成されます。なお、衛生委員会の議長は、1.の委員がなるものとされています。
1.(議長)総括安全衛生管理者又は(総括安全衛生管理者の選任が必要ない規模の事業場等については)総括安全衛生管理者以外の者でその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者(1名)
2.衛生管理者のうちから事業者が指名した者
3.産業医のうちから事業者が指名した者
※必ずしも、その事業場に専属の産業医である必要はありません。
4.当該事業場で、衛生に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者
5.(任意)事業者は、当該事業場の労働者で、作業環境測定を実施している作業環境測定士であるものを衛生委員会の委員として指名することができる。

ここで、1.の『議長』が安全委員会と衛生委員会で全く同一要件であり、安全委員会を設置している事業場は、人数要件から『必ず』衛生委員会も設置しているところから、『2つの委員会を同時にしたい』という要望(?)から次の安全衛生委員会が認められています。

4)安全衛生委員会

『事業者は、安全委員会及び衛生委員会を設けなければならないときは、それぞれの委員会の設置に代えて、安全衛生委員会を設置することができる。』
規定としては任意規定です。
また、安全衛生委員会での調査審議事項は、当たり前ですが、安全委員会及び衛生委員会の調査審議事項のすべてです。

5)上記委員会を設けていない事業者

安全委員会、衛生委員会又は安全衛生委員会を設けている事業者以外の事業者は、安全又は衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければなりません。
努力義務なので『設けなければならない』わけではありません。


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