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社労士試験 予備校では教えないポイント解説 vol.052

労働安全衛生法(4)

安全衛生管理体制 Ⅱ

安全衛生管理体制 Ⅰ の記事で述べてきたのは、全産業に共通のものです。建設業と造船業においては、これに加え、建設現場等での安全衛生管理体制も併せて設けなければなりません。
この管理体制も、その事業場の労働者の『人数』と『建設業か造船業』かによって、管理体制が異なりますので、しっかりと押さえましょう。特に、『建設業では必要だけど造船業では必要ないもの(その逆はありません。)』や『製造業』『林業』が、試験上、引っ掛け問題として出題されます。さらっと『製造業』って書かれていると、時間に追われていたら建設業と思い込んでしまって読み飛ばしてしまう場合があります。読み飛ばさなければ、全くひねる論点はないので、確実にサービス問題となります。また、『林業』って、ここで書くと唐突なので皆さんは『???』って思われるかもしれませんが、学習が進んで『労働保険料徴収法』まで行くと、労災保険の保険料を徴収する際、建設業と林業に特別な取扱いがあるので、ここのイメージから引っ掛かってしまうのです。皆さんが気になるかと思うので、ここでさらっと説明しておきますと、なぜ建設業と林業が労災保険の保険料徴収に際して特別な取扱いをされるかといえば、この2つは、一定期間で必ず終了する『有期事業』だからです。有期事業なので、国からしたら『確実に』保険料を徴収したいということです。(事業が解散してしまったら、責任者がいなくなって保険料を取り損なう危険が生ずる。。。等)
ここで『有期』のイメージですが、建設業は建設物が完成したら終わり。。。でイメージしやすいのですが、林業がなぜ有期なのかといえば、『立木(りゅうぼく)を切り倒し尽くしたら終わり』ということです。ですから、ここでいう林業とは『立木の伐採の事業』を指しています。
今回の建設物と造船業の特定な扱いは、『同一の作業場内に下請け・孫請けがいることが常態としている業種』の中で『過去の事例で労働災害が多かった業種』というイメージです。石油プラントや原子力発電所は、確かにひとたび事故が発生した場合、建設現場での事故よりはるかに甚大な被害が出て、そこで働く労働者の方が不幸にして亡くなったりすることもあるのですが、これは労働安全衛生法でいうところの『労働災害』ではなく、単純に『事故』ですから、労働安全衛生法の範疇外ということです。ですが、この『事故』で負傷したり、不幸にして亡くなったりした場合は、それが労働者が労働中にその事故遭遇した場合は、おそらく『労災事故』扱いになり、労災保険から給付金が支給されることになるかと思います。
ちなみに、造船業も製造業ですから、今回説明する安全衛生管理体制から除外される製造業は、正確には『製造業(造船業を除く)』と書かれています。試験問題では、この括弧書きを書かないのですが、この正しい言葉が意識の端っこにあるがゆえに引っ掛かるということです。

今回の登場人物は4人です。前回までの記事での登場人物と名前が似ていますので注意が必要です。
まず、特定元方事業者(建設業や造船業の社長クラス)が、現場の安全と衛生の責任者として、①統括安全衛生責任者(『総括』『管理者』ではありません!)を選任し、この内、建設業に限り、②元方安全衛生管理者が選任され、これを統括安全衛生責任者が指揮をします。なお、造船業は選任義務はありません。そして、建設業や造船業の現場では下請業者(『関係請負人』といいます。)が多く労働していますので、統括安全衛生責任者との連絡責任者として、③安全衛生責任者が選任されます。従って、安全衛生責任者は、関係請負人の労働者となります。
そして、規模が一定以下の小さな規模であっても、一定の工事に係る建設業だと、統括安全衛生責任者に代わって、④店社安全衛生管理者が選任されますが、この規模では関係請負人の人数も少ないので、元方安全衛生管理者も安全衛生責任者も必要ありません。
試験対策としては、統括安全衛生責任者と店社安全衛生管理者との『境目』をしっかりと押さえておけば大丈夫だと思います。

①統括安全衛生責任者

1)選任規模

『元方事業者のうち、建設業と造船業(以下『特定事業』という。)を行う者(以下『特定元方事業者』という。)は、その労働者及びその請負人(以下『関係請負人』という。)の労働者が当該場所において作業を行うときは、これらの労働者の労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため、統括安全衛生責任者を選任し、その者に元方安全衛生管理者の指揮をさせるとともに、特定元方事業者等が構ずべき労働災害を防止するため必要な措置に関する事項を統括管理させなければならない。ただし、これらの労働者の数が政令で定める数未満であるときは、この限りでない。』
この人数は元方事業者の労働者と関係請負人の労働者を合わせたものとなります。
具体的には、常時使用する労働者の数により、以下のようになります。
1.
・ずい道(トンネルのこと)等の建設の仕事
・橋梁の建設の仕事(安全な作業の遂行が損なわれるおそれのある場所での仕事に限る。)
・圧気工法による作業を行う仕事
…常時30人以上
2.上記以外の建設業又は造船業
…常時50人以上
【元方事業者】
事業者で、一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているものをいい、当該事業の仕事の一部を請け負わせる契約が2以上あるため、その者が2以上あることとなるとき(要は、『孫請負』等が発生している場合)は、当該請負契約のうち最も先次の請負契約における注文者をいいます。
現場で『元請さん』と呼ばれているところです。
【選任報告】
特定元方事業者は、作業の開始後、遅滞なく、統括安全衛生責任者を選任しなければならない旨及び統括安全衛生責任者の氏名を作業の場所を管轄する労働基準監督署長に報告しなければなりません。(造船業を除き、同時に選任される)元方安全衛生管理者及び店社安全衛生管理者についても同じです。
全くの蛇足の論点ですが、この報告をしない場合、この『選任義務のある人数か否か』が労働基準監督署長に判るのか?ということですが、元請業者は下請業者の労働者も含めて一括して労災保険に入らないといけない(その工事において一定金額以上の契約の下請業者は除くことができます。)ので、現場で働く労働者の人数は、その気になれば判ります。

2)職務

統括安全衛生責任者は、元方安全衛生管理者の指揮をするとともに、労働災害を防止するため必要な措置に関する事項を統括管理しなければなりません。
また、都道府県労働局長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、統括安全衛生責任者の業務の執行について当該統括安全衛生責任者を選任した事業者に勧告することができます。以前の総括安全衛生管理者と同じように、都道府県労働局長は、統括安全衛生責任者に直接には言いません。
もし、当該統括安全衛生責任者が、旅行、疾病、事故その他やむを得ない事由をよって職務を行うことができないときは、代理者を選任しなければなりません。このことは、元方安全衛生管理者、安全衛生責任者及び店社安全衛生管理者についても同じです。
統括安全衛生責任者の具体的な職務は以下の通りです。
1.協議組織の設置及び運営
2.作業間の連絡及び調整
※一例として上げますと、『合図の統一』です。ロープで物を引っ張る時の合図が下請け業者によって、『いち、に、さん!』と『いち、にの、さん!』と違うとロープを引っ張る人がバランスを崩して事故になるからです。
3.作業場所の巡視
※義務ではありません。一定の規模以上になると巡視義務のある安全管理者や衛生管理者が選任されるからです。
4.関係請負人が行う労働者の安全・衛生教育に対する指導及び援助
…等の労働災害を防止するために特定元方事業者が講ずべき必要な事項を統括管理することです。

3)資格

統括安全衛生責任者は、当該場所においてその事業の実施を統括管理する者をもって充てなければなりません。
また、事業者は、当該統括安全衛生責任者が、旅行、疾病、事故その他やむを得ない事由によって職務を行うことができないときは、代理者を選任しなければなりません。

②元方安全衛生管理者

1)選任規模

統括安全衛生責任者を選任した事業者のうち、建設業を行う事業者は、元方安全衛生管理者も選任しなければなりません。
つまり、造船業を除き(つまり、建設業だけ)、統括安全衛生責任者と元方安全衛生管理者は、常にワンセットということです。造船業が入っていないことに注意を要します。なぜ造船業では必要ないかという明確な理由はどこにも書いてないので、筆者の勝手なイメージ付けですが、
・建設業と違って、造船業は『ドック』と呼ばれる造船工場が設置されており、同じ場所で造船が続けられる。
・船の製造は専門性が高い
という理由で同じ協力会社が継続して下請けを務めるからということと
・同じ場所で造船を続けるので、事務所技能も造船所内に設けられている(そこに安全管理者や衛生管理者がいるはず。)
ということ等の理由で安全衛生管理について建設業より管理がしやすいということではないか。。。と思います。
(以上、このこじつけ理由は試験には出ませんが、記憶の一助になれば幸いです。)
【行政官庁】
労働基準監督署長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、当該元方安全衛生管理者を選任した事業者に対し、元方安全衛生管理者の増員又は解任を命ずることができます。
つまり、元方安全衛生管理者は1人である必要はない、人数規定はないということです。

2)職務

元方安全衛生管理者は、統括安全衛生責任者が統括管理する事項のうち技術的事項を管理しなければなりません。
また、事業者は、元方安全衛生管理者に対し、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため必要な措置をなし得る権限を与えなければなりません。

3)資格

元方安全衛生管理者は、次のいずれかの資格を有する者でなければなりません。
1.大学又は高等専門学校における理科系統の正規の過程を修めて卒業した者等で、その後3年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有するもの
2.高等学校又は中等教育学校において理科系統の正規の学科を修めて卒業した者で、その後5年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有するもの
3.1.2.に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者
『理系』卒業という要件がハードルを上げています。。。

4)専属

元方安全衛生管理者は、その事業場に専属の者を選任しなければなりません。

③安全衛生責任者

1)選任規模

統括安全衛生責任者が選任された場合において、統括安全衛生責任者を選任ずべき事業者以外の請負人(つまり、下請業者)で、その場所で当該仕事を自ら行うものは、安全衛生責任者を選任しなければなりません。
また、この安全衛生責任者は建設業のみならず造船業でも選任が必要です。2)職務を見ると判りますが、安全衛生責任者の役目は、統括安全衛生責任者(つまり、元請業者)との『連絡係』だからです。『責任者』同士が連絡を取り合うというイメージですね。
また、安全衛生責任者を選任した請負人は、統括安全衛生責任者を選任した事業者に対し、遅滞なく、その旨を連絡しなければなりません。つまり、『うちの連絡窓口はこの人です。』という連絡です。

2)職務

安全衛生責任者は、統括安全衛生責任者との連絡、統括安全衛生責任者から連絡を受けた事項の関係者への連絡、他の安全衛生責任者との作業間の連絡及び調整等の職務を行います。
また、安全衛生責任者となるために、特段の資格や経歴等を有する必要はありません。

④店社安全衛生管理者

1)選任規模

『建設業に属する元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者が一の場所(これらの労働者の数が一定の数未満である場所及び統括安全衛生責任者を選任しなければならない場所を除く。)において作業を行うときは、当該場所において行われる仕事に係る請負契約を締結している事業場ごとに、これらの労働者の作業が同一の場所で行われることによって生ずる労働災害を防止するため、所定の資格を有する者のうちから、店社安全衛生管理者を選任し、その者に、当該事業場で締結している当該請負契約に係る仕事を行う場所における特定元方事業者が講ずべき労働災害を防止するために必要な措置に関する事項を担当する者に対する指導その他の事項を行わせなければならない。』
法律の条文なので回りくどい言い回しになっていますが、つまり、統括安全衛生責任者の選任義務のない規模の事業場であっても、後述する一定の事業場(=労働災害の危険性が高い仕事)では、統括安全衛生責任者と同等の権限と責任を持った者の選任が必要だということです。
具体的には、同一の作業場所において関係請負人の労働者を含めて以下に掲げる人数の労働者を常時作業に従事させる建設業の元方事業者が、店社安全衛生管理者を選任しなければなりません。
1.
・ずい道等の建設の仕事
・橋梁の建設の仕事(安全な作業の遂行が損なわれるおそれがある場所での仕事に限る。)
・圧気工法による作業を行う仕事
…常時20人以上30人未満
2.主要構造部が鉄骨又は鉄骨鉄筋コンクリート造である建築物の建設の仕事
…常時20人以上50人未満
要は上記の仕事区分は、統括安全衛生責任者の選任は不要の規模だけど、安全衛生の管理上、管理者が必要と認められた区分ということです。
蛇足ですが、覚えるためのイメージですが、今回の記事で『責任者』と『管理者』が各2名ずつ出てきてややこしいですが、昔の漫才師なので知ってらっしゃるかどうか判りませんが、人生幸朗師匠の決め台詞(?)『責任者出てこい!』で、何かあったら出て行かないといけないので、『責任者の方が上』とイメージすれば間違わないかと思います。(試験で、ここを引っ掛けるような問題は出ないかと思いますが。。。)
【店社安全衛生管理者になるための資格】
1.大学又は高等専門学校を卒業した者で、その後3年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有するもの
2.高等学校又は中等教育学校を卒業した者で、その後5年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有するもの
3.8年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有するもの
『理科系統』の学校・学科を卒業という要件が無いことに注意が必要です。(とはいえ、試験では、ここを問うような問題も出ないかとは思います。)

2)職務

店社安全衛生管理者は、作業場(その事業場で締結している請負契約に係る仕事を行う場所)における労働災害を防止するための措置に属する事項を担当する指導等を行うとされています。
その他、
1.少なくとも毎月1回作業場を巡視すること
※店社安全衛生管理者が選任されるべき事業場の規模は、巡視義務のある安全管理者、衛生管理者、産業医がすべて選任されていないからです。
2.労働者の作業の種類その他作業の実施の状況を把握すること
3.協議組織の会議に随時参加すること。
4.機械、設備等を使用する作業に関し関係請負人が講ずべき措置が講ぜられていることについて確認すること。

⑤まとめ(試験対策)

安全衛生管理体制としては、vol. 50~52の3回分の記事の通りですが、試験対策としては、人数の区切りとか専属でないといけないのかどうか。。。等、とっても覚えにくいです。かといって、試験に頻出論点かといえば、試験での問題数(選択式2問、択一式3問)を考えると『他に出すとこあるのでは?』とも思いますので、ここは絞って、かつ『少ない方を覚える』ぐらいで十分かと思います。『全部を見たい』という受験生の方は、お手持ちのテキスト等にも『まとめの表』みたいのがあるかと思います(予備校側でも『ここは覚えにくい』と思ってるはずです。)ので、そちらで学習(暗記)して下さい。
なお、下記の抽出は、筆者の独断なので、責任は取れません。。。
1)選任したときに労働基準監督署長に報告の義務が『ない』もの
・安全衛生推進者
・作業主任者
・安全衛生責任者(特定元方事業者への通報義務はあり)
2)その事業場への専属の必要性
・安全管理者
・衛生管理者
・産業医(一定の人数要件あり)
・安全衛生推進者
・元方安全衛生管理者
3)専任義務があるもの
・安全管理者(一定の人数要件あり)
・衛生管理者(一定の人数要件あり)
4)旅行、傷病等の場合の代理者の選任が『不要』なもの
・産業医
・安全衛生推進者
・作業主任
5)巡視義務のあるもの
・安全管理者(頻度規定なし)
・衛生管理者(1回/週)
・産業医(1回/月、一定の場合1回/2月)
・店社安全衛生管理者(1回/月)
6)行政庁の指導の『対象外』なもの
・産業医
・安全衛生推進者
・作業主任者
・安全衛生責任者
・店社安全衛生管理者
7)選任義務違反に対する罰金等の『ないもの』
・安全衛生推進者
・店社安全衛生管理者

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