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社労士試験 予備校では教えないポイント解説 vol.055

労働安全衛生法(7)

機械等並びに危険物及び有害物に関する規制 Ⅱ

①危険・有害物

1)製造等禁止物

1.原則
『黄りんマッチ、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤その他労働者に重度の健康障害を生ずる物で、政令で定めるものは、製造し、輸入し、譲渡し、供給し、又は使用してはならない。』
【製造禁止物質】
・黄りんマッチ
・ベンジジン及びその塩
・石綿(石綿の分析のための試料の用に共される石綿等であって一定のものを除く。)
・ベンゼンを5%を超えて含有するゴムのり
。。。等です。
【引き起こす健康障害等】(ここは、試験には出ません。)
黄りんマッチ…殺鼠剤に含まれる成分で、誤飲した場合、暫時で、胃部の疼痛、灼熱感、ニンニクの臭おくび、悪心、嘔吐をきたす。日本では1922年6月で製造が禁止された。また、粉状で34℃、固形状のものでも60℃で自然発火するほど燃えやすい。
(だからマッチに使われていた)
ベンジジン…発癌性、特に膀胱癌を引き起こす。日本では1972年に製造が禁止された。
石綿…これは有名で、肺癌、びまん性胸膜肥厚及び石綿肺です。その補償ための一般拠出金が労災保険料に上乗せされて徴収されており、その一般拠出金率は、1000分の0.02です。(この一般拠出金については、労災保険法の方で試験に出る可能性があります。)
ベンゼン…高濃度のベンゼンを長期間吸い込むと、造血器に健康障害を引き起こし、貧血などの症状が出る。また、低濃度Page2のベンゼンを長期間吸い込むと、白血病を引き起こす可能性がある。

2.試験研究のための特例
製造等の禁止の対象となっている物質でも、次の要件を満たしたときには、試験研究のため製造し、輸入し、又は使用することができます。
前提が『試験研究のため』ということが重要です。
a.製造、輸入又は使用について、あらかじめ、所轄都道府県労働局長の許可を受けること
b.厚生労働大臣が定める基準に従って製造し、又は使用すること

2)製造許可物質

製造許可物質は、要は『許可を受ければ製造ができる』ものということで、前提が『製造禁止ではない』というところが『製造禁止物質』とは違います。
『ジクロルベンジジン、ジクロルベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずるおそれのある物で、政令で定めるものを製造しようとする者は、あらかじめ、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。』
製造禁止物質の製造許可をするのは都道府県労働局長であり、製造許可物質の製造を許可するのは厚生労働大臣であるところに注意が必要です。パッと頭に浮かんだイメージでは、製造禁止物質の許可の方が上位役職である厚生労働大臣の許可のような気がしますが(ここが試験では狙われます!)、製造禁止物質は、前提が『製造禁止』であり、また、厚生労働大臣は、やはりこの道の専門家ではありませんので、禁止を解く許可は、その道のプロである都道府県労働局長が判断して行うべきということです。製造許可物質は、前提が『製造してもよい』ですから、申請書類等が整っていたらトップの厚生労働大臣が許可を出します。
【ジクロルベンジジン】
(試験には出ません。)印刷インキのジアライド系黄色顔料の原料などになります。短期被曝露によって気道を刺激する。皮膚接触による皮膚炎や、肝臓に影響を与える可能性があるといわれています。長期的影響により水生生物に非常に強い毒性があります。

3)表示対象物

以下の記事を読む際には、上記1.2.の説明は完結して、『全く違う次の説明に移った』と意識しないと、頭の中で???が飛び交います。
1.原則(ラベル表示)
『爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの(=製造許可物質)又は製造許可物質を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、その容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときにあっては、その容器)に所定の事項を表示しなければならない。ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に共するものについては、この限りではない。』
( )内は、つまり、容器に入ってかつ包装したものを使用する際には、必ず、包装を破棄するので、容器の方に表示しなさいということです。『一般消費者の生活の用』とは、化粧品などのことで、一般消費者に提供される段階では、当然に、化学的に安定しているので、危険性の表示は不要ということです。また、譲渡と提供の違いを試験で問われることはないかと思いますが、譲渡が有償、提供が無償(元請け会社が下請けの加工工場に原材料として渡すという感じ)というイメージです。

2.例外
パイプラインで送る場合のように1.の危険・有害物を容器又は包装を用いないで譲渡又は提供する場合には、所定の事項を記載した文章を、譲渡し、又は提供する相手側に交付しなければなりません。
。。。とは言え、安全対策としてパイプラインの出口に看板等で表示されることが多いと思います。(現場の人は交付された文章は、多分、見ない。。。と思います。安全委員会で、当然にそういう話は出るかと思います。。。)
【表示事項】
・名称
・人体に及ぼす作用
・貯蔵又は取扱い上の注意
・表示する者の氏名(法人にあっては、その名称)
・住所及び電話番号
・注意喚起語(『火気厳禁』など)
・安定性及び反応性
・当該物を取り扱う労働者に注意を喚起するための標章で厚生労働大臣が定めるもの(『危』『毒』マークなど)
なお、以前は『成分表示』も入っていましたが、どんどん新規物質が登場し規制が追い付かない、ひとつの物質に多数の成分が含まれており表示しきれない。。。等の理由で表示義務がなくなりました(ただし、次項の規定により通知する文書には、記載が必要です。)。

4)通知対象物

1.文書の交付等(SDS(安全データシート)の交付等)
『労働者に危険若しくは健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は前記2)の製造許可物質(以下、『通知対象物等』という)を譲渡し、又は提供する者は、文書の交付その他所定の方法により通知対象物に関する所定の事項を、譲渡し、又は提供する相手方に通知しなければならない。ただし、主として一般消費者の生活の用に供される製品として通知対象物を譲渡し、又は提供する場合については、この限りでない。』
つまり、製造許可物質は、表示対象物であり、かつ、通知対象物ということです。ここでいう『文書』とは、いわゆる取扱い説明書ということです。
【通知事項】
・名称
・成分及びその含有量(前記3)参照)
・物理的及び化学的性質
・人体に及ぼす影響
・貯蔵又は取扱い上の注意
・流出その他の事故が発生した場合において講ずべき応急の措置
・通知を行う者の氏名(法人にあっては、その名称)、住所及び電話番号
・危険性又は有害性の要約
・安定性及び反応性
・想定される用途及び当該用途における使用上の注意
・適用される法令
・その他参考となる事項
文書(取扱い説明書)なので、スペースに限りがあるわけではありませんから、詳細な記載が可能ということです。

2.変更の通知
通知対象物を譲渡し、又は提供する者は、通知した事項に変更を行う必要が生じたときは、文書の交付その他所定の方法により、変更後の通知を、速やかに、譲渡し、又は提供した相方に通知するように努めなければなりません。
義務ではなく努力義務となっているところに注意です。この論点で引っ掛け問題が出るとは思えませんが、イメージとしては『上流から下流までの譲渡や提供の相手が多過ぎて、流通の追跡が完全にはできない。』ということです。多分、自社のホームページには掲載するとは思いますが、おそらく、誰も見ませんね。。。

5)表示対象物及び通知対象物について事業者が行う調査等

事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、表示対象物及び通知対象物による危険性又は有害性等を調査しなければなりません(リスクアセスメントの実施)。また、事業者は当該調査の結果に基づいて、労働安全衛生法又は同法に基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければなりません。
なお、『労働安全衛生法又は同法に基づく命令の規定による措置を講ずる』ことは、事業者の義務とされています。例えば、事業者は、リスクアセスメントの対象物(リスクアセスメントを実施しなければならない表示対象物及び通知対象物をいいます。以下同じ。)を製造し、又は取り扱う事業場において、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、代替物の使用、発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働、作業の方法の改善、有効な呼吸用保護具を使用させること等の必要な措置を講ずることにより、リスクアセスメント対象物に労働者が曝露される程度を最小限度にしなければなりません。また、一定程度の曝露に抑えることにより、労働者に健康障害を生ずるおそれがない物として厚生労働大臣が定めるもの(濃度基準値設定物質)を製造し、又は取り扱う業務(主として一般消費者の用に供される製品に係るものを除きます。)を行う屋内作業場においては、当該業務に従事する労働者がこれらの物に曝露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準以下としなければなりません。
【リスクアセスメント】
表示対象物及び通知対象物による危険性又は有害性等の調査(主として一般消費者の用に供される製品に係るものを除く。)をいいます。
【リスクアセスメント対象物健康診断の実施等】
『事業者は、リスクアセスメント対象物による健康障害の防止のため、リスクアセスメントの結果に基づき、関係労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師又は歯科医師(以下、『医師等』という)が必要と認める項目について、医師等による健康診断を実施し、その結果に基づき必要な措置を講じなければならない。また、濃度基準値設定物質について、労働者が濃度基準値を超えて曝露したおそれがあるときは、速やかに、医師等による健康診断を実施し、その結果に基づき必要な措置を講じなければならない。』(則577の2-ⅢⅣⅥⅦ)
当たり前のことが書かれていますが、改正論点なので、試験で問われる可能性があります。とはいえ、『歯科医師』が入っていることと『濃度基準値設定物質』という言葉を押さえておけば大丈夫かと思います。歯科医師が入っているのは、薬品の蒸気によって歯などに影響がある可能性があるからです。

6)化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任

ここも改正論点です。
事業者は、次に掲げる事業場ごとに、化学物質管理者を選任し、その者に、下記に掲げる事項を管理させなければなりません。
1.リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場…化学物質に係るリスクアセスメントの実施に関すること等の当該事業場における化学物質の管理に係る技術的事項
2.リスクアセスメント対象物の譲渡又は提供を行う事業場(1.の事業場を除く)…当該事業場におけるラベル表示及びSDS(『安全データシート』)の交付等による通知並びに教育管理に係る技術的事項
1.が工場、2.が販売店というイメージです。
また、化学物質管理者を選任した事業者は、リスクアセスメントの結果に基づく措置として、労働者に保護具を使用させるときは、『保護具着用管理責任者』を選任し、有効な保護具の選択、保護具の保守管理その他保護具に係る業務を担当させなければなりません。
なお、化学物質管理者又は保護具着用管理責任者の選任については、それぞれその選任ずべき事由が発生した日から14日以内に行うこととされ、事業者は、これらの者を選任したときは、その氏名を事業場の見やすい場所に掲示すること等により関係労働者に周知させなければなりません。

7)化学物質管理の改善指示

労働基準監督署長は、化学物質による労働災害が発生した又はそのおそれがある事業場の事業者に対し、当該事業場において化学物質の管理が適切に行われていない疑いがあると認めるときは、当該事業場における化学物質の管理の状況について改善ずべき旨を指示することができます。

②有害性の調査

1)有害性の調査

『化学物質による労働者の健康障害を防止するため、既存の化学物質として政令で定める化学物質(厚生労働大臣によりその名称が公表された化学物質を含む。)以外の化学物質(以下、『新規化学物質』という。)を製造し、又は輸入しようとする事業者は、あらかじめ、厚生労働大臣の定める基準に従って有害性の調査(当該新規化学物質が労働者の健康に与える影響についての調査をいう。)を行い、当該新規化学物質の名称、有害性の調査の結果その他の事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。』
また、有害性の調査を行った事業者は、その結果に基づいて、当該新規化学物質による労働者の健康障害を防止するための必要な措置を速やかに講じなければなりません。
【有害性の調査で行う試験】
変異原性試験、化学物質のがん原性に関し変異原性試験と同等以上の知見を得ることができる試験又はがん原性試験のうちいずれかの試験を行います。

2)公表等

『厚生労働大臣は、新規化学物質の名称、有害性の調査の結果その他の事項についての届出があった場合には、当該新規化学物質の名称を公表するもの』とされています。
なお、厚生労働大臣は、当該届出があった場合には、有害性の調査の結果について学識経験者の意見を聴き、当該届出に係る化学物質による労働者の健康障害を防止するため必要があると認めるときは、届出をした事業者に対し、施設又は設備の設置又は整備、保護具の備付けその他の措置を講ずべきことを勧告することができます。
また、届出を行った事業者は、名称の公表前であっても新規化学物質を製造することができます。届出を行った事業者は、その公表内容は、当然に承知しているからです。また、特許の申請が必要な場合は、公表を待つまでもなく、速やかに特許の申請をすることになります。
【公表の仕方】
厚生労働大臣による名称の公表は、原則として、届出の受理後1年以内に、3月以内ごとに1回、定期的に官報に掲載することにより行われます。
【報告】
厚生労働大臣は、有害性の調査の結果について学識経験者の意見を聴いたときは、その内容を、新規化学物質の名称の公表後1年以内に、労働政策審議会に報告するものとします。

3)調査の省略

次のいずれかに該当するときは、事業者は、有害性の調査を行わなくてもよいことになっています。
ただし、下記1.2.5.の『確認』を受けようとする者は、当該確認に基づき最初に新規化学物質を製造し、又は輸入する日の30日前までに申請書を厚生労働大臣に提出しなければなりません。また、この『確認』は『2年を限りに有効』とされています。
1.当該新規化学物質に関し、当該新規化学物質について予定されている製造又は取扱いの方法等からみて労働者が当該新規化学物質にさらされるおそれがない旨の厚生労働大臣の確認を受けたとき
2.当該新規化学物質に関し、既に得られている知見に基づきがん原性がない旨の厚生労働大臣の確認を受けたとき
3.当該新規化学物質を試験研究のため製造し、又は輸入しようとするとき
4.当該新規化学物質が主として一般消費者の生活の用に供される製品として輸入される場合で、労働者が当該新規化学物質にさらされるおそれがないとき
5.当該新規化学物質について、一の事業場における1年間の製造量又は輸入量が、100キログラム以下である旨の厚生労働大臣の確認を受け、確認を受けたところに従って当該新規化学物質を製造し、又は輸入しようとするとき

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