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「度し難い」の例文

知らない言葉や知っていても使ったことのない言葉に遭遇したときは忘れぬよう書き留めているのだけど、いっこうに身につかない。使わないから覚えないのだ。「度し難い(どしがたい)」を使ってみる。

 滑り台は難しい。今日もサミネは上手に着地できずに尻もちをつく。伸ばした足をそのまま地面につければいいんだよと先生からも友達からもよく言われた。その通りにやっているつもりなのだが、どしんと尻もちをつく。空色のショートパンツが汚れてしまった。
 小学生がこっちを見ている。優しいサミネは彼らに順番を譲ることにした。今日のところは次の一回で終わりにしよう。そう心に決めて階段を上ろうとしたところで、誰かが肩を掴んだ。

「バカかよ」

 振り返ると案の定スーツ姿のタムズクだ。こないだ課長になったと言ってたのに平日のこんな時間に公園に居るなんてクビになったのか?
「今は上司が率先して定時退社するんだよ」
 サミネが頭の中で考えていることはいつだってタムズクにはお見通しだ。小学三年生で初めて隣の席になった授業中、何も言わずに消しゴムを貸してくれた。新しい消しゴムを持っているのにそれを使い始めるタイミングが分からずにいたサミネに、そのときもタムズクは「バカかよ」と言った。

 いい歳して一人で何度も滑り台をすべるなんてみっともない。というのがタムズクの主張らしい。ついでに空色のショートパンツとバナナ色のTシャツもおばさんの服装としてはあり得ないと言う。度し難いやつだな、とサミネは思った。本当は自分だって滑り台をやりたいくせに。誰の目を気にしているんだ。したいようにすればいいじゃないか。
 黙っているサミネの顔を見て「やっぱバカだな」と言ってから、タムズクは階段を上って滑り台をすべり降りた。見事な着地に、サミネは拍手を送る。

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