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「伍する」の例文

知らない言葉や知っていても使ったことのない言葉に遭遇したときは忘れぬよう書き留めるがいっこうに身につかない。そういう言葉を見つけてメモを開くと既に書いてあったりする。使わないから覚えないのだ。「伍(ご)する」を使ってみる。

 戦隊ヒーローのパロディというのは創作に携わる男子はみな通る道なのだな、とタカモは思った。
 今の時代、男子だからどうのというのは古い気もするがまだまだそういう価値観は健在だ。前回は女性であるカノメが台本を作った『ふたごのシンデレラ』で、今回は男性であるミズヒロによる『やさい戦隊ベジタブルンジャー』であることがその証左であろう。ミズヒロは夫婦別姓を望んで事実婚を選択しているし息子が1歳になるまで育休もとっていた。そんな彼でもヒーロー物語を作って主役を男から選ぶというのだから刷り込みとはなんと恐ろしいものか。あるいは彼とて不本意ながら周囲に期待される「男」を表現した結果だろうか。などと演目決定の裏側に思いを馳せてみたものの、どの推察もタカモが納得できる答えではなかった。

 タカモはべつに、背景にある「男らしさ女らしさ」に違和感を覚えているわけではない。既存の物語を安易に模倣して披露することに抵抗があるのだ。なぜオリジナルで勝負しないのか。この中に、この先の人生で表現活動を志す者が現れる可能性を鑑みれば、その原体験としてイチから生み出す喜びを覚えさせるべきではないのか。それが困難であるならば昔話やおとぎ話のような古典をそのままなぞるほうがまだマシだ。

 憤るタカモだったが、ストーリーの詳細を聞き配役が発表されると「まあ、いいんじゃないか」と口元がほころぶのを我慢しながら言った。お遊戯会でひばり組が演じる『やさい戦隊ベジタブルンジャー』において、タカモはグリーンピーマン役に抜擢された。リーダーのレッドトマトと伍する戦闘能力を持ちながら憎まれ口を叩いてチームの輪を乱すも最終的にはメンバーたちと和解することで敵のボスを倒すという重要な役どころで、きっとお母さんが喜んでくれるだろうと思った。もしもパープルナスだったら泣いて抗議した。

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