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たった一人のわたしを愛して

世界は進化し、自分の「状態」を言い表すあらゆる言葉が誕生していることを、
ケイシーはもちろん知っていた。
でも、誰かが作った枠に収まろうとすれば、必ず自分のどこかが歪み、壊れた。
ケイシーは、自分の体を慈しみたかった。
自分自身を心から愛したかった。

わたしに会いたい 西加奈子


熱く、優しく、愛に溢れた本だ。
読み終わった本を閉じて、最初に感じたことだった。

そしてすぐに、いろんな女友達に本をプレゼントしたくなった。
これは、女性をあらゆる縛りから解放しようとする、パワーに溢れた本だった。

女という性に、息苦しさを感じたのはいつだろう。
(あ、こういう“ジェンダー”の話が好きじゃない人は、
読まないほうがいいです、、!)

私は中学高校と女子校に通っていて、そこでした経験は
ちょっと異質だったと今では思う。

学校の最寄りの駅は、頻繁に変質者が出たし(特に冬!)、
裸の露出狂は学校の周りをぐるぐる回っていたし、
車から隠れておっきいカメラのレンズを向けたおじさんたちは、
私たちの登下校の様子を盗撮した(きっと制服がセーラー服だったから)。

でもそれが“日常”だったから、ああ今日もやってるな〜としか思っていなかった。

ただ、痴漢だけはどうしても“日常”にならなかった。
電車内で、知らない人に勝手に身体を触られるのは本当に嫌だった。

次されたら、やめてください!って言おう、と決心しては、
いざされると怖くてカチコチに縮こまり、
何も言えない自分を情けない人間だと思った。

そんな中でも、一際覚えていることがある。

ある日、いつものように学校へ行くと
Mちゃんが手洗い場でスカートを洗っていた。

冬で水が冷たいだろうに、ハンカチを使って一生懸命ゴシゴシと
スカートのある部分を洗っていた。

おはよう、どうしたの、と声をかけると、
Mちゃんは困った顔をして、少し躊躇した後、
「電車に乗ってたら、後ろのおじさんにスカート汚されちゃったの」と言った。

私は、最初Mちゃんが何を言っているのか分からなかった。

紺のスカートにできた、白っぽい汚れがおじさんの精液だと後から気付いた。

きっとその時が、一番はじめに“女”というものが搾取されていることを
肌で感じて、強い怒りを感じた瞬間だった。

男性に怒っているわけでもないし、男女を分断したいわけでもない。
もちろん被害者ヅラして生きていきたいわけでもない。

ただ、たまにふらっと訪れるこういう瞬間に立ち会っては、
存在すら気付かなかった“希望”みたいなものをゆるく奪われる気分になる。

でも、女の敵は男なのか。

ううん、違う。

じゃあ、女?

ううん、それも違うよね。

女の私の敵は、わたし自身だ

この本は、一貫してそんなメッセージに溢れている気がする。

たった一人の、自分になって。
私の身体を愛して、慈しんで、楽しませて、怒りはちゃんと発散させて。
他の誰にも、どうか、どうか、明け渡さないで。

愛のメッセージに溢れた本。

特に女性の方に手に取ってほしいなと思います。

Written By あかり

アラサー女

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