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亡国への道の詳細ーミニ読書感想「日独伊三国同盟」(大木毅さん)

歴史家の大木毅さん著「日独伊三国同盟 『根拠なき確信』と『無責任』の果てに」(角川新書)が勉強になった。日本が対米開戦、その後の敗戦に至るきっかけになった日独伊三国同盟の成立経緯を物語として読める。亡国への道の詳細が分かる内容。


著者は「独ソ戦」(岩波新書)が有名。もともと赤城毅さんというペンネームで小説家をされているとのことで、ストーリーテリングの腕が光る。するすると読める。

「優秀な軍人や政治家がいたはずの日本はなぜ亡国の道を歩んだのか」というのが本書の問題意識。だからこそ、それぞれの外交官らの特質や陥ったミスを丁寧に分析していく。戦前日本の指導部が愚かだったの一言では切り捨てない。

面白いと感じたのは、日独関係の接近の立役者となったドイツ・リッベントロップ氏と日本の大島浩駐独武官(のち大使)は、いずれもそれぞれの国では「非主流」でくすぶっていたこと。むしろ、くすぶっていたから存在感発揮のための何かを求めていた。たとえばドイツは対中関係を重視していて日本の優先度は高くなかったので、同氏が対日関係重視という策を打つ余地ができてしまった。

もう一つは、三国同盟の前身の防共協定は相当曲折があり、日本海軍幹部の反対もあって「対英」「対米」につながるリスクは何度も回避されたこと。日本はまっすぐに亡国に向かったわけではない。ポイントオブノーリターンはいくつかあったし、当初はそこで戦争回避に向けた選択もできていた。

大きな時代の変化もあるのだが、ここで反英・反米への突き上げを行ったのは意外にも、陸海軍の若手だったことも発見だ。両軍幹部はその突き上げを押さえつけることが困難になり、なし崩し的に三国同盟成立に同意することにつながった。

非主流派が時代を変えるとか、若者が社会を動かすとか、反対にベテランは「老害」であるという昨今当たり前の言説は、少なくとも三国同盟成立時は「真逆」だったのではないかと感じた。むしろ陸軍は、何度も大臣が辞任し、「これ以上人が出せないと内閣が成立しないぞ」という「脅し」が可能になったことで、独善化した面もある。若く血気盛んな論が亡国を早めた面もありそうだ。

また本書を読むと、ある時にその人がなぜそう判断したのか、まだまだ論点になっている部分が多数あることも分かった。歴史的評価というのはなかなか定まらない。対米戦争反対だった山本五十六への評価も近年変わってきたりするそうだ。

著者の大木毅さんは早川書房とタッグを組み、「人間と戦争」と題した戦争ノンフィクションの復刊シリーズも開始したそう。今後も楽しみだ。

つながる本

本書のようにある一つの歴史事象を紐解くことで歴史理解を図っていく本として、近刊の中ではマルコム・グラッドウェルさん「ボマーマフィアと東京大空襲」(光文社)が浮かびます。精密爆撃という理想の失敗が、あの惨禍につながったことを描きます。

本書を読むと、日独伊三国同盟のような失敗は今後も繰り返し得るような気もしてくる。戦争に通底する考え方の歪みを暴く本としてジョン・W・ダワーさん「戦争の文化」(岩波書店)も思い起こしたいと思います。私たちにはあの頃から成長してない部分が必ずあるはず。

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