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SF小説の未来を切り開く超新星たちーミニ読書感想「新しい世界を生きるための14のSF」(伴名練さん編)

自身もSF小説家の新鋭である伴名練さんが編者を務めた「新しい世界を生きるための14SF(ハヤカワ文庫)が圧倒的に面白かった。ハズレなし。それぞれのカラーが鮮明。ここに登場するのは、来るべきSF小説の新世紀を切り開く超新星たちだ。


伴名練さんは本書を「今あなたが目にしているのは、未来から来たアンソロジーである」(7ページ)との文章から始める。偽りない。掲載されているのはSF作家として新鋭であり、まだ単著のない方も多い。まだ見ぬ世界で輝くはずの星々を、伴名練という名アンソロジストが未来から取り出してきてくれた。

「分厚いアンソロジーだと、読みきれない読者が出て後ろの方の作品だけ読了数が少なくなる」(9ページ)との懸念も記されているためあえて後半の作品に関しての言及で始めると、後ろから4番目、佐伯真洋さんの「青い瞳がきこえるうちは」は透き通るような美しさだった。

仮想現実空間での卓球がテーマで、主人公は全盲など、障害を超えた活躍が描かれるのが未来的。それでありながら、普遍的なブラザーフッドや、舞台となる京都の美しい情景も折りまぜ、青春小説的な純度も感じられた。

これは、伴名練作品が時に高度なSFであり青春小説であること(たとえば「ひかりより速く、ゆるやかに」)に重なる。SFの未来は、小説全体の未来でもあるということを感じさせる一作だった。

ぶっ飛んだ作品もあり、たとえば天沢時生さん「ショッピング・エクスプロージョン」。明らかにドン・キホーテをイメージした「サンチョ・パンサ」という量販店が暴走し、世界中を埋め尽くすという、とんでもない展開。ドン・キホーテの話なのにマッドマックス的な世界観と、過剰なまでのくどい言い回し(たとえば「虎の巻」と書いて「チート・シート」と読ませたり、「撃発」に「ぶっぱ」とルビを振る)がクセになる。

人間並に発達した熊が主人公の「冬眠世代」(鉢本みささん)や、落ちのシリアスさにぐっと惹きつけられる「もしもぼくらが生まれていたら」(宮西健礼)と、右から左までスイングの幅は広い。誰もが気になる作品、気にいる作品に必ず出会えると請け合いたい。

最後に強調しておきたいのは、やはりこれらの超新星を見出した伴名練さんという作家の非凡さだ。面白い人の読む本は面白い。裏を返せば、これだけ面白い作品を並べられるというのは、圧倒的な面白さを持つことの証左だと言える。

本書は伴名練さんではない14人の作家による作品集であり、伴名練作品はひとつも掲載されていない。それでも、どこかに伴名練さんの「匂い」が感じられる。伴名練さんとこの14人は、いずれも切れ味鋭い感性と文章で、新しい時代を作る。これは未来から薫る風だ。

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