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台湾という鏡ーミニ読書感想『台湾対抗文化紀行』(神田桂一さん)

フリーライター神田桂一さんの『台湾対抗文化紀行』(晶文社、2021年11月25日初版発行)が面白かったです。インディーズ音楽など、台湾のカウンターカルチャーを追いかける珍しい紀行文。若者文化とその担い手の飾り気のない言葉を丁寧に拾っていて、知られざる台湾の姿が浮かんできました。


台湾の名所とか、気候とか、そういったものは描かれない。なのだけど、なんだか街の様子がふわーっと立ち上がってくるのが不思議です。

台湾の、いわゆる最先端の街はコロコロ変わるそう。ではどうすれば面白い街になるのか、とある人物のこんな語りが印象に残る。

うまくやるためには、どうでもいい人たちにバレないようなやり方をしなきゃいけないんで、その人に見つからないやり方っていうか。見つかった段階でどん、って来たら終わるので、一日でも一ヶ月でも一年でも長くバレないように自分たちのやり方をやっていく、というのがひとつじゃないかな

『台湾対抗文化紀行』p86

たとえばスタバのような大資本チェーンが、最先端の街だと気付いて出店しようものなら「終わり」だそう。著者も触れている通り、これは日本(東京)とは異なって見えます。たとえば高円寺はずっと昔からカルチャーの街で、今も同じでしょう。原宿もそう。巣鴨もいつまで経っても巣鴨です。

「でもいい人たちにバレないように」という在り方は、どことなく台湾と中国の関係を感じなくもない。実際、別のパートである台湾人は、台湾文化と政治は切っても切れないと語る。

九〇年代までは、(与党である)国民党反対という反権力の象徴。インディ音楽は、中国語で「獨立音楽」と書きますが、この独立は、メジャーレーベルからの独立という意味と台湾の独立という意味の、ダブルミーニングなんですよ。

『台湾対抗文化紀行』p45-46

これも日本とは逆のような気もする。原宿や渋谷を思い浮かべると、政治的には漂白された感じの方が強い。むしろ政治の方が、それらを「クールジャパン」として利用しているように感じます。

台湾という日本に近い場所。アジアの一角だけど、「一国」とはやはり異なる複雑な政治背景を抱えた島。そのカルチャーに目を向けると、日本の姿が鏡のように映し出される。

もし台湾を旅することがあれば、本書に描かれるようなカルチャーや政治性を、街角に探したくなる気がします。

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