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連載小説「転生ビジネス・カオスマップ」第七部 第9話 銀行の情報網

 暫くすると、会議室に一人の女性が入ってきた。

「今日は珍しく、こちらまで来てくださったのですね」

 ヴァーゴを担当している銀行員だ。
 当然、私は面識がある。

「ええ、実は相談があってきたんです」

 すると彼女は申し訳なさそうな表情で苦笑いした。

「はい。大体、想像がついていまして、実は銀行内ですでに審議がなされています」

 ん!?ちょっと待って?

「すでに審議がなされているって、どういうこと?」

 まだ一言も発する前に、早くもお断りモード?
 意味不明なんですけど?

「はい。そこから説明した方が早そうですね。
 実は、銀行は御社が融資を求めてくるだろうという情報をすでに得ています。
 融資額は2〜3兆カルマと聞いています」

 さすがに、私も目が点になった。
 なんでそこまで知っているのよ。

「ちょ、ちょっと待って。誰からそんな情報を?」
「それは内緒ですが……銀行は意外と幅広い情報網を持っていますから…」

 あら、そこでお茶を濁すの?
 うーん……この情報って、取締役会しか知らない内容なんですけど……

「で、すでに審議されたというのはどういうこと?」

 まあ、嬉しい答えは期待できないだろうけどね。
 審議の結果が良い結果なら、担当もここまで苦々しい言い方はしないだろうし。

「はい。ヴァーゴ様は先日、ケンタウリSA買収で1兆カルマを支出しましたよね」
「……まだ、銀行へは報告していないけど。間違ってはいないわ」
「はい。融資委員会から、財務状況に懸念が出ています」
「それは、買収の効果を踏まえて回収する予定よ?」
「もちろん期待しますが、財務上は大きなのれんが計上されています」

 担当の口から、この言葉が出たときはろくなことがない。

『のれん』

 それは、私たちにとって、ときに非常に重い十字架にもなりうる。 

 その担当は、いつも通りの優しい表情と口調だったが、その言葉は外惑星の表面温度と同じくらい冷たく感じた。

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