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芝浜~MBで落語をするならこんなふうに~

MBとの出会い

酔っぱらいの男が一人、夜の六本木を徘徊している。

いつもは築地で魚の商売をしているようだが、今日は日比谷線に乗って六本木に来たようだ。

「まったく、この辺はロクな居酒屋がねぇな!スナックMBもなくなっちまったし、毎日つまんねぇなぁ。
ん?なんか落ちてるな。どれどれ、なんだこの本は・・・・・。」

「表紙が真っ黒じゃないか。たしかこんな状況、どっかで見たことあるな。
そうか!これはもしやデスノートじゃないのか?
早速、中身を見てみよう。」

そうして、男は黒い本を拾い上げ、1ページ目を開いてみると、そこにはこう書かれていた。

~え る し っ て い る か  M B は 魚 し か た べ な い~

そして、次のページには注意書きが記されていた。

ルール

・このノートに触れたものは誰でも、それ以降は毎日(Youtubeで)神が見えるようになり、週末のLive配信で会話が出来る可能性がある。
・原則的に、人の寿命を延ばすことは出来ないが、より濃密な日々を送ることで、間接的に寿命が延びることと同等の効果を得ることがある。
・審美眼を契約すると、その眼で見た服の価値や、着こなしが脳裏にドンドン浮かぶようになる。
しかし、今後の生涯所得の半分を失う可能性がある。


「どういう意味だ?まぁいい、家に帰って読んでみることとしよう」


「コレはすごいものを拾ったぞ!これさえ読めば、最速でオシャレに見えるようになれるのか。よし、まずはMBの言う通りに買い物してみよう!」

男は、服を買いにいく為の服がない事も気にせず、すぐさま街へ繰り出し、「無印の白シャツ」と「ユニクロの黒スキニー」を買ってきた。

「毎日コレさえ来てればオシャレになれるぜ。そうだ!妻に見せ付けてやろう。あいつ昔は新潟市中央区のby intentionとか言うところでハウスマヌカンしてたとかで、すぐに俺のことダサいダサいと言いやがるからな。」

そういって、妻のいる家へと帰った男。

「おい、妻。見てみろ俺を。オシャレになっただろ?」

妻は答える。「えぇ、まぁ。そうね、いいんじゃない?」

「(ほらやっぱり。この本のMBの言う事を聞いていれば、完璧じゃないか!よし、もっとMBについて調べよう。なになに?レインメーカーにジルサンダー。ゴルチエの影響を受けたマルジェラが最強なのか。)よし、明日は東京の銀座に行ってくるわ!」

妻は少し、思うところがあったが、夫の楽しそうな笑顔に何も言えずにいた。
「・・・・・・・・・・。」


翌朝に男は銀座に向かう為、昨日買った白シャツと黒スキニーに着替えた時、妻が声をかけてきた。

「あなた、そんな格好で出かけるんじゃないでしょうね?鏡をよく見てみなさいよ。
いい年したオッサンが、太ももピチピチで気持ち悪いわよ。」


「おいおい何言ってんだ。お前は何も分かってない。ほら、ここに書いてあるだろ?黒スキニーは・・・・・・あれ?ないぞ!俺が昨日拾ってきた黒い本があっただろ。どこにやった!」

妻は呆れている。
「あんた何言ってんの?そんなもんもってなかったわよ。夢でも見たんじゃないの?それよりそのパンツ、何とかしなさいよ。」


「そうか、あれは夢だったのかも知れない。たしかに少し酔っていたからな。仕方ない、自分でなんとかするか。」


そういって、男はユニクロに向かい、ユニクロUの「ワイドフィットテーパードパンツ」を買ってきた。

「どうだい、スラックスならモモに幅があるからピチピチにはならないだろ。無印の白シャツにテーパードパンツ。これで完璧だな。」

妻は、ため息の後にこう言った。
「あんた魚屋でしょ?白シャツにスラックスなんて履いて、仕事帰りのサラリーマンかい?転職なんて考えないでさっさと働きな!」


「そうなのか・・・。俺は生まれてこの方スーツってもんを着たことがないから良くわからなかったんだ。ビシッっと決めるだけじゃだめなのか。」

そういって、今度もユニクロに行き、ヴィンテージレギュラーフィットチノの31ベージュを買ってきた。

仕事感を出さないためには、キッチリしてないような機能性重視の服にすればいいんだな。軍モノなんてどうだろうか。軍用の制服が丈夫な綾織り綿布(made in チャイナ)であることから、チャイナクロス。略してチノなら大丈夫だろ。どうだい妻よ、コレならおしゃれだろ?」

「相変わらずね、あなた。白シャツにベージュのチノパン、それ自体は悪くないわ。でもあなたみたいなオッサン体系が、上下膨張色を着ていたら、なんだか風船みたいよ。もう少しコントラストを付けなさいよ。ついでに少しは体形を隠せるような方法考えなさいよ。」

「そうか。モノは良くても、実際着てみて考えないと、人の体形などによって合う合わないがあるのか・・・。何とか体形をごまかす方法はないものか・・・。」


そういってまたまたユニクロに行き、今度はライトブロックテックコートのブラックを買ってきた。

「これはいい!ロング丈で体系も隠せるし、上半身にボリュームを持たせることで上下のコントラストがついて、よく分からないけどオシャレな人っぽい雰囲気が出てる気がする!」


「あんた今何月だと思ってるの?確かに最近は雨も多かったから、ナイロンのコートがあれば、フードかぶっちゃえば小雨程度は防げるわ。でももう夏よ?どれだけオシャレな格好をしても、状況にあってなきゃおかしいのよ。もう少し季節感ってものを考えなさいよ。」

「そうか・・・。理論はあってるはずなんだけどな。悪いのは気温の方なんじゃないか?まぁ文句言ってもしょうがないか。」

そういって、ユニクロに行き、エアリズムコットンオーバーサイズTシャツの白と、感動ショートパンツのギンガムチェックを買ってきた。

「どうだい、まさに夏って感じだろ!なんだか若返った様な気分だぜ。」


「あなたって本当に極端ね。昨日まで長ズボンにコート羽織ってたとおもったら、今日は半袖短パンなの?あなたは物事を二元論的に考えすぎよ。バランスってもんを知らないのかしら。中庸が大事なのよ。
サッパリはしているけどオシャレの要素を感じないわ。それじゃただの小学生みたいだもの。」

「若返ったと思ったら、小学生にまでなってしまったか・・・。もう少し、細部に宿る大人の魅力ってものを考えないとな。やっぱ男なら高級な腕時計でもして子供とは違うんだぞって所を見せ付けてやらないとな。しかし最近色々買ってしまったからお金がないな・・・。コスパ良く高級感を出さないとな。」

そう言って今度はユニクロに行かずに、街中のセレクトショップを転々とし、FHBの腕時計を買った。右腕にwakamiのブレスレットを検討したが、予算が足りず100円ショップで黒のヘアゴムを買って、右手首に付けてみた。

「どうだい?色々考えたけど、洋服だけでなく小物に頼ることも時には大事かと思ってね。視点の止まりやすい体の先端にアクセサリーをすることにしたんだ。」


「ふ~ん。まぁ良いんじゃない?」

「ホントか?いやぁ~嬉しいなぁ。とうとう俺もオシャレを極めてしまったか!」


「いやいや、あなた重要なところが抜けてるわよ。
たしかに今のあなたはそれなりにオシャレに見えるかもしれないわ。きっと後ろから見たら、私も目で追ってしまうかもしれない。でも振り返って御覧なさいよ。ゴリラみたいなブサイクなオッサンがこっち見てきたら詐欺よ。いや、セクハラね。迷惑防止条例違反だわ。」


「おいおい、随分じゃないか。確かに自慢できるツラではないが、それなりに傷つくよ。
でもまぁ洋服にばっかり何とかしてもらおうとしすぎていたかもな。俺自身も変えていかないとな。」


そう言って、今度は「とりはむチャンネル」でダイエットを学ぶことにした。

「よし、ラ○ザップ仕込みのカロリーコントロールで、体系も随分変わってきたな。コレなら細身の服も着れるかもしれないな。」


今度は、「宮永えいと」のYoutubeでフェイスケアを中心に、大人男子を目指した。

「今度は顔のケアだな。顔は特別扱いする為に洗面台で洗って、保湿もしっかりして、出掛ける時はBBクリームっと。」


「黙っていればそこそこになったわね、でもちょっとしゃべればあなたが今まで全然モテなかったことがすぐ分かるわ。女心ってもんを少し勉強したほうが良いんじゃない?」

そういって、妻に教えてもらった「山本早織先生の恋の保健室」を見て勉強した。


「ねぇ、あなた。最近色々がんばっているのは良いわ。でもね、随分と自分にお金かけすぎじゃない?あなたが一生懸命働いてくれているのは知ってるわ。でも私だって働いているんだし、なにか買ってくれてもいいんじゃない?
それとも早織先生は、釣った魚にエサをやるなとか言ってたのかしら?」


「そうだったね。確かに今まで君が色々してくれていたからこそ、今の僕があるのかもしれないね。分かったよ、エサなんて言い方したくないけど、何かプレゼントするよ。何か欲しいものはある?」

「そうね、FENDIのピーカブーってバッグが欲しいわね。」

男はピーカブーの値段を調べて驚愕した。しかし、妻への感謝を考えると高くはないと考えた。
実は、妻には内緒で、Youtube動画の書き起こしや、動画編集代行をしていた為、なんとか買うことが出来た。

「妻、いつもありがとう。妻が欲しがってたピーカブーを買ってきたよ。大事に使ってね。」


「いらないわ。あなたが使って。」


「なんだと!どうすんだよコレ。結構したんだぞ、お前が欲しいって言うから買ってやったのに!」

「違うの、あなたに使って欲しいの。」

「このピーカブーはレディースのバッグだぞ?俺が持ってたらおかしいだろ!」


「そんなことないわ。今のあなたならきっとうまくコーディネート出来るはずよ。
確かに最初は、MBとかいう人をただマネようとして、ジルサンダーやマルジェラに手を出そうとしてたから、家計が火の車になりそうで心配だったの。」

「だからあなたが拾った黒い本は隠したわ。でも、あれほど酒ばっかりのあなたがファッションに興味を持ったことは嬉しかった。だから、折角なら着こなしを学んで欲しかったの。」

「だから、色々とケチをつけていたのか。そんなことしないで普通に教えていたら俺だって・・・・・いや、あの時の俺は、盲目的なMB信者だったからな。お前のアドバイスを素直に聞いていたかは疑問だな。」

「そうね。最速で70点ぐらいのオシャレに見せる方法は、MBのマストバイをマネキン買いすればいいだけ。でもそれじゃきっと楽しくなくなるわ。
私はあなたと楽しさを共有したかったの。だから、共有で使えるバッグを買ってもらったの。」

「共有?なんだ、結局妻も欲しかったのか。なら納得したよ。」

「これからは、このバッグに思い出をたくさん詰め込みましょうよ。そうね、まずはリンゴを一緒に買いに行って、それからワインのおいしいレストランに・・・・。」

「いや、ワインはやめとこう。また夢になるといけねぇ。」


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