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【大撃沈】チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン(4 Lakes)その④

レース後4日経過。日にちぐすりとはよく言ったもので、一昨日より昨日、昨日より今日と、少しずつ回復してきているが、まだ階段の上り下りがキツいし、足はむくんでるし。練習再開などとてもとても。噂では翌日からジョグしてる人もいるとか・・・意味がわからないよね。

地獄の道行き

それまでも歩き混じりだったのが、78キロ過ぎから完全に歩きだけになってしまった。もはや「歩いてもつらい」状態。「まだ走っている」ランナーに抜かれるのは当然だが、歩いてる人にもじわじわ抜かれていく有様。ガーミンのペース表示はキロ12分をオーバーしていた。

エイド26(80.3km 西湖公民館)にほうほうの体で辿り着いた。惣菜パンを貪り食う。脚をマッサージしてもダメ。再び走り出せる気がまったくしない。休んでも休まなくても同じ気がしたので、またすぐにトボトボと歩き出した。

ここからの西湖湖畔(青木ヶ原船津線)の数キロは恐ろしく長かった。S字にうねった湖岸の道が遥か遠くまで見通せ、その先にランナーが走っているのが見えるのだ。「あそこまで、いくのか・・・」走ったらなんてことはない距離、キロ12分では永遠のごとくに感じられる。

そしてふと思った。「おれゴール間に合うんか?」その頃、14時半すぎ。スタートから10時間が過ぎようとしていた。100キロの制限時間は14時間である。あと4時間。残りは20キロはない。時速5キロなら間に合う。しかし、時速5キロはキロ12分だ。エイドで止まったりすることを考えると必死で歩いてギリギリだ。まして今のこの脚の状態では最後の上り坂をそのままキープできるとはとても思えない。

リタイヤの恐怖

「リタイヤか、タイムオーバーか」今までたくさんのレースに出て来たが、本気でこの二つを心配したのは初めてだった。

「いや、そんな訳にはいかない」ヘタレる心を振り払い、歯を食いしばって歩きながら、考えた。ここでリタイヤしてしまっては、応援してくれてるみんなに顔向けできないではないか・・・それに、まだタイムオーバーと決まったわけではない。最後まで足掻いてみよう。今できる最善を尽くそう。

そうだ!まだ痛み止めを呑んでなかった。ウエストポーチに忍ばせていたカロナール2錠を呑む。さらに残ってたBCAA、エイドでもらった超辛い塩飴、レーズン、チョコ。これで効かなかったらもう諦める。そうしてる間にもどんどんと周囲のランナーに抜かれ続けていた。何か服用したからと言ってすぐに効くわけもなく。

この区間は次のエイドまで5キロ近くあった。西湖の東端を右折して、トンネルを抜けて例の激坂を下るところだ。どのあたりだったかもう記憶があやふやだが、ふと痛みが緩和して来た気がした。しめた、痛み止めが効いて来たようだ。もしかして、また走れるかもしれん。いや、しれんじゃなくて、走ろう!

奇跡の復活

激痛は相変らずだったが、なんとか走れた。「走れる!走れるぞ!」よし、こうなったらいけるところまで走り続けようと決めた。どこに仕舞い込まれていたのか、急に力が戻って来たように感じた。

さすがに例の激坂下りはヤバいんじゃないかと思ったが、案外大丈夫だった。自分でも驚いた。ペースは7分半とかだが、さっきまで12分オーバーしてたことを思うと劇的である。さっき抜いていった人をポツリポツリと回収しながら。この坂をこなせば、あとは河口湖で最後の激坂までは平坦だ。いけるかもしれん!勇気が湧いて来た。

エイド27(85.2km 足和田)。こういう時は一旦止まると流れが止まってしまうのが怖かったが、さりとて給水しないわけにもいかない。水、クエン酸ドリンクをしっかり飲んで、被り水で頭も冷やす。気温は20度ぐらいになっていたようで、暑さに参っていたランナーも多かったようだ。しかし自分は真夏に走るのが「仕事」であるから、そこはまったく問題なかった。「まぁ、暑いといえば暑いけど、脚の痛いのに比べたら大したことないよね?」

幸い、エイド後も再び走り出すことができた。こうなったら最後の激坂の入口までは走り通してやる。再び走り出したのが85キロ近辺、95キロまで走れば相当な貯金ができるはずだ。河口湖畔をひたすら淡々と走り続けた。足は痛い。痛いけど我慢して走れている。これがあの「ウルトラ後半の奇跡の復活か・・・本当にあるんだな・・・」

ブレスレット化

道の駅かつやまのあたりだったか、ガーミンが再び脈絡のない距離で「ピロリ」と鳴った。そうだ、忘れていた、バッテリーが枯渇していたのだった。「Power Off. Recording unsaved data」だかなんだかのメッセージが出た後、それは「黒いブレスレット」に成り果てた。88キロの手前だった。残り12キロ。手探り状態で進まなければならない。

奇跡の復活、そして87.9km ガーミン、死亡

エイド28(89.2km 浅間神社北駐車場)。クロワッサンがあった!嬉しい。無心で頬張る。美味い・・・気付けにコーラも貰う。少なくとも補給に関してはもう不安はなさそうだ。あとは坂の始まりまで粘り切るだけ。遠くに河口湖大橋が見えて来た。往路のあそこから40キロ以上走って来たのか。よく頑張ったなぁ・・・よし、絶対完走する。

90キロ通過。11時間24分41秒。しかしその時は何時何分なのか、既にわからない状態だった。そこから腕を持ち上げては「あっ、死んでるんやった」と何度やったか知れない。ジリジリと大橋の方ににじり寄って行き、ついに河口湖大橋につながる道まで戻って来た。

味噌汁エイド

次のエイド29(92.4km 役場駐車場)まではたった3キロちょいなのに、ものすごく長く感じた。このエイドでは復路でも味噌汁を振る舞ってくれた。ありがたい!しばらく前を走っていたサンダルのランナー(!)が激痛に顔を歪めながら座ろうとしている。「大丈夫ですか?座っちゃって・・・」思わず声をかけた。「無理っす!正座できないっすね・・・」それでも彼は体育座りに持ち込んで、味噌汁を食い始めた。ワイルドやなぁ。

誰かが係の人に聞いている「エイド、最後ですか?」。いい質問だなぁ。聞こうとおもったんだよ。「もう一つあります。坂の上。」坂の「上」かよ・・・

意を決して早々にエイドを後にする。そこからまたすこし上り基調になる。もう痛み止めは切れて来た気がする。痛い・・・痛い・・・再び走り出すのが躊躇われたが、さっきのサンダルのお兄さんは走り出したではないか。クッソー、やってやんよ!!

ラスト5キロ

また、ギリギリと歯を食いしばりながら進む。国道なのですこし走ると信号待ちだ。皆生の終盤を思い出した。「あのときも辛かったけど、ここまでじゃなかったよなぁ・・・」「でもあんときに比べたら暑くないから今の方がマシか?」「もう、しばらく信号変わらんでええぞ・・・」などと考えながら。

しばらく淡々と、いや、苦痛に顔を歪めながら市街地を走り抜け、右折してまた富士山を正面に見るといよいよ山道はすぐそこ。ちょうどそのあたりに「4Lakes あと5km」の標識があった。「ヨシ5キロ!」思わず声が出た。まだ、走っていた。

そこからまた淡々と、いや、ただひたすらに苦痛に耐えながら、感覚的にはキロ8分オーバーくらいの感じで走り続けた。長い長い1キロだった。「4Lakes あと4キロ」あの奇跡の復活から10キロ超走り続けた。よくやった、よくやったよ俺・・・もういい。ここでいい。三たび、脚が止まった(歩き)。もう、再び走り出すことはできなかった。

何度目かの終了

いくらなんでも残り4キロ、全歩行でも1時間あればどうにかなる。さっきの計算からしたら、走った分で・・・えーと、、、わからん!!もう頭ももうろうとして細かいことが考えられない。さっき走ってたときに抜いて来た人たちにまたどんどんと抜き返される。そしてジリジリと進み続けてあと3キロ。1キロが永遠のように長く感じる。

ついに最後のエイド30(98.3km 河口湖フィールドセンター)着。もうここまでくると、余力を残してる人たちはエイドをスルーして行ってしまう。しかし自分はもう歩くのもギリギリ。最後の最後のスポドリをもらい、水で脚を冷やす。あと、たった1.7km。係の人に時間を聞いた。「5時半くらいだから・・・もう歩いても大丈夫!」そうか、いまだいたい13時間ってとこか・・・よかった、完走できる・・・(でも、もう走れないけどな)

周りのみんなはもう最後だからとラストスパートを始めている。いったいどこにそんな余力を残していたのか・・・まぁこれは完全にペース配分ミスだわな。でも全く知らない初めてのコース(下調べが不十分だったのは、認める)、仕方ないよなぁ・・・ズルズルと歩き続けてついにあと1キロ。

ラスト1キロ

もうすっかり薄暗くなって来たので再びサングラスとメガネを掛け替える。パッと視界が明るくなり、すこし気分も晴れた気がした。でも身体の方はもう全身ガタガタ。ついに最後のT字路、北麓公園の北端に戻って来た。「キターッ」と喜びに打ち震えたいところだったが、ただひたすらに激痛に耐えながらトボトボと歩くしかなかった。

そこから公園入口まで約500メートル、なかなかの下り坂である。みんな元気よくガンガン走っていく。いいなぁ・・・情けないなぁ・・・駐車場が近いこともあって、沿道の応援も次第に増えて来て「ナイスラン!最後だよ!もうすぐだよ!」嬉しいんだけど、ナイスランじゃなくて「ワーストウォーク」なんだよなぁ。

競技場の喧騒が聞こえて来た。ああ、あそこにたどり着けば終わる・・・やっと終わるんや・・・もうあと数百メートル。最後ぐらいは走りたい。でもまだ走れない。公園の入口を通過。いや増す観客の声。苦痛に顔を歪めてヨボヨボと歩くおっさんの姿に、みんな「こいつを応援しよう!」という気になるのか、一層エキサイトした声掛けをしてくれる「がんばれー!!」嬉しいけど、くやしい・・・

競技場の入口を通過。いくらなんでもここからは走らんとカッコつかんやろう。最後の最後。ここだけでも走ろう!痛む脚に鞭打って走り出した。嫁さんがいた。「おかえり〜!頑張ったがんばった!」心配しただろうなぁ・・・

競技場のゴールゲート。司会の人がエントリー時の意気込みを読み上げてくれている。「初のウルトラです。自分がどこまで通用するか、試してみます」ああ、当たり障りのないことを書いといてよかった(笑)。

ゴール

13時間17分23秒。恐ろしく長い1日が終わった。

 長かった・・・

「これで、ウルトラランナーの端くれになった(歩いたけど)」

つづく(つづくんかーい)

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