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航跡  #ショートショート

私は、船に乗って旅をする時間が何よりも好きだ。
豪華クルーズ船での世界一周旅行には憧れるが、船の大きさや旅の種類には拘らない。
対岸がすぐ目の前にある渡し舟でも十分に楽しめる。
 
とは言うものの、映画タイタニックの様に、ステキな女性と舳先で風を感じる瞬間を味わいたいと思うこともある。
あの映画タイタニックの場面においては、アメリカという新世界を目指す若者にはやはり、舳先が相応しい。
もし、主人公が60歳代だったとしたら、場面は船尾になっていたことだろう。

だからだろうか、私は舳先で風を感じるよりも船尾から航跡を眺める方が好きだ。それも、真っ直ぐだった航跡がゆっくりとカーブを描いてゆくのはたまらない。
 
残念ながら、今日乗船した船は小型船だった。
それでも泡を含んで伸びて行く航跡は、十分に私を楽しませてくれている。

その時だった。大型船の引き波に大きく揺られ、思わず私は、デッキの手すりにしがみついた。
 
「フゥ~」
眼を開けると湯船のフチにしがみついた現実に引き戻され、大きく息を吐いた。
 
本当は、湯船に浸かりながらのそんな時間が一番好きなのだ。

 
ー終わりー
468文字

残念ながら、我が家は泡風呂ではありませんが、足が延ばせるように大きめのバスタブにしています。
顎まで浸かってウトウトしていると、ズリっと鼻まで沈んでしまい湯船のフチにしがみつくことがあります。たまにですけどネ。

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