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ヴィーガン・ベジタリアンの人権③「植物はかわいそうじゃないのかよ?」に答えます


※②の続きです。



ヴィーガン・ベジタリアンへの偏見や不快な質問


——引き続きアンケートを見ていきます。

「実生活の中で偏見を持たれることや不快な質問されることありますか? 具体的なエピソードやセリフがあれば教えてください」という質問がありました。これに対して一番多かった回答は、皆さん薄々おわかりかと思いますが・・・

「植物はかわいそうじゃないんですか?」ですね。

「宗教と思われる」「変な思想・過激なもの・押し付けと思われる」というのも結構ありました。

ヴィーガンが不健康で痩せてるものだという思い込みもありますし、

「動物性の食品をすすめられる・からかわれる」というのもあったり、

「肉食を肯定される」「肉おいしい」と言われる、というのもありました。

存在自体を驚かれること、からかいや攻撃の対象とされる、なじられるということもある。

あと、「畜産農家を潰す気なのか」と怒られたりしたという声もありました。



辟易してます、この質問。


——ここでエクササイズとして、今日のゲストとレギュラーの皆さんに、「植物もかわいそうじゃないの?」と言われたら何と答えるかを実演してもらおうと思います。

まずタイプ1。通りがかりの高校生に対して何と答えますか、櫻井さん。シチュエーションを作って来たので読んでいきましょう。

櫻井 そうですね。ロジカルにこの子に答えていいんだろうかと思って悩んでいるんすけど、「植物は切っても痛みを感じないから大丈夫なんだよ」と返すかと思います。

——「そういうデータがあるんですか?」って言われたらどうします?

櫻井 今の科学でわかっている範囲では植物に痛覚がない、という話はできるかと思います。

——はい、チラシ受け取ってくれる人ですからきっと考え続けてくれるでしょう。

次、シチュエーション2「面倒くさい先輩」。黒瀬さん行きますよ。


黒瀬 二通りの答え方があって、この質問はまず「区別と差別は違う」ところから始めた方がいいかな。区別するのは当たり前です。人間の中でも、男も女は違うし、年齢によっても違うし、髪の毛の質によっても違うし、背の高さ、数学ができるかどうか、国語ができるかどうか、どの学校に行っているのか、どこで生まれたか、どんな社会を思い描いてるのか、みんな違います。 区別があるのは当たり前で、区別それ自体に善悪は伴わない。

 それに対して差別というのは、そこに善悪や優劣の価値観を持ち込むこと。「あなたは就学ができないから駄目だよね」「あなたは肌の色が黒いから駄目だよね」といった価値観を持ち込んで、個人的にであれ、社会的にであれ、その人の状態を悪い方向に持っていったり、直接の攻撃の対象にすること。そういう観点で考えると、まず人間と動物は違うのは当たり前で、それは当然ですよと答えます。

 植物という話を持ってこられると、櫻井さんが言ってくれたように、まず、「動物と植物は違うよね」と。人間と動物の、例えばここで想定するのは豚や牛、鶏や魚までのことですが、 まず人間も動物であって、牛や豚や人間の共通点を考えると、植物の方がまず自分たちより遠いよね。牛と自分たち人間との距離と、僕たち人間と植物の距離では、植物と人間の距離の方が遠い。 牛とか豚とか魚というのは、科学的にも、何かを感じて、何かを考えて、何かを望む。喜怒哀楽があって、恋をしたり、いろんな個体と関係を築いて、他の個体が傷ついたり死んだりすると悲しむ可能性も持っている存在である。でも植物には、少なくとも今のところはそういうことが認められていないし、植物の死と牛などの死っていうのは明らかに性質として違う。植物は例えばその辺の葉っぱをちぎっても枝を折ったりしても死なないけど、人間や牛の足や耳をちぎったりすると、基本的には元には戻らない。そういう命のあり方が全然違っている。

 これがまず一つ目の答え方ですが、そういうことをグダグダと言っても多分あんまり納得してくれないだろうから、二つ目の答え方としては、「もしあなたが植物の事も本当に大事だと思うのなら、動物を食べるのを控えるべきだ」と言うと思います。家畜動物、特に今の工場畜産のあり方だと、例えばアマゾンの熱帯雨林の消失が有名なんですけど、大量の大豆やトウモロコシを、牛とか豚の餌として育てて、それを遠い国から持ってきて、日本に仕入れてきて、それをたくさん食べさせて、それで育った牛とか豚とかを食べてるわけだから、そういう過程を考えると結果的に、豚肉や牛肉を食べることは、そういった自然破壊=植物を殺すことに繋がっている。だからヴィーガンの方が、植物を殺せないし傷つけていない。あなたはどう思いますか?・・・っていうかな。

——素晴らしいですね。完全に論破できたんじゃないかと思います。

じゃ、栗田さん。カリスマ的なフェミニストに言い返してください。

栗田 「同じレベルで考えてはいけません」と言った直後に、あなた動物のことを考えるの止めてるでしょ、と言いたい感じはありますよね。そういうジャブを飛ばしつつ、まず動物の声をわたし達は本当に聞けないのだろうか、ということは考えたいですよね。だって今、ペットの動画とかを見ても、あたかも話が通じているかのように、あるいは通じているという前提のもとに成り立っている。この間の羽田空港で飛行機が燃えてしまった事件のときも、ペットが2匹犠牲になっちゃってみんな心痛めていましたが、動物たちの声を聞けないというけれど、実はわたし達はすでにもうその現実を踏み越えて、憶測したり代弁している事態がまず存在してるじゃないかと思います。

 むしろ問題は、政治的に強い動物を憶測してばっかりいたり、あるいは憶測しなかったり、ということが、むしろ恣意的に行われていることの方が問題じゃないか、と。動物のことに関して言えば、ペットだって畜産動物と同じで、人間の意志一つで運命が変わっちゃうという点では同じだけれど、ペットと畜産動物は同じ動物であっても、痛みを無視していい存在と、かわいがるべき存在と分けてしまっている。それは逆に言えば、憶測が既に働いているということなのだから、その現状の中で「憶測するなんておこがましい」ということは、そう言うことこそずいぶんおこがましいんじゃないんですか、と返すことはできるかなと思います。

——ありがとうございます。

最後に生田さん。厄介の年長の活動家にどう対応するか考えてみてください。

生田 こんな人多分いないと思うんですけど、仮にいたとして、先ほどの黒瀬さんと話とかぶる問題で、たしかに「植物も命じゃないか」というのは合ってはいるんですよ。だけど、やっぱり感覚があるかないかの違いは大きい。例えば、ぼくたちは野菜を切ったり、油で炒めたり、電子レンジにかけたりするけど、犬や猫を生きたまま電子レンジに入れたり油で炒めたりする人はほぼいないと思うんですよ。だからみんな、野菜の痛みの感覚と動物の痛みの関係はまったく違うということはわかっている。なので、「あなたもそもそも、動物を殺して食べるということと、植物を殺して食べることの違いはわかってるんじゃないですか?」というふうに言うんじゃないかと思います。

 あとは先ほど黒瀬さんからもあったように、畜産をするとものすごい量の植物を動物たちに食べさせて育てないといけないので、肉を食べると、結果的に菜食のみよりも植物をより多く殺す結果になる。そういう話をすると思います。

——ありがとうございます。だいたい回答は出揃いましたね。この辺を使ってもらえればみなさん言い返せるようになるかと思います。

 ちなみに、上記のシチュエーションはわたしの想像ですけど、言われたセリフはだいたいわたしや周りの人が実際に言われたことです。なので、食事のたびに、「痛い痛い」と横から茶化してくる人も実際にいます!

生田 そうなんだ。僕の認識が甘かったです。

——炊き出しに来るかもしれませんよ。

 ちなみにわたしは、この質問に対しては『ダーウィン事変』という漫画がいい回答をしていると思いました。既に出た回答と近いですけど、「植物が痛みを感じてるかどうかは今の科学者にも明確には答えられないところではあるけど、アリやキャベツの意識について明確にわからなかったとしても、牛が苦痛を感じることは明確にわかっている」。だから肉食はやめるべきだ、というようなところで、わたしはこれが使いやすいと思っています。

※ 注記:座談会終了後のアンケートで視聴者の方から、「私生活の中で明らかなからからかいとして行われた言動なら、そもそも相手の質問に答える必要もなく、『嫌がらせで言ってるよね』『わざと混ぜ返さないで』と指摘する」という選択肢も提示していただきました。たしかに必ず答えてあげてあげる義理もないですね。



ヴィーガン・ベジタリアンお悩み相談室——1ヶ月の食費はいくら?etc.


——では寄せられた質問に答えていきます。

Q1 「一ヶ月の食費はいくらですか?」

——わたしは2〜3万かな。生田さんはどうですか。

生田 いくらかな。一般と比べて低いと思うんですけど、ただ仕事で出ると外食するんでその分高くついちゃいます。家ではニンニクとトマトをベースに、野菜やキノコ類をいっぱい入れるパスタをよく作ります。朝はパンにアボカドをのせて塩コショウと植物性マヨネーズをかけて焼いて食べる。あと豆乳ヨーグルトにシリアルみたいな。外食するとやっぱり一食700円かかるんで、1日で言ったら1000円いくかいかないかかな。外食でもやっぱり困るんですよ。だいたい肉を使ってるんで。でもたまたま玄米カレーをやってるお店が職場の近くにあって、そこで「肉なしでやってくれますか?」って言ったら、店主が「できる限り要望に沿いますよ」と言って作ってくれて大変助かっています。 (追記、このお店は2024年3月で閉店しました。残念! 今後は、ネパール料理店の豆カレーなどを食べる予定)

櫻井 わたしは厳密にはいくらかわからないですけど、HUELという完全栄養食を飲んでいて、朝はパンで、昼はHUELを飲んで、夜は味噌汁とご飯と納豆とかパスタとか、そういう生活です。HUELが1杯300円くらいで、半分しか飲まなかったりもするので曖昧ですけど、皆さんとあんまり変わらないかなとは思います。

黒瀬 僕は今学生なんですけど、博士課程に進むことを考えているので、最近は特に節約してて、できるだけ月に1〜2万円に収まるように、野菜でも見切れ品を買ったりしてます。時々外食したりはするんですけど、月1万5000円前後ぐらいに収まるようにやっています。自炊中心だと意外と安く済むんですよね。米とパスタはすごく安いので、それを軸にすると、そんなに高くない。厚揚げとか豆腐とかも安いし。

——豆腐使ってると安くすみますよね。豆腐ステーキとか、豆腐でハンバーグ作ったりとか。

黒瀬 以前、同じぐらいの年齢の学生のヴィーガン・ベジタリアンの人たちにアンケートしたんですけど、「自炊すると食費かかんないぜ」ってみんな言ってました。むしろ肉食べたときより安くなったって。日本はあんまり野菜も高くないし、ちゃんと自炊する習慣ができたら、ベジタリアン・ヴィーガンでも意外と安いぞというのは強調したいです。

生田 玄米を食べると安くて栄養価がつきますよね。 玄米と納豆と味噌汁と野菜を食べると大体の栄養素はカバーできる。僕の近所のスーパーが毎日110円ぐらいで玄米一パックを売ってるので、しょっちゅう買って、カレーや納豆をかけて食べてます。

—わたしも基本毎日、玄米&味噌汁がベースですね。

*こちらの記事も合わせてどうぞ。


Q2「ヴィーガンであることを周りにどうやって打ち明けましたか?」

——わたしはヴィーガンになったときに友人たちには、「わたしヴィーガンになったから」って一斉に言いましたね。

黒瀬 皆さんそうだと思うんですけど、最初は、動物の暴力を目にしたばかりで重く捉えてるので、僕もかしこまって「これはもうベジタリアンになるしかないぞ」ぐらいの覚悟を持って、そのとき入っていた団体の人たちに「皆さんお話があります」と言ったら、「なんだなんだ」とざわめきだして、僕が「もう肉を食べるのやめます」と神妙な顔して言ったら、「おう・・・」と変な空気になりましたね(笑)。それぐらいやると「そうか。なんか辛いことがあったわけじゃないんだな」と逆に心配されたりしてました。ただそれはすごくエネルギーがいるから、はじめのうちはそうやってたんですけど、だんだん、出会い頭に出身地を言うくらいのノリで「ヴィーガンだよ」と言うのに慣れていったかな。

――どんどん慣れていきますよね。


Q3 「本当は魚介類なら食べてもいいと思ってるわけでもないのですが、日常ではヴィーガンであるよう心がけていても、法事の場など、100%菜食選ぶことができない人もいるのか気になります。」

——わたしも旅先で本当に食べるものがないと、魚介までは許容することがあります。島とか。

黒瀬 僕もそんな感じです。あと、仕事はまだはじめてまもなくて、慣れていないのにいきなり「食べない」と言うと、営業成績が下がっていくから葛藤中です。


Q4 「日本ではヴィーガンの友人初めてという方も多い。そういう友人たちにヴィーガンは違うものだという見方をしてシャットダウンさせてしまうのではなく、陸続きの考え方であると伝えられるような言い方はありますか。」

黒瀬 いきなり初対面であんまりこういったことを話す機会もないと思うし、無理やり話そうとしない限り、僕の場合はまず関係性を作ってから話しています。僕の友達には逆に最初に「こういう理由で私は動物を食べてません」と暴力性の話も含めて伝えるタイプの人もいて、それぞれやり方はあると思うんですが、僕の場合はまず自分と相手がわかり合える存在だという関係を築いた上で、込み入った話をするようにしています。

生田 僕も基本的に同じで、いきなり初対面の人にそういったことを話すのは無理だと思うんです。ただ、伝統的な畜産と工業畜産を完全にごっちゃにしている人が多いので、20世紀以降の工場畜産がどれほど動物に対して構造的な暴力を振るっているか、ということをメインに伝えなきゃいけないと思っています。何となく伝統的な小規模畜産のイメージで「肉を食べてもいいじゃないか」と思っている人がいると思うんですが、現状の動物に対する畜産がそれとはまったく違うということが決定的なところじゃないかと思います。



くれぐれもご自愛ください――みんなでベターを目指しましょう


黒瀬 いろいろと喋りましたけど、僕もヴィーガンの事で失敗して来たことはたくさんあるし、ずっと試行錯誤はしてて、完全な答えではないだろうなって思って喋ったこともたくさんあります。 今のところの結論として、ヴィーガンはめっちゃマイノリティで、めっちゃストレス抱えやすいので、その辺はマジで自分を大事にしてほしい。ヴィーガンじゃなくても、ヴィーガンになろうとしているヴィーガン志向の人でも、十分社会的に脆弱な存在になるので、それをちゃんと受け止めて、自分を大事にしてほしいです。

 あとは、ヴィーガンになると、ヴィーガンであることの一貫性にこだわってしまいがちだけど、ヴィーガンであるというアイデンティティは、もちろん大事なものだとは思いますが、自分の生活に入り込んでいるいろんな要素の一つにすぎなくて、どういう生活をしているかとか、どういう友人関係を持ってるか、どういう仕事をしているかとか、他の無数の要素に影響を受けているはずなので、そのような多面的で、一貫性のない、駄目なこともしてしまう自分も受け入れて、できるだけストレスなく生きてください、と、自分自身に言い聞かせてもいるんですが、みなさんにもそのことを伝えたいです。

生田 今日のテーマのヴィーガン問題ですけど、僕はヴィーガンにもベジタリアンにもなれなくてフレキシタリアンで、どうしようもないときはちっちゃい肉は食べることもあるし、卵・牛乳製品も食べることがあります。ただ、以前と比べると90数%減ったと思うんですよ。でも、97〜98%や100%に行くのがすごく大変なのは、やっぱり外食での困難など社会的な環境の問題が大きい。それを何とかして変えていきたいなとは感じています。

 ただ、僕の経験でも思うけど、この程度のフレキシタリアンなら、そんなに苦労なく簡単にできるんですよ。社会全体としてフレキシタリアンがもっと増えていって、工場畜産の製品を減らすことは運動の目標として立てやすいのかなとは感じています。今日はヴィーガンとして生きている皆さんの意見を聞いて、改めてすごいなと尊敬の念は持ちますし、自分に何ができるかということを改めて感じました。

——ヴィーガンであるかどうかでわたしも人を区別してしまうことがあるんですけど、でもそうゆう白黒で切るんじゃなくて、ヴィーガンやベジタリアンでない人の中にも、栗田さんみたいに動物の問題のことを外で話してくれたりする人もいるので、そこで切り捨てちゃうともったいないのかなと感じてます。

 最近アニマルライツセンターが問題提起してるんですが、茨城県のレンコン畑で野鳥の防止ネットで野鳥が絡まっちゃって、生きたまま衰弱して死ぬ、ということが起こっています。それに対して行政が何も処置してくれないんですね。レンコンは野菜だから動物性のものは含まれていないけど、確実にそこで採れたレンコンは動物虐待に加担してますよね。それを聞いてからわたしはスーパーではレンコンを買う気にはならないんですが、外食したときにレンコンが入っていても「これ何県産ですか」とまでは徹底できない。

天井型防鳥網に絡まり死んだカモ 2021年2月茨城県レンコン田(写真:アニマルライツセンター) https://arcj.org/issues/other/wild/jikaokiami/

 だから、野菜を食べていれば動物虐待に全く関与しないで済むのかというと、そうではないので、動物性のものかどうか、0か100かで判断するのではなく、みんながベターな方に——なるべくフレキシタリアンになるとか、なるべく動物性の商品を減らす、という形で見た方が、自分としても楽になるのかなと考えています。今日はみなさんありがとうございました。

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