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入院記録(裏)

 通常の入院記とは別に記していく。エロいことを書いているわけではない。不安、妄想、おおやけには書きにくいことなどを、隠れるようにして書く。もちろん個人情報には注意して。通常の入院記は投げ銭設定で全文読めるようにするが、こちらは覚悟のある方向けにハードルを上げておく。

通常記録(投げ銭設定、全文読めます)
https://note.com/dorobe56/n/n55dc23172f1f

https://note.com/dorobe56/n/ndf0469e73215

 人の気持ちに共感しすぎて自身までつらくなるタイプの方は読まないでください。


 入院中の患者がどのように不安を増大させていくかを知りたい人などにはお勧めかもしれません。


 以下本文。



 目覚めと同時に賭けに負ける。

「全部夢だった。家の布団で寝ているんだ」そんな願いは目を開ける前から聞こえている、病院内の音で打ち砕かれる。誰かが鳴らしたナースコール。長期入院患者の問題児が看護師に絡む声。家の布団にあるはずもない、ベッドからの転落防止柵。


「ごめんなさい、誤診でした! 脳脊髄液はどこからも漏れておらず、ただのひどい偏頭痛でした! 今日退院して結構ですよ!」

 医師のそんな言葉を待っている。しかし世間では三連休で主治医の姿はない。


 ひとまず2週間入院予定の6日目の朝にこれを書いている。


 不安の種。


 スマホ、充電器、Bluetoothマウス、Bluetoothキーボード、スマホ置き、これらの機器が壊れてしまうことを恐れている。その恐れが肥大して、過敏になっていくのではないか。


 ベッドの横に床頭台(しょうとうだい)という物がある。テレビが置いてあったり、タオルや貴重品入れや、小型冷蔵庫を備え付けられるようになっている台だ。テレビも冷蔵庫も利用しない私にとっては物置きでしかない。床頭台とベッドの間の隙間にティッシュ箱を置いて隙間落下防止とし、その前にスマホスタンドを斜めにセッティングして、寝ながらでも使えるようにしてある。


 頭を起こさないようにするため、普段はベッドを完全にフラットな状態にしてある。食事の際には斜めにして軽く起き上がる。その際に、「寝ながらスマホ」に最適化した先程のセッティングは崩さないといけない。


 物をどかし忘れて下に落としてしまうとか、実際にはそんなことはないのだが、ベッドを傾ける際に巻き込んでキーボードをバキバキに壊してしまうとか、そんな悲観的な想像をしてしまう。


 それらはもはやただの周辺機器ではなく、私にとっての手足であり、言葉であり、意思なのだ。今は微かな不安の種でしかないその心配事も、だんだん大きくなってこちらを押し潰してくるほどになるのではないか。落としそうになるだけで大きな悲鳴を上げるとか、物をどかす前にベッドの角度を変えようとした看護師さんを怒鳴りつけるとか、そういう風になってしまうのではないか。

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