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「詩の出てくる小説、詩を歌う人たち、そして詩の話」#シロクマ文芸部

 詩と暮らす、の書き出しから始まる小説に何度も駄目を出したので、最近読んだ本の中に出てきた詩の話など。

川又千秋「幻詩狩り」

 アンドレ・ブルトンが中心になって起こした「シュルレアリスム運動」の最中に、フー・メイという、ある無名の詩人がいた。ブルトンに託されたその原稿を読むと、言葉で書かれたものであるのに、言葉以上の物を見せられてしまう。「鏡」という一編は、言葉で書かれておきながら、物体の鏡と同様の効果を読者に与える、というように。「時の黄金」と題された一編を読んだ者は、時間の概念を理解し……。冒頭、麻薬のように扱われる「時の黄金」と、詩の記憶を抹殺するために中毒者を殺す取締官の話から始まる。詩が劇物となった世界の話。

相川英輔「黄金蝶を追って」

 第13回坊っちゃん文学賞佳作受賞作「日曜日の翌日はいつも」、海外SF誌に紹介され、日本よりも先に海外で評価された「ハミングバード」などを収録した短編集。
「ハミングバード」は、先住者の幽霊が出る物件に住む女性の話。引き継ぎの際にも会ったこともあるその男性は半透明で、毎日律儀にルーティンをこなしていく。朝食後、何かの本を朗読するのを日課にしていたようだが、後にそれは「ポエトリー・リーディング」の大会に出ていた人たちの作品の中から、気に入ったものを朗読していたのだと判明する。

 近頃ノンフィクション系の本ばかり読んでいたのを、徐々に小説に引き戻していこうとしている。そんな中で読んだこの一冊は、本を読み始めた中学生くらいの感覚を思い出すような、「次はどうなるのだろう」「何かうまくいえないけど良かった」といった喜びをたくさん味わえた一冊だった。「六十年代まではまだ魔法が残っていた。」の一文から始まる表題作が特に良かった。

 続いて音楽に移る。
 定期的にポエトリー・リーディングラップを聴きたくなる。不可思議/wonderboy「 Pellicule」を初めて聴いた時からそうだ。

 でも不可思議ワンダーボーイはもういないから。もうこの世にはいないから。いなくなってしまった不可思議ワンダーボーイじゃなくて生きている狐火を聴こうよ、なんてどっちにも失礼なことを思ったりする。不可思議ワンダーボーイの声は残されたトラックを通して聞くことが出来るけど、どんな感傷もどんな言葉も彼にはもう届かない。でも最近狐火を聴いてるって一言ポストするだけで、狐火本人からいいねが送られてくる。
 そんなわけで「Pellicule」を聴いて、狐火の「Answer Pellicule」の動画を観て、

 最近の狐火はどうなってるんだろうと思って探したら今年もアルバム出してて。
「ヒップホップ」を聴く。

アルバムリリースが22枚を超えても
「数打てば当たる」が実証出来ず
次の1枚にまた手を伸ばす
ここから逃げた時に自分には
何も残らないことを知っているから

狐火「ヒップホップ」より

 また詩の話。

 詩と過ごしていた日々があった。毎日書き続けて1000編を達成した。でも詩をやり抜こうとする覚悟とか、何があっても書き続けようとか、そういう気概は失ってしまった。詩誌に投稿していた同時期の人たちがどんどん大物になっていくのを横目で見ながら、詩から離れていった。

 でもある日、かつて大好きだった詩人の詩がXのタイムラインに流れてきた。名前を見る前に、書き出しの一行で誰の詩か分かった。

 たもつさん、現在の名前はたけだたもつさん。大量の詩を書き続ける彼だが、何年も書かない時期があったらしい。何年ぶりかで読むたもつさんの詩に触れながら、現在の発表頻度に安心して、「いつでもたもつさんの詩を読めるんだ」と思って、毎回読むわけでもなかったりする。でも不可思議ワンダーボーイにはもう届かない声が狐火には届くように、折に触れて「たもつさんっていう、いい詩を書く人がいるんだ」ということを伝え続けていきたい。

 また詩を書きたいな、と思いつつ、もう詩は書けないな、とも思っていた。詩的表現から離れていった結果、自分が詩を書く理由がなくなったと思っていたから。でもある日ふと、息子との怪獣人形遊びについて、書き残しておきたいなと思った。散文形式とは違う形で。詩だなんだと深く考えず、「行分けして書き残しておきたいこと」という考えでいいんじゃないか、そう思って「怪獣詩集」のシリーズを書き始めた。「ゼットン」「ゼルガノイド」「エンペラ星人」と書いた。「ベリアル」「ザム星人」「カオスヘッダーイブリース」とどんどん続けていける。

時は流れ
近所にできたリサイクルショップで
息子は怪獣たちのソフビ人形と出会ってしまった
以来少しずつ我が家に怪獣人形たちが増えていくことになる

しかしゼットンはその巨大さと動かない関節ゆえに役割が違う
「ゼットン先生」として、怪獣たち(それと少しのウルトラマンたち)の教師役となる
授業を始めるゼットン先生は
後ろから飛び蹴りを食らったり
時にはうんこをかけられたりする

泥辺五郎 怪獣詩集1「ゼットン」より

(了)

シロクマ文芸部「詩と暮らす」参加作。
最近ギャグテイストの小説ばかり書いていたので、いろいろ試してみたものの、「ギャグと詩の相性の悪さ」が仇となり断念。でもふと目を移せば、あらゆるところに詩は溢れていたと気付き、各紹介をしてみました。


入院費用にあてさせていただきます。