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教養が追いかけて来る

 毎日1ページずつ読むタイプの教養の本を読んでいる。それが段々しんどくなってきた。連日連夜、教養がオレを追いかけて来る。頭さえ悪くなければこうはならなかっただろう。オレの頭は、ゴールデン・レトリバーとオセロしてもギリ負ける。

 具体的にどこがしんどいか説明すると、項目一つ一つに必要な予備知識が多過ぎるのだ。難しい漢字や知らないカタカナばかり使って来る。全然優しくない。もっと知っている漢字とカタカナを使ってほしい。飛天御剣流とかケンドーコバヤシとか。

 当然、最初は面白く読んでいた。『ユリシーズ』は名前しか知らなかったし、ラスコー洞窟なんて存在すら知らなかった。知らないものに触れた時の高揚は、少年時代に戻った気になる。大人になると知的好奇心が鈍る。そのツボを押してくれているようで、何だか心地良かった。またちょうど世間がバスケで盛り上がった時、バスケの創始者ジェームズ・ネイスミスの項に当たったのも、状況とシンクロして楽しかった。しかしながら、どうだろう。突然、教養はオレに冷たい顔をするようになった。やれアテネだのやれバビロニア人だの全然惹かれない。血も涙もない表情で、知識のハンマーを振り下ろす。こんなのってあんまりだよ。きっと最強の動物を考えている方が楽しい。オレはシロクマを応援してる。

 とは言え、教養の名誉のために言っておくと、ここさえ乗り越えれば最初の頃のワクワクが戻って来るのも理解している。今はただ日常のストレスから、情緒不安定になっているだけだ。何だかDV彼氏から別れられない女みたいになって来た。辛い、でも、好き。

 とりあえず、分からないなら分からないなりに面白がって読むしかない。諦めずに喰らい付いていくしかないのだ。それにしても、教養が追いかけて来ることを記すつもりが、いつの間にか逆の立場になっていた。諦めたらその時はその時で、これ以上の強要はしないでほしい。

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