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臆病者のヒゲ

 最近、ヒゲを伸ばしている。あくまで一時的なもので、数週間後には剃る予定だ。仮初めの姿ではあるが、なんだか昔憧れていたラッパーたちに仲間入りしたみたいで、ちょっぴり嬉しい。嫁からは「清潔感は無いが似合っている」と喜んでいいのか悲しんでいいのかちょうど迷うコメントをされた。オレが思春期ならドギマギしていただろう。恋の駆け引きは難しい。

 さて、このヒゲを伸ばす行為だが、これまでの人生ではやった経験がない。そのため、新たに発見することも多い。例えば先日、昼メシ中に宅急便が来た時のことだ。扉を開けると、ギョッとした顔の業者さんが居た。そのタイミングでは理由が分からなかったが、鏡を見てようやく理解した。なんと食べていたピザのトマトソースで、ヒゲが赤く染まっていたのだ。もしも剃っていたら、肌に直接触れる違和感で拭っていただろう。存外、気付かないものだ。レクター博士でももうちょっと綺麗に食うと思う。

 ただ、一番の発見は「今までより臆病になってしまう」と言うことだ。ヒゲを生やすと、自信が付くものと勘違いしていた。自分の場合は逆で、チキンに拍車がかかっている。理由は、一過性の男らしさでしかないからだ。元来の強面や本物の不良とすれ違う度、絡まれる気がしてしまう。「お前みたいなヤツが何調子乗ってんの?」的な。この感覚は、初めてピアスを開けた中学生に近い。そう考えると、冒頭の「オレが思春期なら〜」の一文も、同じレベルのくせに小馬鹿にしているようで情けない。目糞鼻糞だ。むしろ、連立方程式を解ける分、思春期の子の方が上だろう。オレが勝てることなんて、芸能トリビアしかない。みちょぱの好きな食べ物は、牛タン。

 とは言え、このヒゲを伸ばせる期間もあと少しだ。せっかくの機会だし、それまでに酸いも甘いも堪能しよう。まずは、無駄にビクつかず胸を張って生きるところから始めたい。もう卑下したくない。

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