闇ドラ六話:何故死して殺すのか
※全十二話で、五年前に投稿した自作です。
投稿サイトに掲載した作品を処女作と読んでいいのかは分かりませんが、自分の話を描きたくて『私小説』にのめり込んだ作品でもあります。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくいやその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いておりますが基本的に掲載当時のままにしております。
お楽しみ頂ければ幸いです。
あらすじ
闇ドラとはある男女、そこから広がる人間関係の生き様である。
わたしはかつて主婦だった女。
ありきたりな家族と幸せ。
そして不幸。
そして悪霊と言われる者になって人を殺し続けた。
私なりにルールを持って殺していた。
自殺に追い込まれるような状況にある老若男女問わないカップル、夫婦。
でもこれは“エゴイズム”でしかないことを死んで、彼と出会って気づいた。
どれもわたしの偏愛絵マップの記録でしかない。
介護疲れ、夫婦中のもつれ、セックスレス、DV、正義、精神錯乱、交通事故、経営困難等。
わたしはマリア様のつもりだったのだろう。
それでも生きている人間が許せなかった。
わたしが死に、周りが生きているという状況を祟り、呪うしかない状況を自分で作ってしまった事に死んでから気づく。
そんな時彼に出会った。
わたしの行動を見ながらわたしに近づき、勝手にわたしを連れて旅をしている。
理由はいつでもわたしを殺すため。
死んだ後もこうして魂だけは醜く残ってしまう。
でも、そんなわたしももう一度死ぬことができる。
だから本当は彼にわたしを殺して欲しかった。
理由があるなら余計に。
でも彼は「自己中の旅」と称してわたしを旅に連れていく。
そして何人もの悪霊を切っていった。
中にはわたしと同じ理由の幽霊もいた。
死んで共有する感覚なんてないはずなのに名残として辛さを感じることもあった。
でも彼は行く当てもなく、悪霊であるわたしを連れてくれる。
彼には、やり方や生き方こそ違うが一緒にいて何かを感じていた。
わたしと彼に共通すること。
「それは死んでなお誰かを殺し続けること。」
わたしは彼と一緒にいてからもう殺人衝動も嫉妬も怨みももうない。
生前にやったこと、死後にやったこと。
それに満足しているのかもしれない。
それとも、彼の存在が大きいのかもしれない。
わたしはそんな彼が心配だった。
依頼とほぼ自分のエゴで、生者を殺す霊を討伐する彼。
そのやり方にどうこう言うつもりはない。
どんな理由があるにしろそれは“エゴ”でしかないのだ。
人間の目的も自然の大災害も同じだ。
そこに生死が関われば理由が生まれる。
でもわたし達は生物だ。
けれど…思考停止しているように思われるかもしれないがもう考えられるほど脳は生きていない。
かといって欲もない。
“自己”という概念だけが残ったこの世ならざる者がわたし達幽霊なのだ。
この世の人間達は知らなくていい。
死ぬまでホラー、オカルトというジャンルの中で楽しむ方がいい。
でもよく考えてほしい。
そういう中でも自分が生きていることへの奇跡を。
わたしのように責任転嫁して大切な存在に課題を押し付け、死してなお他者の人生を弄ぶような存在にならぬよう、努めることが
大事だと。
「久しぶりに何か書いてみた。」
ここは情報屋。
彼に連れられてからわたしは新幹線を-無銭乗車で-使ってよく来ていた。
旅費を気にせず見る海は気持ちいい…って良い子は真似しちゃだめ。
「あんたも彼に似てるねえ。」
わたしは苦笑いをした。
どこが!?という感じ。
自分勝手な所だけよ。
「結構必死な事を残したね。
誰に読んでほしい?俺の仕事の範疇じゃないけど。」
わたしは正直に伝えた。
「単純なこと。彼が霊殺しに対して何か思ってくれたらなって。」
煙草を吸いながらふーんと聞くお爺さん。
死んでるはずなのにすごく生き生きしているように感じる。
いろんな人…霊がいるんだな。
「法や倫理がない死者の世界では積もり積もった思いを爆発させる奴が多いんだ。
中には霊による生者の殺しを止める霊も他にちゃんといる。
金とか対価がいらない分そういうことする奴もいるんだよ。
けど、あいつは他人の身勝手が許せないんだ。
だから平気で手を汚す。
それを止めたいのか?なんのために?」
最初は殺されたくなかったから。
死んでるのにね。
でも、彼が他の幽霊を殺すのを何度も見てから考えも変わっていった。
「私を殺してほしいから。」
「それならこんな遠まわしなことしないであいつに頼めばいいだろう?」
そうよね。
当たり前のこと。
わたしは既に手をかけてしまった。
死んでしまっているから償うこともできない。
いや生きていてもできることなのか?
お爺さんは冷たいことを言ったのにわたしにコーヒーをついでくれた。
多分このお爺さんの性格なのだろう。
「人のよくあるパターンかな。
あいつの過去を少しでも聞いて、一緒に行動したあんたは何か思ったとか?」
わたしってわかりやすい女なんだろうな。
子供にも旦那にも隠し事が苦手と言われたっけ。
「彼のところ行ってくる。場所は知らない?」
「やれやれ。もう敬語じゃないのか。別に死んでるからいいか。」
そういってお爺さんは彼が仕事をしそうな場所をリストアップしてくださった。
確実にここで仕事するという保証はない。彼は本当に自己中なのだ。
“なぜ快楽を見出すのか”
刃物を握る感覚。
人を縛る感覚。
よかった。
死んでも残っていた。
もう殺さずにはいられない。
女の悲鳴はご馳走。
男の嘆きは養分。
子供の恐怖は極上。
年寄りの這いつくばる様は達成感。
まだまだ足りねえ。輝きを自慢する連中は糞くらえだ。お前らはみんな俺のために死ねばいいんだよ。
「典型的な快楽殺人者か。」
誰だ?
「お前と同類。」
同業者か…ってこれって個人営業なんだけどなぁ。
「お前若くして死んだのか?見たところ成人前後か。
ガキには変わらないがな。」
そう言っていると俺の首をナイフがかすめかける。
「おいおい。少しはしゃべろうぜ。」
ガキは的確にナイフで俺の急所を狙う。
死んでも急所は急所か。
やべえやべえ。
「確かに同業者だな。まるで漫画の世界だ。わくわくする。」
ガキの目つきは鋭いままだ。
俺を憎むでもなくただ斬る対象として観ている目。
動きは鈍らず、俺の攻撃をすべて躱して的確に俺を殺すことだけ考えている。
「死者も生者も関係ねえ。
金も食料もいらない死人になった以上こういう楽しみを味わっておかねえとなあ!
そうだろう糞ガキ!」
俺の武器がガキの目に刺さる。
そう思った。
「うるせえ。」
お、俺の目が刺されるだと?
白い血が粉のように吹く。
「武道を嗜んでいて歪んで殺しに移ったタイプらしいな。そんなろくでなしの相手は簡単なんだよ。」
うぜえガキだな。
「はっ。お前だって俺を攻撃してるじゃないか。俺と変わらねえよ。
どんな環境で育ったのか知らねえがなんのつもりだ?」
ガキは淡々と喋る。
「俺は死産だ。
死人として死人の仲間と暮らしていた。だから分からない。」
へっ。そうかよ。
「じゃあなぜ俺を殺す?
生きている奴が憎くないのか?
幸せに人生を全うした霊が許せるのか?」
ガキは特に情を入れず一言呟いた。
「誰にも関係ないことだ。」
ああいえばこういう。糞ガキが。
「なぜ俺たちの味方をしない!なぜ守る?正義のヒーローのつもりか!」
ガキは落ち着いて俺の問いに答える。
「俺は生きている者達。
霊の仲間達によって今がある。だから守る。」
「だからよう。
そういうのをヒーロー…偽善だって言ってんだよ!」
俺はこいつを殺す。確実に。社会の厳しさを教えてや…
「あんたに関して言えば、俺のエゴとあんたのエゴが噛み合わないだけだ。」
俺の体は上半身と下半身に分かれた。
「なん…なんだよ…てめえ。」
「悪いな。」
現場にて
死んでから裏路地に入るとまた違った発見がある。
生きている時と変わらない恐怖はそのまま何度も入る場所ではないという事を実感する。
なんとか彼が優先しそうな所を調べてみたがこういう時は女の勘…死んでるから意味ないかもしれないけどそれを頼ってみたら。
彼がいた。
「物語としてよくできているシチュエーション。」
そう呟いた。
そこには彼が白く染まったナイフを持っていて辺りには何もなかった。
「仕事片付いたのね。」
「おいおい。わざわざやってきたのか。待ってろっていったのに。」
「待ってたし、ちゃんと仕事が終わったタイミングで来たわよ。」
「あの爺さん、余計なことを。」
「彼を責めないであげて。私のエゴよ。」
「あのさ、何でもエゴで片づけるなよ。」
「あなたに言われたくない。」
この世ならざる光景だと感じるだろうけどこれがわたし達の日常なのだ。
仕方がない。
「このナイフも保管したし、喫茶店いこうぜ。」
もちろん。
わたしを殺してほしい…でもそれも逃げかもしない。
一番奇跡を感じなければならないのはわたしなのだ。
自分を殺し、人を殺し、大切なものに業を背負わしたわたしにまた殺人衝動が湧いたら殺すと言ってくれてその通りにしてくれる。
そんな私をエゴの一言で連れ歩く。
それだけでいい。
それだけでいいんだ…。
溢れ出るこの思いをどうすればいいかなんて誰も教えてくれない。
もう歩けない。
そんな時に小さな喜びがあるのかもしれない。消えないこの罪と思いを持って私は彼と旅をする。
私は彼にありがとうと感謝している。
続く
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