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デザイン経営戦略のすすめ〜「共感」が売れる時代にビジネスに求められること

この数年で、世の中のビジネス環境はどんどん変わってきました。

AIや5Gのテクノロジーの導入で今ある仕事のうち47%が消えてなくなるという推計もあり、「勤めている会社や自分の仕事は、将来あるのだろうか…」と感じることもしばしば。

ますます起業や経営戦略を考える時に不確定な要素が多くなっていく中、ビジネスを成功に導く方法はあるのでしょうか。そのひとつはブランディングにあるようです。

今月発売の新刊『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと 世界に通用するデザイン経営戦略』(クロスメディア・パブリッシング)の発売記念トークイベントが青山ブックセンターあったので参加してきました。

日米で異なる「ブランディング」の意味

著者は、ニューヨークに拠点を置き20年、アートディレクターとしてコカ・コーラやソニー、国連などグローバル企業や組織のブランディングを手がけているHI(NY)(ハイ・ニューヨークと読みます)の共同代表、小山田育さんと、渡邊デルーカ瞳さんのおふたり。

今回のイベントでは小山田さん(右)が来日して登壇なさいました。

小山田さんによると、まずそもそも「ブランディング」の意味合いがアメリカと日本で違うそうです。

たとえば、「ブランディングはなぜ役立つと思うか?」という問いに対し、日本では「イメージを一貫して伝えられるから」「ビジュアルインパクトを与えられるから」という回答が一般的です。

しかし、アメリカではそれらに加え、「問題解決ができるから」そして、「経営を成功へ導く戦略になるから」 と考えられているそうです。むしろ今やこっちのほうが主流。

なぜそのような違いが生まれるのでしょうか?その理由もはっきりしています。

それは、 「ブランディングを取り入れたほうが、長期的な企業の成長につながるという結果があるから」です。要するにそっちのほうが儲かるから。

英国の調査会社のデータによると、「広告だけに投資した会社」よりも、「デザインに重視した会社」の方が 10年後に6倍以上の企業価値を上げていたり、株価が2倍伸びたりしているそう。

つまり、欧米においてブランディングは、「商品やサービスの認知度を高める」と言った広報PR的な要素だけではなく、競争に打ち勝つためのゴリゴリの経営戦略の中の位置づけだということです。

日本はデータすらないらしいので、ひとたびこうしたデータ結果が出てきたら一気に潮目が変わりそうです。

「経営戦略決める→デザイン」と「経営戦略=デザインが同時」は雲泥の差

では、実際にブランディングを実行するとき、具体的にどのようなことが難しいのでしょうか。

小山田さんは、4つの車を例に上げて説明してくれました。

①経営戦略なしでデザインのみ
②経営戦略のみでデザインなし
③経営戦略をしてからデザイン
④デザイン経営戦略

(※イケてない数字は筆者加筆です)

まず上の二つ。

①経営戦略なしでデザインのみ
②経営戦略のみでデザインなし

③経営戦略をしてからデザイン
④デザイン経営戦略

例えば素人でも、①経営戦略のみでデザインのみ、は、まさに見た目ばっかのハリボテ。うまくいかなさそうというのはわかります。また逆に②経営戦略のみでデザインなし、も同様で理念はあっても何やってるのか外からはよくわからないのであまり成長はしないというのも納得。

ただ、いまのご時世に本気で成功させようとするならそれなりに事業計画やマーケティングは考えたりするし、①と②という状況に陥るというのは現実的にはあまりないと思います。

問題は、③と④の違い。これは一見似ていてすごく見分けづらいそう。

①経営戦略なしでデザインのみ
②経営戦略のみでデザインなし
③経営戦略をしてからデザイン
④デザイン経営戦略

つまり「経営戦略立てる→デザイン」と「経営戦略=デザイン同時にやる(デザイン経営戦略)」の違いです。

このふたつはある程度まで結果を出せるところまでは同じ。ただ、その先の伸びが変わってくるそうです。

具体的に何が違うのか?

では、次に③経営戦略をしてからデザインと④デザイン経営戦略の違いはどのようなものなのでしょうか。

小山田さんは「子どもが喜ぶクッキーやさんを作りたい!」という事例をもとにその違いを解説してくれました。

③の経営をしてからデザインの場合、先に「店内の内装はおもちゃ箱みたいにしたい」「パッケージにはキャラクターを使おうかな」といったことを先に決め、デザイナーにパッケージのデザインを依頼したり、内装業者に店の改装を頼んだりします。

他方、④のデザインと戦略を同時に考える場合は、先に「隣駅に似た店がある」「価格競争はしたくない」「行列ができる店にしたい」と先に競合や価格設定などの課題を洗い出します。

そのあと、アートディレクターに相談し、具体的に他店と差別化するためにはどんなパッケージするかや店のコンセプトなどを一緒に決めていきます。

つまり、違いは、戦略を立てる初期段階に「最終アウトプット」というデザインをを俯瞰するプロがいるかどうか。「課題解決」が先に来ているかどうか。これが長期的にみたときに期待するような投資効果得られないという結果と密接につながっていきます。

共感が重要視される時代にビジネスを成功させるには

こうしたデザインの初期段階での重要性が注目されている背景のひとつに、人々から好まれるもの=需要の変化もありそうです。

小山田さんによると、世界のトレンドはマスの数字で商品を作るマーケット優位からかなり「エモさ」「ストーリー性」「ナラティブ」など、感情に訴えるような個人優位になってきているそう。

確かに最近、つとに人の共感を呼ぶには「これは私のためのサービスだ!」「世界にひとつだけ」といった動線をいかに敷くかが大事と聞きます。クラウドファンディングもうまくいっているプロジェクトは大抵ストーリーがあってエモい。

実際、著作の中でも「マスマーケットを狙ったターゲット設定は難しい」と書かれています。ターゲットを広くしたからといって沢山の人にリーチできるわけではなく、むしろ狙ったターゲットに効果的に伝えることができなくなるそうです。

新聞記者時代、上司に「何でもかんでも取材したこと詰め込むと幕の内弁当みたいになって誰の印象にも残らんから1個に絞って書き直せ」と言われたのと似ている部分もあるのかもしれません。。

良いアートディレクターを見つける秘訣は?

日本のビジネスでもこうしたパラダイム・シフトが遠くない将来に来るような気がしていますが、とはいえ日本において一番の課題になるのが、アートディレクターにお願いする!と決断した時にそもそも「(相性の)良いアートディレクターがいないし、よくわからない」ということだと思いました。

小山田さんも、アートディレクターのような仕事ができる人が日本にはほとんどいなくて、日本に進出しようとしている外資企業の知り合いから「日本でアートディレクター探しているけど見つからない。どういうことなんだ?」と質問されるそうです。

ということで、疑問を質疑応答で小山田さんに質問したところ「まずは会ってみて、その中で信頼関係を作っていくしかないけれど、『なんでもできる』という人は注意したほうがいいよ」ということでした。

小山田さんの仕事仲間に不動産とホテルだけを専門にやっているコピーライターがいるそうですが、ビューティー系の仕事を打診したら「不動産とホテルしか無理」と断られたそうです。

その後、「何でもできます!」というほかのライターに頼んだら、案の定期待した結果にならなかったそう。

創業初めの頃などは予算もないので「なんでもできます!」と言われると、「まじか、最高かよ!」と思いそうではありますが、そこに落とし穴がある可能性がある…。ということを肝に銘じたいと思います。

経営戦略を考えるときに教科書としてヘビーユースしていこうと思います。






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