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飽きないマフィンを作ること

5年前に吉祥寺で間借り営業を始めた頃、焼いていたのはチョコマフィンやあんこのスコーンなどベーシックなメニューばかりでした。

それがなぜ今のようなマフィンになったのか。理由は自分の性格にあります。

私は兎に角とても飽きっぽいのです。
同じことを続けることができない。苦手というレベルではなく、身体が拒否反応を示すほどにできない。

なので初めに就職したパン屋では、早々にパン作りに挫折しました。理由は技術を磨く以前に、日々同じパンを作ることができなかったから。毎日同じパンを焼いていたら、ある日ストレスでぷつりと体が動かなくなりました。(憧れていたはずの職人の世界に、自分は向いていないのだと痛感したものです)

そこから編集の仕事に転身し、仕事柄日々変わる状況が性に合っていて、自分にはこちらの道が向いていたのだと思い直しました。

そんな中で、ふとしたきっかけから再び始めることになったマフィン屋。
(店を始めた経緯はこちらに書きました)

はじめのうちは店をやること自体が新鮮だったので、定番のマフィンを並べながらも楽しく続けていました。

が、嫌な予感がしてきたのは数ヶ月後。あ、多分私はそろそろ飽きてくると。

こんな自分と長年付き合っているので、気持ちが萎んでくる予兆にはいち早く気づきました。たぶん近々続けられなくなる。またやめちゃうかも。

でもやめたくない。それなら「飽きない」しくみを作ろうと、わがままな自分の機嫌をとるように、組み合わせの変化で焼くたび楽しめるマフィン作りを始めることに。それが、今のように、野菜を使い日々違うマフィンを焼くようになった経緯です。

たぶん私は本来、店をやることや職人として何かを作ることに全く向いていない人間です。

そんな厄介な自分でも続けられる方法が、チョコマフィンではないもの(味の想像ができないもの)を作ることだった。

なので同じものを焼かないと決めたというよりは、ただ同じものが焼けないだけなので、そんな自分自身のために飽きないマフィンを作っているというのが一番の動機です。

日々メニューを変える焼き菓子屋があまりないのは、それがものすごく非効率的だからだと思います。仕入れの手間、仕込みの手間、全てがかかりすぎて儲けという意味では全く理にかなっていません。

それでも、効率的にお金を稼ぐのが目的なら、そもそも自分はマフィンを作り始めていなかった。それをやっている自分が飽きずに続けられるかが常に一番大事なので、もはや自分が続けるために日々新しいマフィンを作っているような感覚です。

そんな自分本位の特異なやり方を、面白がってくださっている方たちのおかげで、doyoubiは続けられています。本当に感謝ばかりです。

そしてそんな風に作り続けて5年経ち、最近はまた別の変化が。ついこの間つるむらさきと黒胡麻のスコーンを焼いたのですが

「つるむらさきを練り込んだら多分このくらいの味だろう」という想像を遥かに超えてきたので驚きました。

これが、とても美味しかった。つるむらさきの味が転化して、深みが出て、個人的にはつるむらさきを料理で食べるより断然おいしいと思えるスコーンになりました。

粉に混ぜ、オーブンで焼くことで起こる化学変化はときに料理以上になることも。私の想像を超えていて、最近はその意外性が、飽きないというレベルを超えたワクワクを生んでくれています。

新しい食材を取り入れるたび、それでも受け入れて包んでくれるマフィンの包容力にもはや私自身がいちばん驚かされています。マフィンはすごい。

だから、そんなマフィンの可能性を広げてくれる未知の食材にこれからもっと出会いたいと。全国を旅し、いろいろな食材で飽きないマフィンを作りたいと考えているこの頃です。

そんなマフィンを構成する組み合わせの考え方について、次回は書いてみます。

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