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バイタルとは?           ②時にバイタルは患者以上に症状を語る


前回は

「バイタルは包括的なものであり、血圧とSpO2のみを指すのではない」


ことを話しました。
では、実際どのような点に注目すればいいのでしょうか?

実際の症例(私が昨日経験しました。脚色あり。)を考えてみます。救急外来の症例でもいいのですが、病棟勤務の方の方が多いと思うので、今回は一般病床の術後の症例を考えてみます。この症例では、夜勤に入った看護師さんが、苦しがっている患者さんを発見してコールしてくれました。

症例1

60歳男性、胃がんに対して腹腔鏡下胃全摘後2日目。昨日みられなかった頻脈・血圧上昇が確認され、呼吸回数の上昇もあり心原性疾患の疑いで病棟看護師より循内にコール(当直帯)。
昨日既に抜管されており、自発呼吸OK、呼吸回数25回/min、血圧160/115mmHg、HR:125/min、意識レベルGCS15、体温36.7℃。創部周辺の疼痛を訴えているが明らかな出血・感染を疑う所見なし。
聴診では異常なし。四肢には力が入っている。
採血ではWBC:8600、CRP:2.0、肝胆道系酵素や腎機能、電解質異常等なし。術前検査で心臓の異常は指摘されていない。昨日は術後せん妄がみられ、フェンタニル・少量のプレセデックスを使用していた。
モニター心電図では昨日HR:80/minであったが、本日より緩徐に上昇してHR:125/min程度で推移している。QRSはnarrow(狭い)、R-R間隔は整でアラーム履歴を見る限り同様の頻脈が続いている。


さて、あなたのアセスメント(評価)はいかがでしょうか?鑑別に何を考えましたか?
まず、バイタルをみると呼吸回数25/min、血圧160/115mmHg、HR:125/min(黒字)は明らかに異常ですね。見るからに苦しそうです。

モニターをみると・・・確かにHR:120-130/minの間を行き来しています。ただここで注目。R-R整なんですね。さらに、緩徐にHRが上昇しています。

あくまで一般論ですが、

不整脈によるHR上昇は急にHRが上がる

ことが多いです。「いきなり動機がして」「3時くらいから急にドキドキしている」のような訴えがよく聞かれます(救急外来だと、数日我慢してくる人もいるのであまり当てにならないことも多いですけどね・・・)。
なので、不整脈というより生理的な頻拍っぽい。。。

さらに血圧上昇。外来のカルテを振り返ると、もともとの血圧は130-140mmHgくらい。確かに上がっているけど、誤差の範囲ともギリギリ捉えられるかな・・・?

呼吸回数が多いけど、聴診しても雑音は聞こえない。実際、今朝のレントゲンにも異常なし。末梢を触っても冷感はない。

・・・ん?なんか手の形おかしくない?

元画像は、座禅をしている方です。笑
画像作成でいいものができませんでした。


↑これ、教科書で見ませんでしたか?
そう、

過換気症候群


による低二酸化炭素血症が原因で起こるんでしたね。
さて、お分かりの方も多いでしょうか。答えは

「術後の麻酔が切れて痛がっていた」

(血圧上昇、呼吸回数上昇、頻脈は生理的な反応)


前日はフェンタニル等も投与されていたから、気づかなかったんですね。
IV-PCA(患者が自分で投与・調整できる鎮痛薬)を導入することで落ち着きました。

このように、バイタルの異常のみならず、患者さんの症状と組み合わせて考えることで正解にたどり着けることも多いです。もちろん、1人の患者さんに時間をかけすぎるわけにはいかないから難しいところですけどね・・・。

症例2は次回に。









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