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大人に許された特別を、私はまだ知らない。



  おしゃれと動きやすさ、どちらを取ればいいのだろう。荷物は預けられるのだろうか。音楽がかかっていて、お酒をたくさん飲むらしい。「クラブにかわいい子がいてさ、ライン聞いて、付き合った。」と彼は言っていたけれど、そんなことほんとうにあるのかしら。

  25年間クラブに立ち入らず、生きてきた。チャンスがなかったわけではないけれど、なんだか、なんとなく。

  想像してみる。どきどきしながら、クラブに足を踏み入れる私。


  それはきっと、地下にある。ネオンを尻目に階段を降りたら、まず年齢確認をされるだろう。身分証を提示する。あっ、顔写真付きのあります?すみません、免許持ってなくて、ないんです。私はもたついて、うしろの人を待たせてしまう。

なんとかして関所をくぐり抜け、重い扉を開けると、臓器に響いていた重低音が重くなっていく。熱狂的に踊る人、ちいさなショットグラスをかかげる人。全員私より年上に見えて、場違いなのではなかろうか、とそわそわする。

  いろんな色の照明、熱気とスモークとたばこの煙、瓶入りのお酒。カウンターではカクテル越しにキスしている人たちがいて、私はその横をすみません、と言って進んでいく………


私の妄想はここまでだ。これ以上のことは断片的にしか想像できない。



  映画で観たり、友人から聞いたり、SNSで流れてきたり、どんな場所かはぼんやりとわかる。映画で観たことのある、ライブハウスとは別の世界。渋谷の地下に広がる、きらきらした大人の社交場。そういうところだと思っていた。
  私は特異的な下戸体質でお酒が飲めない。致命的なのではなかろうか。私にとっての「踊る」は「踊り狂う」と同義であって、涙や大量の汗を伴う。クラブはそういうところではないだろうし、行くことはないだろうな。そう思っていた。


音楽のはなしをすこしすると、私はロックが好きで、それもエレファントカシマシとかサンボマスターとか、はっきりと日本語で聴かせるロックバンドを聴いて生きてきた(今はヒトリエの今週発売のアルバム HOWLS を聴いています)。クラブミュージックとは関わりを持ってこなかったのである。

  

  そんな、クラブを何も知らない私が『クラブと生活』を読み、はじめに湧いたのは、純度100%のごめんなさい、だった。
あんなに誠実で情熱に満ちているなんて思わなかったのだ。音楽と集う個人、〝パーティーはいつか終わる〟に孕んだ感情ひとつひとつを尊重しているなんて。開放感と閉塞感を両方持ち合わせた、特別な場所。大人に許された、フラットな聖域。どうやら私の想像するクラブは相当ズレていたみたい。


  私はいま、答え合わせをしたくなっている。どんなところなんだろう。大人に許された特別を、私も味わいたい。

いよいよ、地下への階段を降りるときがきたのかもしれない。

ヘッドホンから脳に直接流れ込む音楽に浸る夜、ライブハウスで涙を拭って鳥肌をたてる夜。クラブで私はどうなるんだろう。
お酒も飲めないし、音楽だってきっと、エレファントカシマシはかからない。それでもなんだか許されそうな、どきどきしながらたのしんでしまいそうな、気がしている。



  最後に。

  クラブに行ったこともない私の書くものを必要としてくれたinkyo、ありがとうございます。本文にも書いたけれど、このマガジンを作っているおふたりのクラブ、それに伴うカルチャー対する情熱はとてもおもしろくて、おふたりをそうさせるクラブ、味わいたい…!と思わせます。そして、私をクラブに連れてって。


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