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働く神保町第1回

三省堂書店亀井崇雄さん(三省堂書店代表取締役社長・神保町ブックフェスティバル実行委員長)に聞きました(前編)

こんにちは DRUM UPです。
働く神保町、第1回は三省堂書店亀井崇雄さんにお話を伺いたいと決めていました。なぜなら三省堂書店神保町本店の住所は千代田神田神保町1丁目1番地。そして今年の4月で創立143周年。三省堂書店はまさに神保町の歴史をもっともよく知る会社のひとつだからです。


三省堂書店の創業はもともと下駄屋から?

DRUM UP(以下DU):そもそもどうして神保町でご商売をはじめたのですか。当時の神保町はどんな様子だったのでしょうか。

「亀井家はもともと旗本でした。創業者の忠一は江戸幕府が終焉を迎えた頃、将軍慶喜公とともに一時駿河に移り住んでいました。いよいよお役御免となり、四ツ谷で下駄屋を始めることになったわけです。おかげさまで商売は順調だったようですが、火事で店が焼失してしまいました。そこで既に書籍の事業を行なっていた兄を頼り、神保町で古書店を始めることになったのです。」

「しかし、学生相手の古本売買だけでは圧倒的に取引量が少ない。そこで、学生にヒヤリングしたら、コンパクトな英和辞書がないというので作ってみたり、ゆくゆくは百科事典に進出したりと、徐々に出版事業にも乗り出したのです。辞書や教科書など、本に関するトータルなサービスへとビジネスが広がり、その後本家出版、分家書店と会社を分けました。」

 神保町はベンチャー気質溢れる町だった
DU:出版関連事業ということで、神保町を選ばれたのでしょうか?

「忠一自身は、兄がたまたま神保町で書店を営んでいたのでここに移ってきたわけですが、当時の神保町は、有斐閣等出版社が続々と誕生していました。丸善ももともとこの辺りが創業です。書籍というものがこれからの時代をリードする新しい事業になるぞ、という期待もあったのではないでしょうか。まさに今の渋谷ではないですが、ベンチャー的気質があったのだと思います。この地でいろいろな方々とのネットワークができて、「同盟出版」「共同出版」など、複数の人たちが出資して一つの本を作り、流通するような、まさにプロジェクトですね。そんなところがあったのでしょう。」

旧本社ビルは100周年での一大事業
DU:三省堂書店の長い歴史の中でエポックメイキング的なことといえば、やはり旧本社ビル建立でしょうか。

「旧本社ビルは私の祖父と父が「日本有数の面積を誇る書店を作るぞ」との意気込みで100周年の一大記念事業として立ち上げました。司馬遼太郎さんがスピーチされている写真なども残っていますが、相当派手なオープニングセレモニーだったようです。
あの頃は、本を積んでも積んでも足りなかったと、今となっては羨ましい話を聞いています。」

DU:それは、羨ましいですね。

「もう二度と味わえないような話でしょう。当時の東京エリアは南が八重洲ブックセンター、西は紀伊国屋書店、東が三省堂書店と、大型店がちょうど良い具合に棲み分けできていました。」

入社するまでは神保町には寄りつかなかった
DU:亀井社長自身も幼少期から神保町に親しんでいたのですか?

「いえ、それが全く逆で。そもそも私自身が子供の頃は熱心な読者ではなかったですし、自宅は文京区白山だったので、本屋も近所で十分まかなえていました。神保町は家族で年に数回いく程度で、あまり思い出はないです。父の職場がある町というのもあり、子供としては寧ろ近づきにくかった。大人、苦手でしたね。」

DU:わかります。若い時ってそういうものですよね。

「それに若い頃は、本はあまり読んでこなかった。読んでも年に数冊。だから、私は本を読まない人の気持ちもよくわかるのです。

大学卒業後はシステムエンジニアになったので、プログラムの本を買いに書泉には通っていました。」

DU:やっぱり三省堂書店ではないのですね(笑)

「三省堂書店に入社してから、本の情報が日常的に入ってくるので、いろんな発見や興味が出てきて自然と本を読むようになりました。本を読まなくてはならないという義務感は[u1] ほとんどないです。[u2] 」
「それよりも、自分の興味や、知識になると思ったものをただただ好きで読んでいます。ただしプライベートの大半を読書に当てるのではなく、昼休みや、夜に約束がないときにカフェに立ち寄って読書するような感じです。今のビル(小川町仮店舗)の裏のカフェでは、ほぼ毎昼休み読書しています。」

DU:普段読まれる本のジャンルは?

「小説というより、ビジネス、実用、自己啓発ものが多いですが、特にジャンルに縛られずにその都度興味があるものを選んでいます。 最近読んで面白かったのは『今日、誰のために生きる?』ひすいこたろう。」

DU:この帯のキャッチはすごいですねー。
(効率よく生きたいなら、生まれてすぐ死ねばいい)

「アフリカのとある村に絵の勉強に行った方が、現地で経験したことについて書かれた本です。 あまり発展はしていない村なのに、人々がとてもシンプルに、毎日を自分のため、他人のために生きるのを考えながら生活している姿を目の当たりにした著者が、幸せの原点とはなんだろうと問いかける。改めて幸せの本質について考えさせられる本でした。」

DU:いまの日本人が忘れかけているものかも。耳が痛い話です。読みやすそうな内容ですし、こういった内容の本は時々大きく化けることがありますね。

「人文書のランキングでもかなり上位に上がっています。有楽町店でも平積みになっています(2024年2月末取材時)。ここのところ会食が続いたのでちょっと疲れていて。そうすると些細なことでもイライラしがちになるので、心のサプリ的な本を必要としていたのかもしれません。何もしない時間も大切だということや、今日自分は空を見上る心の余裕があっただろうかなど、本来あるべき姿を見つめ直すためにも、こういった本を手に取ることがあります。


後編では、そんな亀井社長がどうして神保町に深く関わることになったのかを、この街への想いとともに語っていただきます。



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