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18.大人になれなかった人のための本

ボクたちはみんな大人になれなかった

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三省堂書店池袋本店のヨンデル選書フェアでお買い上げの方に渡す特製カードに350文字のオススメ文を寄せた。以下、そのまま引用する。

このコメントをあなたが今読んでいるということは、そしてこの本を手に取っていらっしゃるということは、噂は本当だったんですね! 燃え殻氏のデビュー作にして問題作、私小説にして現在進行形の大河ドラマの序盤編でもある本作はまあもう説明の必要がないくらい素晴らしい作品です。ぼくはそもそもこの作品がインターネットのCakesだったかNoteだったか、ああもうそれすら忘れてしまいましたけれど、とにかく連載がはじまったときに読み始めて、毎週水曜日(更新日)が楽しみで楽しみで、火曜日の夜に絶句して絶命しかけて水曜日に復活して祭りになるという一週間を規則正しく行いました。もし何かシェンロン的なものが願いを叶えてくれるならば、ぼくは彼と一緒にお酒を飲みた……彼がお酒を飲んでいる居酒屋の壁になって彼を見守りたいですね。

この解説文はテンションばかり高くて肝心なことがあまり書かれていないので注釈が必要だろう。三省堂書店池袋本店のヨンデル選書フェアがはじまったのは2018年11月30日からだ。ぼくがフェアに選ぶ本を選んでいた10月の時点で、本書の文庫版が発売になるというのは、まだ噂でしか聞いていなかった。池袋店の担当者に、「もし燃え殻さんの本が文庫で出るなら、フェアに並べて欲しい」とお願いして、出るのか出ないのかわからないのに選書用のカードを書いておいたのだ。そしたら実際に文庫版が発売されたので、このカードと共に三省堂の店頭に並べてもらうことができたのである。

今にしておもえば雑な文章だ。ぼくのテンションばかりが高い。燃え殻さんの文庫本を手にしてぼくのカードを読んだ人は、何が書いてあるのかいまいちよくわからなかったのではないかと思う。カードの最後にある「居酒屋の壁になって彼を見守りたい」というのは、「燃え殻に萌える」というダジャレなのだが誰からもつっこまれなかった。

フェアのあいだずっと、燃え殻さんの本はめちゃくちゃに売れた。だからぼくのあまりできのよくないカードもたくさんの人の手にわたったことになる。ぼくは途中でこの文章の不備に気づいて差し替え版を送ろうかと悩んだのだが、ま、いいか、と思い直した。自分の脳の中にある風景すべてが他人に伝わるなんていう事は幻想だ。蛇足だけれど、燃え殻さんという人の脳内風景だってぼくらにすべて伝わっているわけではない。しかし、彼は、まるでぼくらの脳内にある言葉を使ったかのような文章を書く人なので、著作を読めば読むほど「彼の全てが伝わってきた」かのような錯覚に陥るのである。そんな幸せな幻想からは覚めない方がいい。

(2019/7.8 18冊目)

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