財源回収(短編小説)
「…という訳で、消費税の増税、これは避けられない事態かと…。」
「しかしそれでは人々の生活が…。」
コロナ終了後。政府の課題として、ばらまいた金をどう回収するか、というものがあった。ある者は富裕層から回収せよ、と言った。ある者はタバコ税を上げよ、と言った。ある者は、そもそも回収する必要はない、と言った。しかし、日本の中で最も有力な意見は、確実に回収できる消費税の増税だった。
「12。2%上げるだけなら、そう大した負担でもないでしょう。」
そう言う財務省の役人の腕には、ダイヤを埋め込んだゴツい腕時計が光っていた。それに対して反発する政治家の腕にも、数百万円はする腕時計が光っていた。
「今日の会議もまとまりませんでしたね。」
「まあ、何とかゴリ押すさ。あ、あの件、よろしく。」
財務省と財務大臣の会合後、鞄持ちの若い官僚はそう言いながら、暗い廊下を歩いていた。廊下の電気は地球環境のために、極力消すようにと言われているのだ。しかし彼らは、そのせいかいつも暗い気持ちになっているように思えた。案外、こういうところが日本を暗くしている要因なのかもしれない、と考えた。
「仕事を俺1人に押し付けて、いい気なもんだよあの人も。あーあ、帰りてえなあ。」
仕事を押し付けられた部下は、深夜2時、明かりのついた部屋の中でそう嘆いていた。そんなに地球環境に配慮したいのなら、この残業の明かりはどうなんだ、と心の中で悪態をつきながら。彼の心には、ムシャクシャとイライラが溜まっていった。そして彼は、許されない事を計画した。
「エッチな動画、見たろ。」Googleの検索窓に、彼は違法サイトの名前を打ち込んだ。その時、彼の頭の中に天才的なアイデアが浮かんだ。
「これだ!これで日本の財務状況は救われるぞ!」
1ヶ月後。財務省のアイデアをベースに、こんな法案が提案された。
「インターネット上における違法動画の取り締まりに関する法案。(中略)アダルト系違法アップロード動画に関する取り締まりを強化する。(中略)違法動画を視聴した場合の刑罰を緩める。罰金は2000円を上限とする。ただし、児童ポルノやリベンジポルノなどについては、この法律は適応されず、個別に対応される。」
法案は可決され、この国のおおよそ半分の人間は、月に2000円ほど払わなくてはならなくなった。2000円の内、半分は業界に、半分は国が持つ事になった。今後は、非アダルト系の違法アップロード動画についても、取り締まりを強化していく事になる。
「いやあ、これもう事実上の定期購読ですからねえ。2000円くらい、そりゃあ皆払うでしょうねえ。笑いが止まりませんよ。」
財務大臣は会見で、そう笑った。
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