見出し画像

ダメ社員派遣サービス(短編小説)

「違う違う!そんなに仕事してたら、また仕事振られちゃうでしょ!仕事が終わったら、終わったと報告するのは2時間後!それまではYouTubeでも見てサボってて!」

「コピーもそんなすぐに取らない!見れば分かる事も聞く!いちいち聞く!」

「怒られたくらいで反省しない!適当に聞き流す!はいはい言っとけば時は過ぎてくんだから!表情も変えない!聞いてるか聞いてないか微妙なラインを保つ!返事は聞こえるか聞こえないか微妙なラインで!」

全く最近の若いやつときたら、仕事を舐めている。なぜそんなに仕事をするのか。なぜそんなに真面目に利益に貢献しようとするのか。大体、自分の頑張りが会社の利益に直結してるなんて、おこがましい考えだと思わないのか。そんな仕事を、新人に振る訳がないだろう。新人は早く帰ってくれ。

見ろ、私のこの社内ニートぶりを。パソコン画面を開いてはいるが、当然何も書き込んでいない。後ろに人が通った時用に、4年前の資料を用意しておく事も忘れてはならない。真っ白なワードは流石に怪しまれるからだ。

日中はもっぱら、YouTubeだ。YouTubeは字幕付きの動画をつけておけば、音無しで見られて快適だ。それと夏場は高校野球。一球速報は夏の相棒だ。

普段からお腹が弱い事をさりげなくアピールする事は大切だ。トイレに篭っている時間が長い事を怪しまれないようにするためだ。とはいえ、長居は禁物。そもそもトイレは快適じゃないし、衛生的でもない。サボっていてもバレないスキルを身につけた方がお得だ。

上司に叱られる?そんなものは日常だ。彼らの罵詈雑言に耳を傾ける必要はない。動物園のチンパンジーだと思えばいい。騒ぐ事しか能のないチンパンジー。ただ、録音はしておけ。暴力でも振るってくれたら、臨時収入が入ってくる。2000円程度の録音機器で、これはおいしい。

そもそも何故、みんな真面目に仕事をしているのか、俺にはちっとも分からない。俺がいなくても、俺以外の誰かがやってくれる。仕事が終わらなければ、その時はその時。代わりが常にいるのが、資本主義の鉄則だ。責任なんか感じなくていい。やりたいようにやればいい。代わりなんかいくらでもいるからさ。

…。

このようにですね、我が社では選りすぐりのダメ人間を集めております。そして、皆様からご依頼があった暁にはですね、当派遣会社の力を使って、ライバル社にこのダメ社員を派遣します。するとどうでしょう。一気にその会社はダメになります。悪貨は良貨を駆逐するのです。人材育成にも力を入れておりまして、厳しい指導の元、新人たちは皆ダメ人間に生まれ変わります。皆、会社を喰らう寄生虫になるはずです。

ダメ社員派遣サービス、ぜひご検討ください。

短編集「過去に失望なんかしないで」発売中!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?