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科学的思考と神話的思考、そしてプロジェクトマネジメント

近代化された生活を送っていると知らず知らずのうちに
「科学的かそれ以外か」という感覚になります。
科学的であることが絶対的な地位を得ています。
学校や職場でも科学的な思考ができることを求めています。

科学的思考以外が存在しないわけでもないです。
その一つが神話的思考です。

神話は西洋近代化以前からざまざまな地域で存在しており、
日本古来においては「古事記」が有名でしょう。

神話が生まれた時代は、スマホもなければ、ネットもなく、活版印刷もない時代である。そもそも文字を読み書きできる人は限られるか、文字がないかもしれないです。
口頭で出来事の起源や成り立ちを神話によって伝える世界である。

ときに、神話が世界を説明する世界は、近代の科学からみると非科学的で劣った世界であると捉えられます。
本当にそうだろうか?

構造主義を唱えた文化人類学者であるクロード・レヴィ=ストロースは伝統社会の調査を進める中で、神話的思考が進歩すると科学的思考になるのではなく、両者は思考の仕方が違うだけど、思考としては優劣があるわけではないと「野生の思考」述べています。

それらは人智の発展の二段階ないし二相ではない。なぜなら、この二つの手続きはどちらも有効だからである。

野生の思考 クロード・レヴィ=ストロース

「野生の思考」の具体の科学の章で、科学的思考と神話的思考の違いを述べています。

神話的思考は器用人(ブリコルール)であって、出来事、いやむしろ出来事の残片を組み合わせて構造を作り上げるが、科学は、創始された事実だけど動き出し、自ら絶えまなく製造している構造、すなわち仮説と論理を使って、出来事という形で自らの手段や成果を作り出していく

野生の思考 クロード・レヴィ=ストロース

神話的思考 / 科学的思考
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出来事から構造 / 構造から出来事

神話的思考と科学的思考は、順序こそ違えど、出来事と構造を順序だてて思考していると述べられている。
その他、違いや同じ点をまとめると下記になります。

科学的思考と神話的思考の比較

この異なる性質と同じ性質によって、科学的思考と神話的思考が同様の構造を持ちながらも、異なる思考を実現しています。
思考として優劣がないにも関わらず、今日では科学的思考が神話的思考に劣ると受け取られるのか、それは物質的豊かさが生存に大きく影響する時代を経たためではないかと考えます。
神話的思考ではありものの素材を使って構築してくため、一点ものを扱い、大量生産には不向きな思考になります。
一方、科学的思考は概念を用いることで、同じモノを大量に生産できるようになります。物質的豊かさによって経済的にも軍事的にも強力な勢力となり、今日に至ります。

現代の私達も常に科学的思考であるとは限らず、文化や習慣の中で神話的思考が行われています。会社で上司に何かを説明するときに、ストーリーを組んでから説明するというのも神話的思考の仕方です。

プロジェクトマネジメントの切り口でみると、プロジェクトの運営では科学的思考、神話的思考の両面がみられます。
プロジェクト管理技法として扱うのは科学的思考です。プロジェクトのプロセスや機能を要素分解されたモデルと手法を適応し、プロジェクトを進めていく。構造を当てはめて出来事を生産していくという形態です。モデルが現場と乖離している場合、機能せず属人的に何とかするといったこともみられます。
一方の神話的思考は、実務の上での経験則として体得または伝承されています。利害調整やトラブル時の対応などで行われます。

プロジェクトマネジメントが科学的思考のみに傾倒していくと、プロジェクトマネジメントは現場では使えないと揶揄されていきます。
プロジェクトマネジメントでは科学的側面と現場で生きる非-科学的側面が必要になります。

また、生きたプロジェクトと神話的思考が違った側面で一致します。
それが神話における脈動という考え方です。

神話ではさまざまの登場人物が近づいたり、離れたりした動きがあります。
そして神話の文章の中だけでなく、神話は伝えられ、ときに変えられ、人と人の思考をまたいで生存していきます。
これはプロジェクトにおいても、活発なプロジェクトは動きがあり、問題がおきても速やかに参加者が動きます。良いプロジェクトは人々の間で広まる。
一方で、トラブルがおきても気づかぬふりで誰も動かないプロジェクトは死んでしまったの如し。
神話的思考によってプロジェクトをメタ的に捉えることができます。

では、科学的思考ではメタ的に捉えられないのでしょうか。
当然、そんなことはなくプロジェクトマネジメントを科学的思考を取り入れながれも、プロジェクトの改善、位置づけも科学的思考を行います。

神話的思考・科学的思考のメタ的な思考から、プロジェクトの特性として、何か思考Aというものを取り入れてマネジメントをする場合、思考Aを活かしてマネジメントを観察、改善においても思考Aを用いるというメタ的構造が見られます。

今回挙げた神話的思考も科学的思考の絶対的な対ではなく、思考Aに過ぎないのです。科学的思考もまた思考Aに過ぎません。プロジェクトを集団の労働と捉えると、集団の労働のあり方を人類は模索しているのかもしれません。その模索もまた神話的な振る舞いに思えます。
特定の思考にのみ傾倒することで出口のない道を歩み続けてしまうことがプロジェクトにとって問題となります。

以上です。

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