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気づいたら本格ミステリ大好き人間になっていた男

10月に読んだ本をまとめていたら、なんと16冊! 2日に1冊のペースで読んでいたみたいです。過去の私からするととんでもないハイペースで本読んでます。特に本格ミステリ多め。

昔は本格ミステリに対して苦手意識めちゃくちゃあったのに、なんでハマったんだろうということを、10月に読んだ本格ミステリを紹介しながら振り返ります。


①鬼畜系特殊設定パズラー白井智之に出会い、

もう何回noteに書くんだっていうくらいしつこく書きます。白井智之作品を初めて読んだのが今月です。感想はもう書いているので、以下参照。

本格ってやっぱり読者への挑戦状はあるんですけど、「どうせ解けねえだろ~」って思いながら完全に謎解きスルーしてたんですよね。しかし、白井智之作品でその認識が変わりました。

白井智之作品では、特殊設定と「エロ・グロ・暴力・猟奇的・不道徳・不快・残酷」がほぼ必ず出てきます。そして、作品中に出てくるこれらの要素に無駄なものは一つもないということが白井作品の最大の特徴です。

これは本格ミステリ読み慣れてない人間からしたらとてもありがたいことでした。だって、真面目に謎に立ち向かうには書いてある描写のどこが手がかりで、どこが手がかりじゃないかを吟味する必要があるのですが、白井作品はそれが必要ありません。

なぜなら、全部が手がかりだから。手がかりしか書いてないから!

適当に開いたページを読めばその中に絶対謎解きに必要な伏線や手がかりが入っています。これが絶妙で「確かにそんなこと言ってた! ああ!これも言ってた!」っていう連打が終盤バシバシ来るわけです。本格ミステリとしても優れているし、物語としても優れているわけです。伏線を伏線と読者に気づかせないテクニックがずば抜けています。


②井上真偽『その可能性はすでに考えた』に驚嘆し、

さらにこの作品も読みました。これはなんといっても「そんなの絶対無理だろ……」っていう難題に立ち向かう姿勢に心打たれました。

あらすじを簡単に説明

ある宗教団体で教祖と信者の集団自殺がおこります。ただ一人生き残った少女は、自分を抱えた首無の少年を見たと証言します。そして、発見されたときの状態は、現実にはありえない――奇蹟が起こったとしか考えられない状況でした。

通常のミステリならば探偵が不可解な状況を解き明かすという流れになるのですが、この小説では探偵は序盤でたっぷり時間をかけて悩みます。そして出た結論は、「あらゆる状況を想定した結果、これは奇蹟である」というものでした。

この結論に異を唱える人物が次々に現れ、探偵に「こういう可能性が考えられる」と突きつけてきます。可能性でいいわけです。それこそ、小数点以下の確率でしか成功しないトリックだろうと、可能性として考えられるなら、それは奇蹟とは言えなくなってしまいます。

それに対して探偵は、確実にそのようなことは起こるはずがないということを論理的に説明しなければいけません。とんでもなく分が悪い勝負に立ち向かうわけです。

これを小説で書こうって思った時点で井上真偽凄いですよ……。考えられる可能性をすべて網羅しなければいけないわけです。しかし、それを見事に書ききったのを読んで「井上真偽やべえ……」って思うのです。


③(某ファンタジー小説)に脳天を叩き割られ、

名前は伏せます(多分分かる人は分かると思いますが……)。

この作品は完全にファンタジー小説だと思って読み始めました。最初の印象かなり悪かったキャラクターも、途中のエピソードが入って見え方が反転したりして、それだけで「これ面白いなあ」と思いましたが、終盤とんでもないことが起こりました。

まさかの、ミステリに急ハンドルが切られたわけです。

まったく思ってもみない展開に戸惑いつつ読み進めます。確かに、中盤あたりでミステリっぽい出来事が起こりますが、なんとなくミステリ手法を応用した程度だと思っていましたが……、手がかりは全部出しきっていました。まぎれもない本格でした。

これ、なんといっても裏表紙のあらすじとかに全くそんな事書いてないんですよ! 思ってもいないタイミングから脳天にスマッシュ食らったような感覚でした。こういう不意打ちに私超弱いです。もう大好きです。


④相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』で呆然となった。

半年前くらいに買ってはいました。ただ「誰だろう……この作者」って思っていました。とんでもない大型新人が出たのかと思っていたら、日常の謎やライトノベル中心に書いている作家さんだと知りました。

そんなこんなで、いつか読もうと思っていたのですが、読書熱がピークの今に読んでみました。

……うん。こりゃランキング総ナメして当然だわ!

本の帯に他の作家さんのコメントも載ってるわけですよ。綾辻行人有栖川有栖というベテランから青崎有吾、芦沢央、今村昌弘、斜線堂有紀など元気な若手まで総勢14人。みんなべた褒めです。

(ハードル上げすぎだろ出版社……大丈夫か……)って思いました。

そんなハードル余裕で超えていきました

読み終わった後、書店員さんの感想も読みました。その中に「この本の後に読まれるミステリが気の毒だ…」というコメントがありましたが、すごく同意できます。というか、ある種の完成形に近いミステリなので、それをもう作品として完成させて持ってくるってのが相沢沙呼は天才なのか!? と驚くばかりです。


そして、最後に感想を書く

本格が一度衰退して、新本格が再び盛り上がり、また新・新本格みたいな時代になっているのかなあと思います。やっぱり特殊設定ミステリが一番熱いですね。めちゃくちゃ増えていると思います。

ただ、「特殊設定」モノってそれほど新しいというわけでもないのですよね。山口雅也『生ける屍の死』とか、特に、西澤保彦は代表作『七回死んだ男』を筆頭に特殊設定モノの代表格といわれています。

井上真偽白井智之作品にみられる「多重解決」もトレンドの一つですが、こちらも元祖のアントニー・バークリー『毒入りチョコレート事件』を筆頭に、西澤保彦『聯愁殺』貫井徳郎『プリズム』などがありました。

(見返してみると、特殊設定多重解決も両方やっている西澤保彦って超時代の先取りをしていたんだな……)


こんな感じで流行の主流に対してのカウンターが生まれて、別の主流が生まれて、またそのカウンターが生まれて……っていう状況は読み手としてはとても楽しいです。

昔は古本屋で買うばかりだったので、あまり特殊設定ミステリはそう読めていません(ここ数年で出てきたものが多いので)。最近は本屋で新刊で買うことも多くなってきました。

読書が今楽しすぎてやめられません。本格ミステリありがとー!!

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