花咲く丘のひみつ

 花が咲き乱れる丘は、たくさんの生き物の隠れ家になっていました。そこで、くまくんはうさぎさんとお話しするのが好きでした。


「ここは、どうしてこんなにきれいなんだろうね」
 いいにおいにつつまれながら、くまくんがうさぎさんにたずねました。うさぎさんはくまくんとおんなじことを考えていたので、ううーん、とかんがえこみました。
「……わからないわ」
 しばらくして、うさぎさんはぽつりと言いました。どうしてこの丘がこんなにもすてきなのか、ふたりとも考えたこともなかったのです。
「きっと理由があるはずだね。冬がくるまえに、さがしてみないかい?」
 くまくんがていあんしました。うさぎさんはおんなじことを思っていたので、さっそくとびおきて、答えさがしをしはじめることになりました。
「お花さんにきいてみるのがいいんじゃないかしら」
 うさぎさんの考えに、くまくんはさんせいでした。一番近くにいたのはポピーさんです。
「こんにちは、ポピーさん。いつもきれいですね。ところで、どうしてここに咲いているんですか?」
「こんにちは、くまくん、うさぎさん。わたしはここがきもちよくてさいているのよ」
 にっこうよくをしていたポピーさんは、ほほえんでおしえてくれました。そうして、また目をつぶってにっこうよくにもどってしまいました。
「ここが気持ちよいのは、お花も同じみたいだね」
 くまくんとうさぎさんは、次に、空を流れる雲くんにたずねてみることにしました。
「こおんにちはあ。ちょおっと、いいですかあ?」
 くまくんが空に向かって声をかけると、雲くんがふーんわ、ふーんわ、とゆっくりやってきて、「はあい」と返事をしました。
「あのですね、ぼくたち、どうしてここが気持ちよいばしょなのか、答えが知りたいんです。あなたは、知っていますか?」
 雲くんは大きくて、ゆっくりと野原をながめているので、なんでも知っているのです。太陽が、野原で一番おおきな木の真横からのぼってくることを教えてくれたのも、雲くんでした。
「そうですねえ。わたしは、空にうかんでいるから、そこへ行ったことはありませんがね……。みんな、空を見上げて、きもちいいと言っていますね。それが、ヒントかもしれませんねえ」
「そうですか、ありがとうございました」
 おれいを言うと、雲くんはまたのんびりと空を泳いでいきました。すこしずつ、くまくんとうさぎさんのぎもんは晴れていくようです。


 しかし、なぞの本質はとけないまま、季節は冬へと向かっていきました。丘の花たちはかれはじめ、茶色いさびしい丘へと変わっていきます。
「うさぎさん、ぼく、そろそろねむるきせつだよ。とうとうなぞはとけなかったなあ」
「くまくんがねむっている間も、わたしはがんばってみるわね。っていっても、花も木もかれちゃったけど……。だれか知っているひとはいないかしら?」
 ふたりはすこししょんぼりしてしまいました。

 と、その時です。林のかげになにかの姿が見えました。
「ねえ、くまくん。いまあそこにだれかいた気がしたんだけど」
「えっ、ほんとうかい?ぼく全然気づかなかったよ」
「あそこ……」
 うさぎさんが言いかけると、その「だれか」はピョンと飛び出してきました。
「ヤッ、なんでぇここは。キタナい丘だな」
 きつねくんでした。
 きつねくんは、街に住みついて、悪さやいたずらをしているはずでしたが、どういうわけか丘にやってきました。そしてジロジロと野原を見わたして、けいべつするように吐きすてました。
「ちょっと、わたしたちの丘をわるく言うのはやめてよ。ここはとってもきれいな丘なのよ」
「どこがだい?なんにもないじゃないか。あーあ、こんなキタナいところだったなんてな。うわさで聞いてきてみたのに、がっかりだよ」
 さも疲れたというふうに、きつねくんは、かつてポピーが咲いていたところにドシンと腰をおろしました。
「きつねくん、ここは本当にいいところだよ。いまはそう見えないかもしれないけど、本当なんだ」
「へえ、そうかい」
 きつねくんは首をかしげながらくまくんを見て、ニヤリと笑いました。
「思っていたかんじとちがうな。もっと、電気がピカピカして、ステーキのいいにおいがして、すごしやすいと思ったのに。これなら町のほうがいいや。君たちはかわいそうだな」
 たっぷりイヤなことを言って、きつねくんは立ち上がると、背中を見せてもと来た道を帰って行きました。
 くまくんとうさぎさんは、顔を見合わせて、それからあわてて冬支度をはじめました。

 やがてくまくんは、森の中へ帰っていくと、穴の中でねむりにつきました。
 真冬がやってきました。丘の上には、色とりどりの花の代わりに、真っ白な雪がふりつもりました。あのポピーさんがいたところにも、雪の結晶が咲きました。

 そのけしきをみて、うさぎさんはやっと気がついたのです。そして、これまで丘にすみついていた生き物たち全員に、このことを教えたくてたまらなくなりました。けれど、春まで、がまん……がまん…………。

 やっと、春の風がふきはじめるころ。くまくんはねむい目をこすりながら、丘へとやってきました。そして、もう一度花畑のなかにねころんでうとうとしています。
 そこへうさぎさんがぴょんとやってきて、いいました。
「くまくん、秋に話したことおぼえてる?」
「ああ、うさぎさんかあ。うーん、おぼえてるよ……むにゃ」
「あのね、くまくんが寝ている間に、こんどは違うお花が咲いていたわ。冬だけのきれいな丘になってしまうのよ。ほんとにほんとよ。キラキラ輝いてたわ」
「なんだって? じゃあ、ここはずうっときれいなばしょなんだねえ……」
 くまくんは、花のいい香りにさそわれて、もういちど眠りにつきました。うさぎさんはあきれながらもあくびをして、くまくんのとなりに、横になりました。

 そしてふたりは、ぼんやりと、このばしょはどこよりもすてきなのだと思ったのでした。


ーThe ENDー


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