見出し画像

おとぎの国


 ある国のある森のおくに、古びた塔がたっていました。近くの村の人びとは、その塔には花のようにかわいいお姫さまがとらわれているだとか、魔女が薬を作っているだとか、好き好きにうわさしあっていました。しかし、その塔にのぼって真実をたしかめた者はだれ一人としていませんでした。

 あるとき、その村に、都会からきょうだいがひっこしてきました。お父さん、お母さん、それからお姉さんのアナベル、弟のサンベルの四人家族でした。
 きょうだい二人は村のだれよりも、と言っていいほどかっぱつで、こうきしんおうせいだったので、すぐに森のおくの塔の話に飛びつきました。
「森というだけで、なにかありそうね」
「姉さん、こういうのは早いほうがいいよ。ぜんは急げ、さ」
「でも、どうしてだれもその塔にのぼらないのかしら?」
「ぼく、その答えがわかったよ。とにかく、早くその塔へ行ってみようよ」
 アナベルもこれには大賛成でした。二人とも、早く冒険に出たくてしかたがなかったのです。
 村では二人の話でもちきりでした。今まで踏み入れたことのない塔で、もしかしたら二人が何かを見つけるかもしれないからです。
 村人たちに見送られながら、アナベルとサンベルは陽気に歌を歌いながら、森の中へ入っていきました。

 塔のある場所には、想像していたより――いや、想像をはるかにこえるほど簡単に着いてしまいました。森の入り口から、広い道がずっと塔まで続いていたので、勇ましく剣を振るうことも、草木に道をさえぎられて迷子になることもなかったのです。
 おや、と思いながら、二人は石造りの塔を見上げました。たたずまいは古めかしく、いかにも塔の上にはなにかがありそうです。顔を見合わせると、順に中へ入りました。
 塔の中のらせん階段は、段差が低く、これまた楽に登ることができます。まるで子供用にしつらえられたみたいです。数分もしないうちに最上階のゆか下へたどり着きました。天井の扉を三度ノックして、アナベルは暗闇の中、取っ手を上に押し上げました。

 二人がはやる気持ちをおさえ駆け上がると、そこには、とても可愛らしい女の子の部屋がありました。
 ピンクのカーペットに白いレースのカーテン。花模様のふっくらとしたベッドにはてんがい付き。飾りだなには、つぼみのような形の花瓶に、枯れた花……。
「え?」
 アナベルとサンベルはふたたび顔を見合わせました。
 そこは、まったくのもぬけの殻だったのです。

 二人は部屋にはい出ると辺りを見回して、一枚の紙を見つけました。そこには、
「おとぎの国へ帰ります。やさしい道なのに誰も探しに来ないので、待っているのも疲れました。 おとぎ話はけんしゃいん らぷんつえる」
 と、書かれていたのです。

 アナベルとサンベルは、ここで勇者を首を長くして待っていたらぷんつえるのことを想像して、この冒険は二人だけの秘密にしよう、と顔を見合わせるのでした。


ーThe ENDー

image by:Clker-Free-Vector-Images


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?