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昭和30年代男 日本経済を愚痴る(2)

 生まれて初めての海外旅行で訪れたシンガポールは、当時から清潔で近代的な都市国家であり、基本的に輸入品に関税をかけない自由貿易港(フリーポート)として多くの日本人観光客を魅了していました。
 それでも旅行会社が仕立てた観光バスは名所を訪れるよりもバック、時計、宝飾品などを扱う土産物屋に多く立ち寄り、店に入るや怪しげな日本語のセールストークが雨あられと降り注ぐという発展途上国的商法がまかり通っていたものです。自動車は旧式の日本車が多く、バスもトラックも日本ではほとんど見かけないほど古びて薄汚れていました。そして夕食にローカル気分を味わおうとビルの地下の屋台街に足を踏み入れると、まずは入口近くにいた老人が頼みもしないのに各店を案内して店主との仲立ちをし、注文が終わると当然な顔をしてチップを要求するという、これまた発展途上国的な体験をしたものです。
 果たしてこの年・・・すなわち1989年のシンガポールの一人あたりのGDPはいくらだったのか改めて調べてみると、1万0394USドルだったそうです。前年の1988年はまだ8914USドルと1万ドルに届いていませんでした。これでは発展途上国的な光景が至るところで見られても不思議ではありません。このときの日本の一人あたりのGDPは2万4813USドル。日本人の私は、シンガポーリアンより2倍以上も豊かな国の国民でした。
 ところが日本の一人あたりのGDPは、2022年には3万4017USドルでG7の中で最低に沈んでいます。これは円安による落ち込みだと解説されていますが、これまでの最高は2012年の4万8603USドル。2014年以降の日本の一人あたりのGDPは4万USドル前後で推移しています。
 その一方、シンガポールの一人あたりのGDPは2011年に5万USドルを超え、2017年には6万USドルを超え、2022年には8万2807USドルまで伸びています。まぁシンガポールは都市国家なので日本との単純比較はできないでしょうし、為替の影響も無視できないものの、私のような一般庶民ベースでは、シンガポーリアンは日本人より5割がた豊かに暮らしているのではないでしょうか。これはシンガポーリアンが日本人より5割がた勤勉に働いた結果ではないでしょう。私を含めて多くの日本人は、シンガポーリアンと同等に懸命に働いてきましたが、それでもこれだけ差がついてしまいました。
 この一人あたりのGDPですが、1989年の日本は世界第9位で、上位8か国はモナコ、リヒテンシュタイン、ケイマン諸島、バミューダ、スイス 、サンマリノ、ルクセンブルク、スウェーデンとなっています。これに対し2022年の日本は世界第31位。G7はもちろんのこと、ずいぶんいろいろな国に追い抜かれたものです。私を含めた日本人が誰しも仕事をさぼっていたわけでもないんだけどなぁ・・・と、愚痴りたくもなります。
 でも私と同世代の、2024年ではすでに60歳台となっている昭和30年代半ば生まれであれば、統計的には「ていたらくぶり」を如実に示す日本経済の現状を、多かれ少なかれ予測できていたのではないでしょうか。なぜならば1990年代以降の日本では、世間の風潮が経済成長、景気拡大を真剣に求めていなかったことを薄々と感じていたはずだからです。

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