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朝井リョウ『どうしても生きてる』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2019.10.19 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

何らかの生きづらさを抱えている私たちが、それでも生きている理由は……と問われたとしたら……。答えなど出せないそんな問いを前にした時、結局私たちは、「どうしても生きてる」としか言うことができないのかもしれません。

そんな明確な答えの出せないところで生きている6つの人生からなった短編集です。

「健やかな論理」
〇〇だから××と簡単には説明できず、本人すらわからない積もり続けている何かに生死を左右される私たち。しかし一方で、確かに存在している生きる欲求。

「流転」
丸裸に自分をさらけ出せる者への羨望や嫉妬を抱え、自分に嘘をつきながら生きていく人生。そんな中でも手放すことのできない自分の変わる可能性。

「七分二十四秒目へ」
どんなに絶望的な状況にあっても、意味ないものの中にも見つけていく生きるよすが。

「風が吹いたとて」
ルールを破ることでしか成立しない社会の現実。飲み込まれそうになりながらも、それでも生きなければならない明日を受け止める強さ。

「そんなの痛いに決まってる」
私を離れ、誰でもない存在としてあることの必要性。我慢せずに思ったことをそのまま言える時間、自己を解放できる場所を持ちたいと願う悲しき人間。

「籤」
ハズレクジだけを引くような人生にあって、ハズレを嘆くのではなく受け止め、前に進んでいこうとする意志。ハズレをアタリにできるのは、自分だけなのかもしれない。

確かに「読み心地がいいものばかりではない」短編集ですが、「どうしても生き」るしかない私たちの可能性を信じたい作者の眼差しを感じずにいられない作品でした。