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東京芸術中学に通った話(4)

講義の記録 その3

山谷佑介さん、今津景さんのギャラリー展示見学
それぞれ、YUKATSURUNO GALLERYとANOMALYで開催されており、どちらも天王洲のTERADA Art Complex内である。天王洲といえばアートのまち、せっかくだから画材屋などにも立ち寄りつつ待ち合わせ場所へ向かった。途中、某展覧会会場前には入場待ちの大行列ができていて、それを横目に通り過ぎて橋を渡りかけた時、一人で歩いている小学校低学年くらいの男の子とすれ違った。彼は大行列をちらりと見て、「これには何の価値もないんだ!」と叫んで歩き去っていった。私たち家族は唖然として顔を見合わせ、称賛した。潮風が吹き抜けるいい街だ。ギャラリーでは山谷さんから直接お話をお伺いしたり、今津さんは不在のためギャラリーの方から解説していただいたりした。美術館とは全く違う、日本の最先端のアートシーンに触れ、少しお金の香りがする空気感を肌で感じたことだろう。

アーティストの会田誠さん
会田さんのオリジナル美術史年表が配られ、歴史を辿った。美術史は講師や作者によってかなり視点が異なるため、何回辿っても面白いなあと思える。これまでの美術史があっての今、現在地を見極めて作品を作ることは重要で、それを踏まえて提示されたテーマに沿った絵画を描くという課題が出た。絵には非常に自信のない娘である。娘によると、中学生になって初めて世界に他人が出現したそうで、以前は思うままに描いていたのに、他人と比較するようになってしまったのだとか。そんなわけで凄腕絵師たち(娘にはそう見えている)の前で発表できる絵は描けず、かわりに曲を作って課題発表としていた。それでも絵を描くことは大好きで、時間があれば人物の肉体の構造を熱心に観察して描いていたりするので、いつか会田さんに課題提出ができる日がくればいいなあと思う。

会田誠さん作品。段ボールの「東京城」。
ブルーシートのほう。外苑前のいちょう並木入り口両サイドを固める。

アーティストの片山真理さん
片山さんの作品を軸に、カメラの仕組みやフィルムカメラで撮影する意義などに話が及んだ。事前に、AKIO NAGASAWA GALLERY GINZA で開催されていた片山真理さんの個展「leave-taking」をおすすめされており、娘も鑑賞済みで受講したため講義の内容もより深く浸透しただろう。課題は「光と時間の関係性」を表現する。手法は写真、映像、エッセイ等自由だ。課題発表まで1か月以上ある。娘は写真が結構好きなようでいて、スマホ撮影しか経験していない。そこで、いい機会だからと夫が少しずつカメラの仕組みや撮影の方法などを教え始め、娘と2人で2月の寒い夜に歩道橋に上って撮影実験を行ったりしていた。その傍で私は、関連しそうな本を数冊読んで写真の世界を覗いていた。課題提出も迫ったある日の午後、娘に撮影しに行こうと誘われた。カメラの使い方がわからない私と2人で行くのは初めてである。夫のカメラを首にぶら下げた娘と一緒に、マンションの裏の滑り台と砂場くらいしかないしょぼい児童公園に出掛けた。私は滑り台を滑ったり、走ったり、縫いぐるみを投げたり、水道の蛇口をひねったりして、娘が覚えたばかりの長時間露光などの実験に協力した。フォームがきれいに見えるという理由で、上着を脱いで走らされて寒かった。途中で親子がシャボン玉で遊びはじめた。娘は、撮影したいのに声をかける勇気もない。仕方がないからすぐそこのスーパーに行って98円のシャボン玉セットを買い、今度はシャボン玉の撮影実験である。最初は普通に撮っていたのだが、何かのタイミングで長時間露光で撮ると面白いことを発見した娘、そこからさらに撮影。私は冷え切った体でシャボン玉を吹き続けた。そして課題提出当日の朝、大体撮れていたからもういいのかと思っていたけど、往々にして最初に撮った写真が一番出来がいいと言いながら、もう一度公園で撮影に臨むこととなった。再びシャボン玉セットを買って私が吹き、新たに鳩や猫を撮っていた。トータルで150枚以上撮り、結局2日目の撮影も生かされて2点セットで提出することになった。半径160メートル以内、経費196円。菅付さんがいつかの講義で仰った通り、お金をかけなくても表現はできるし、勝手知ったる自分の親密な生活圏でこそ撮れる写真があるのだと感じた。課題発表当日、ほかの人の作品も気になって楽しみだと娘は言った。芸中に行く前に初めて楽しみと言ったので、それはそれは驚いた。卒業を目前にしてやっとである。

ピカチュウを使って撮影実験。被写体は好きな子から。
虫眼鏡を使ってカメラの仕組みを学ぶ。


インテリアデザイナーの片山正通さん
片山さんのオフィス「Wonderwall」にて行われた課題なしの校外学習。デザイナーになった経緯とこれまで手掛けたお仕事を具体的なエピソードを交えてご紹介くださった。オープンで痛快な語り口調に皆が引き込まれ、あっという間に時間が経過、気づいたらしっかり夜になっていた。明らかに時間オーバーしているにも関わらず、生徒と保護者に分かれてオフィス内を上から下まで丁寧に案内してくださり、収集されているアートコレクションなどを見学させて頂いた。この場所からクリエイションが生まれているのだ。片山さんとスタッフさんの熱く惜しみない姿勢に、ああ、未来を創っている方々なんだなあと感服。片山さん、「エビフライから食べる」は我が家の合い言葉になりました。

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作品集と、特別講義対談「instigator」。


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