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【読書感想文】年末年始、野球好きにオススメの新刊『BASEBALL アスリートたちの限界突破』

年末年始、野球好きにオススメの新刊

日本シリーズの熱戦も過ぎ去り、ストーブリーグの年末年始。こういうときこそ、ふだんは時間が確保できない読書を楽しみたいですよね。球音途絶えて心に穴が空いている野球好きのぼくが、この冬にオススメの1冊をご紹介します。

野球で人生を学ぶ

『BASEBALL アスリートたちの限界突破』。副題に「野球で人生を学ぶ」と銘打たれた288ページの単行本になります。12月3日に発売されました。

著者は氏原英明さん。44歳のスポーツ・ジャーナリストです。

育成年代からプロ野球、MLBまでを対象に甲子園取材歴は19年連続。『Number』をはじめ各種媒体に寄稿。主な著書は『甲子園という病』『甲子園は通過点です』です。

マー君が表紙を飾った『Number1023号──田中将大とパ・リーグ熱投伝説』。楽天ファンには読んだことのある方もいると思いますが、あの号の岸孝之投手のインタビュー記事を担当したのが氏原さんでした。

ゴミ拾いより《もっと伝えるべき大切なもの》

ところで今年は大谷翔平選手が世界を席巻。ぼくのオカンみたいな野球との接点が薄い層の胸をも焦がし、鬱屈した世の中を明るく照らしました。ワイドショーなど報道も過熱の一途をたどり、ゴミ拾いに象徴される美談がことさら増殖され、連日お茶の間を埋め尽くしました。

 本書の著者・氏原さんは、こういう状況に警鐘を鳴らします。

もちろんゴミ拾いは大事な行為とした上で、《もっと伝えるべき大切なもの》がある。それが伝わってない現実へのもどかしさに突き動かされ、本書を書くに至りました。

 音声配信アプリstand.fmで喋った氏原さんの言葉がリアルなので、引用します。

今、世の中でプロ野球選手のあれが凄い!これが凄い!これは感動だ!っていうのが、レベルが低いと思うんですよね。それは報道のレベルが低いからなんですよ。

本当はアスリートたちって、もっともっと深いし、もっともっとすごい人たちだと思うんですよね。

なぜなら彼らは《成功体験の最上級》にいるわけですよ。それは才能でなったものじゃなくて、《成功するためには何が必要か》彼ら自身が見出したからこそ、あの位置にいるわけです。天才ばかりがいるわけじゃないですよね。

そこが全然伝わってない。これを書くことによって、みんなに伝わればいいなと思うんですよね」

stand.fm12/3放送より

 最上級の成功体験を手中にしたプロ野球選手による《限界突破の思考法》。本書には直接取材でわかった大谷選手をはじめ、下記37人の選手・指導者の成功法則が所収されています。

イチロー 大谷翔平 黒田博樹 松坂大輔 山本昌 田口壮 前田健太 筒香嘉智 菊池雄星 吉井理人 秋山翔吾 鈴木誠也 吉田正尚 浅村栄斗 山崎康晃 栗山巧 山田哲人 大野雄大 田澤純一 荻野貴司 中村剛也 藤浪晋太郎 石川柊太 中村奨吾 井口資仁 山口鉄也 今江敏晃 ドン・マッティングリー 高津臣吾 辻発彦 栗山英樹 アレックス・ラミレス 白井一幸 清水雅治 大渕隆 西谷浩一 荒井直樹

『BASEBALL アスリートたちの限界突破』より

普遍性があり、ものすごくシンプル

ハッと気づかされたのは、彼らのマインドセットは、生きがいを模索しながら不透明な社会を生きることを余儀なくされているぼくたち、あなたたちの一助になるものがじつに多いこと。

超人・偉人のTipsは彼ら選ばれし者だけの特有メソッドではなく、普遍性を帯びているものも多く、ぼくらの日々の営みにも落とし込むことのできるほど、じつはものすごくシンプルである事実に驚かされました。

黒田博樹「プレッシャーは作るのも消すのも自分」

たとえば、広島やヤンキースで活躍した黒田博樹投手を例にあげましょう。「プレッシャーは作るのも消すのも自分」。重要な試合でいつも好投する黒田さんに、氏原さんがその秘訣を訊くと、黒田さんはそう答えて、以下のように言葉を紡ぎました。

「当然、試合で投げる時はプレッシャーを感じるけど、感じ方も自分でコントロールできると思うし、しないといけない。考え方一つだと思うんです。プレッシャーを作るのも、自分の考え方一つで、大きくなったり、小さくなったりする。大きなプレッシャーを感じるけど、それを自分でどううまくエネルギーにしていくか、ゲームに対するモチベーションに変えていくのが大事だと思う」

『BASEBALL アスリートたちの限界突破』41頁より

 このくだりを読んだとき、僕の脳裏には『2死満塁』が浮かびました。つねづね思うのですが、2死満塁はさほどピンチじゃないんです。中継ではさもピンチであるかのように実況されますが、じつは野球統計学では以下のとおり、無死1塁のほうが点が入りやすい。 

無死1塁・・・得点確率40.6%、得点期待値0.821
2死満塁・・・得点確率31.4%、得点期待値0.740

鳥越規央、データスタジアム野球事業部『勝てる野球の統計学』5頁7頁より

 もちろん一打出れば2点を失いかねない局面ですよ。長打なら走者一掃もあるでしょう。でもアウト1個で攻守交代。満塁だからどの塁でも封殺が可能です。

そのため、野球観戦するときは『2死満塁』を1つのキーポイントにして観ることが多いんですが、自分の考え方一つで、プレッシャーが大きくなったり、小さくなったりする場面は、ぼくらの日常にもありえる話だなと感じました。

こっちは「どうしよう・・・」と極度に緊張しているのに、周囲は全く意に介していない場面ありますよね。個人的体験では二十歳そこそこで東京・青山のブルーノートに初めてライブを観に行ったときでした。しかも西アフリカ歌手サリフ・ケイタの来日公演。周りの友達は誰も興味ないから、1人で行くことになったんです。

当時、ぼくの中ではブルーノートは高級ジャズレストランというイメージ。足を踏み入れたことのないセレブの世界でした。だから、ドレスコードはどうなっているのか?テーブルマナーは?とか、おひとり様は敬遠されるのでは?とか、行く前から色々考えちゃってテンパり、正直、就職面接より緊張しました。

でも、東京の人は基本、他人に興味がない。ましてやステージに視線を注ぐコンサートの場です。隣の若造がどういう服装なのか覚えていない。今から思えば、まさに自分の考え方一つで、プレッシャーが大きくなった場面だったと思います。

1選手7頁前後。最初に当該選手の金言が扉で紹介され、残り6頁でエピソード、マインドセットが紹介されている。

田口壮の異文化理解論、田澤ルール渦中の真意

黒田さんのエピソードが所収されている『アスリートたちの限界突破』、ほかに印象に残ったのは、現オリックス・コーチの田口壮さんがMLB挑戦で渡米したときの話。これが絶好の異文化理解論に昇華しています。

MLB通算388登板の田澤純一投手がなぜNPBではなくMLBを選択したのか? 当時めちゃくちゃ叩かれましたが、彼の真意も綴られています。納得できる部分が多くその判断基準なら、ぼくが田澤投手でもMLBを選んでいたかもと思わずにはいられない内容でした。

CSがない昨年、チームがVから遠のくなか中日の大野雄大投手が10完投と遮二無二腕を振り続けたのは何故だったか?その思いも答え合わせすることができる1冊にもなってます。

本書は288ページとボリューム大ですが、そのイメージが全然ないのも特徴。1選手7ページ前後と簡潔。気になる選手から読んでもOK、1日3~4選手ずつ読み進めるのも良し。「ですます調」のため、まるで氏原さんのstand.fm、Voicyを聞いてる感覚になってくるのです。

うじさんに注目だ!

最後に。氏原さん面白い人ですよ!

キン肉マン・ビックリマンチョコ・ドラクエ3・観月ありさ・里崎智也世代。叩き上げのスキルで生き抜いてきたベテランながら、読者との距離がとっても近い。

Twitterはもちろんのこと、Youtubestand.fmVoicy、17LIVEで精力的に発信している野球ライターさん、他に知りません。それら媒体でよくliveもします。17LIVEで『変なおじさん』に加工しても、笑ってくれる度量の持ち主です。

高校野球の取材経験が豊富のため、プロ野球選手のあの頃をぼくらリスナーに惜しげもなく披露してくれます。学びが多いのでぜひ!【終】


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