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【これが愛というのなら】望との出会い


名前の由来


ミイコさんに、「私の親友」の話も読んでみたいと言っていただき、今日からシリーズで上げて行こうと思う。

私には、13歳年下で、来年知り合って20年の親友がいる。

noteでは「親友」で通している。

「そこに愛がなくてもよりそって生きているふたりの道」では「佳子」と書いてるが、当然本名ではない。

「すずめ」という名前でブログをしていた事もあるのだが、それでは呼びにくい。

「佳子」も、本当は彼女のイメージではないので、ここで新しい名前をつけようと思う。

一晩考えて、出てきたのは「望」。

彼女は一文字名前だし、纏まり方が、本名の漢字に似ている。

そして、彼女には、いつでも平和で、優しさに満ちた世界で過ごして欲しい。

そんな「希望」を込めて。

「小さな子供」


望と出会ったのは彼女が18歳、3月のことだった。

高卒で、私の勤めていた病院に働くため、上司に挨拶をしに来たのだ。

まだ、紙のカルテだった頃。

「医事課」出入り口は、巨大なカルテを収めるための棚に窓を潰されて、暗い。

そこに、所在なさそうな様子で入ってきて

「すみません」

と声をかけている。

オフィスカジュアルを意識したのだろう、シャツに黒いパンツは似合っていない。

私はそのとき仕事で殺気だっていて、対応は出来なかったが、望が上司と話す様子は見て取れた。

私も158センチと、特に背は高くないが、望はそれよりかなり低い。

そして、折れそうなほど細かった。

顎の尖った小さな顔は、男の人なら片手で包めそうだ。

小さな顔には、こぼれそうな大きな目があった。

黒目がちの、濡れたような瞳。

「小さな子供みたいな子だな」

第一印象は、それだけだった。

悪意


望は、まずカルテの搬送がかりに配属になった。

私は最初から会計担当として職に就いたので、カルテの搬送がかりになったことがない。

重い紙のカルテを台車を使って広い総合病院内を回り配り、診察後は回収する。

午前中はどの診療科も忙しくて苛立っているので、思いもかけない罵詈雑言を受けることもあるようだ。

「医療事務の仕事じゃない」

そんなことを言って辞める人も多い係だった。

会計担当や、受付窓口担当は、望の若く、頼りなさそうな幼い見かけから

「すぐ辞めるよ」

と陰口のようなことを言っている人もいた。

私はカルテ搬送係のリーダーと公私ともに仲がよかったので、望の話はよく聞いていた。

「ガッツあるわよ、あの子」

望の母親くらいの年の離れたリーダーは目を細める。

「とってもいい子」

望が働き出して半年、私は上司から

「あの子に受付窓口の仕事を教えて」

そう言われた。

私は受付窓口も出来るが、会計担当である。

「他に適任がいるのでは?」

「まあ…なぎさんのほうが適任かと思ったんだよ」

受付窓口のリーダーは、医事課で一番発言力のある人。

望の悪口をよく言っていた。

彼女が嫌がったのだろう。

受付窓口のリーダーは、私の事も嫌っている。

同期なのだが、ほとんど話したこともない。

私は上司の指示に従った。

「落ち着いて」


初日の月曜日、望は緊張して、丸い頬を強ばらせていた。

「2,3日は私の後ろで見ていて。患者さんや看護師から声をかけられても、担当に変わるのでお待ちくださいって言えばいいから」

「はい」

ノートを胸に抱いて、真面目な顔でうなずく。

月曜日の総合病院など、受付窓口は数百人単位の患者さんが訪れる。

私の勤めていた総合病院では、その受付をたった一人の受付窓口担当と、午前中だけ総合看護師長がさばいていく。

初診のカルテ作成が必要な人は、カルテ作成担当に、保険証など預かって回す。

再診の方は、再診用の機械の案内。

医療保険の書類作成の受付、電話対応、院内案内。

診療する科の相談、「待ち時間が長い」というクレーム、案内した科から「この人うちじゃ見れない」という罵声。

そういうことをやっていく私を、望はびっくりしたような目で見る。

「慣れたら、誰でも出来るから」

出来なくて、医師から苦情があって外された人もいるけれど。

私の作業中に、望が患者さんに声をかけられ、固まっているのに気がつく。

「落ち着いて、『お掛けになってお待ちください』、そう言って待ってもらって」

「はい!」

望は頑張った。

頑張って

「座ってください」

と言っていた。

「『座って』じゃ失礼だよ。『お掛けになってお待ちください』ね」

「はい!」

何日経っても、望は

「座って待ってください」

と言っている。

「ノートに、一番太いペンで、『慌てず騒がず、お掛けになってお待ちください』って書きなさい」

「はい!」

私は気が長い方でないし、イライラして言ったと思う。

しかし、望はどこまでも素直だった。

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