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おまじないを込めて、嘘をついた。

札幌にいた分だけ、キャンプ道具も着替えも積んだフル装備の自転車にまたがったときの、よろけ方が大きい。つま先にぐっと力を入れて踏ん張らないとそのまま転んでしまいそうだ。サムズバイクの奈美さん、高田さんに見送ってもらい出発した。

雲は少しあるけど青空が広がっている。気温も暑すぎずという感じで、スピードにのってくると体に当たる風が心地よい。交通量が多い国道なので、いつもよりいくぶん緊張しながら歩道と道路の間の、白い線のうえをなぞるように自転車を走らせる。

「日本一周かい!」と釣りのベストのようなのを着たおじさん。しばらく立ち話をしていた。ああだこうだと話しながら、確か政治の話だったかお金の話しだったかをおじさんに問われ、話しはじめたときにおじさんが僕の背中を見てひとこと。

「あ!お迎えだ!じゃあねがんばってね!」

おじさんは病院への送迎バスに乗り込み、こちらを振り返ること無く去っていった。おじさんのよい退屈しのぎになれたようだ。

遠くの先に向けてまっすぐに伸びる道路には、でっかいトラクターが走っていたりする。左右に広がる景色はどこまでも緑で、野菜が植わっていたり、牛が飼われていたり、道端にはなんというのだろうか、黄色い花がひとまとまりになって割いていて、ときどき紫の花がコントラストになっている。

その景色を見ているとなんだか2年前のニュージーランドの風景が重なった。どこまでも広がる丘に点々とゴマのように散らばる牛たちの風景だ。違いは道路が吹き溜まりにならないように、道路わきに上下逆のブラインドのようにたたまれている雪よけぐらいだろうか。

途中一度だけ、ザッと雨に降られた。真っ直ぐに伸びる道路には建物もないので、葉が繁る大きな木の下でやりすごした。そういえば、オーストラリアの雨雲は足が速く、あっという間に追いつかれてしまい全身びしょ濡れになりながら走っていたことを思い出していた。こうして触れる天候や景色も、自分のどこかに眠る記憶を引っ張ってくるようだ。

教えてもらっていた小学校を抜けてしばらく行くと、遠くで手を振る友人の姿が見えた。今日は小学生の時ともに太平洋から日本海までを歩く冒険旅をともにしたことのあるリョータのお家にお世話になる。迎えてくれたのはその母ちゃん。あれからずっと家族で僕の旅も見守ってもらっていて仲良しだ。

「まさやん今日は盆踊りだよ!向こうでコーヒーを淹れよう!」
なんておもしろそうなお誘いだろうか、いまは高校生になったリョータが帰ってきたタイミングで、みんなで自転車で出かけた。

さっきまで低く垂れ込めた雲から光が差した。いまでも若い地元の相撲チャンピオンをとったこともあるリョータの母ちゃんは息子に勝負を挑むように先頭を引っ張り走っていく。負けずにペダルを踏み込むリョータ。自分の疲れも忘れてその親子のほほえましいやりとりに心が満たされた。


盆踊り会場へ到着。

さっそく集まってきたのはちびっ子たち。
よーしやるか!と水くみをお願いし、お店の黒板を書いてもらっているうちに日が沈んで祭りがはじまった。

男の子たちは少しやって、わーっと走り去っていったけれど、最後まで手伝ってくれていた女の子は、お父さんが帰ってくる車を見つけると走っていき、しばらくしたらお父さんを連れて戻ってきた。

「パパ!ねえ!コーヒーだよ!私も手伝ってるの!」

「じゃあ一杯ください」とお父さん。いいとこ見せようと、ミルを回す手元をひとつも見つめずお父さんばっかり見つめる彼女。それをそばで見ているだけでなんだか心にあったかいものが満たされているような感覚になる。お父さんと一緒に帰ったそのあとも、ちょいちょい様子を見に来ては「売れてる?」とちょっと心配そうな女の子。夜の夏祭りにコーヒーだ。数えるぐらいしか淹れてないけれど「おかげでたくさん売れたよ。ありがとう」と送り出してあげた。


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