マジョの信用問題

魔女と果たして信用が結べるものか?

魔女の『魔』とは、ほとんどの場合では、性悪だとか悪魔だとかを指すのではない。魔法を起こす者だから、魔なる女、そうしただけの意味であった。

しかしながら、

「魔女さま、どうか私たちの妹をお救いください。人魚姫に戻してください。人魚姫は、なにもわかってないのです。陸の人間に恋することの無意味さも、無謀も、失恋も、なにも知らないだけだったのです」

「魔法はタダじゃないんだ」

魔女の魔法は、それに見合う代償を差し出してこそ、成立する。こたびの依頼びとたちは己の髪を切って差し出した。

「コレなら、せいぜい、そうだな。魔法の短剣を授けよう。命を差し出すのは、人魚の末娘が恋した男のほうだ」

ああっ……。嘆きの声が漏れた。姉たちのなかには泣き出す者も。

「かわいそうな人魚姫」
「私たちの妹には、そんなこと、できない」

「やるしかないのさ」
魔女は独り言でうなずき、この世の真理をくちにした。「それが世の中ってもんだ」

「いいか。誰を信じるかどうか、すべては運と相手によるもんだ。アンタら姉が信じなかろうが人魚の末娘は恋が叶うッて信じてるんだよ。今になってもな。健気で憐れでどうしようもない。それに、アンタらが終わり方ってものを教えてやる、それも親切だろう? あたしゃ親切であの小娘を人間にしてやった。その後のことは、あの娘の導き出した結果だ。あの娘は今も王子が結婚を取りやめて自分を振り向くと信じてる。それだけで、面白いな。親切をした甲斐があった。さぁ、アンタらの親切と愛情を末娘はどう受け止めるかね。あの小娘は、普通じゃないんだよ。そんな相手を信用するなんざ時間の無駄と思うがな」

「それでも」
「大切な妹だわ」

魔女からの問いかけに、人魚姫の姉たちは一丸になって答えた。家族であって愛情があるからだ。

当の人魚姫は、まだ、魔女の言うとおりに王子様に恋をしていた。見果てぬ夢を見るように。
信頼できないとわかってる相手を、信じるように。
目を閉じても信じていた。

結果は、ご存知のとおりだった。魔女の思うとおりだった。人魚の末娘は常識を知らず、恋だけを信じて、その身を泡にして王子には魔法の短剣を突き立てず、己が死ぬ道を選んだ。

泣きくれる姉たち。信じちゃいけないものを信じるから……、と、魔女はそのときだけ、同情した。

魔女にだって、身に覚えがあるからだ。
なにせ『魔』女であるから。


END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。