漂白の海

白い海にどまんなか、マーメイドは満足してぷかぷか揺られる。誰にも邪魔されない。安全な海をようやく、手に入れた。

永い、時間はかかった。

命が尽きるかもとすら思える時間が過ぎた。
しかし、今や静かだ。

海面は白く染まってかつての海ではない。生き残っているものはマーメイドくらい。大陸や地表ももはや、遥か下へと落ちた。

海面はずっと高くなって、月にまで手が届きそうな夜が来るたび、月にときめいた。

マーメイドは月に恋をしてやがてソラにゆくのだ、こうなったからには、次なる相手は月のうえだ。あそこにまで海を届かせたい。

氷河はすべて溶けた。
大陸はすべて沈んだ。
海面は濁ってすべてを飲んで、海の変化は激しくてマーメイドのほかはいない。

けれど、生き残ってまだ命があるからこそ、マーメイドは決して諦めない。

「あそこにはなにがあるのか」

まだほんの少し遠い、ほんの少しだけ、遠いまばゆい月からの反射を浴びながら、マーメイドは夢を描いてたゆたう。

どうやって、海面を、界面を上げるか。

それは、とても楽しい、次なる侵略の目標と計画と手段である。


END.

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