不死身の肉を持つお姫さまに会う為に?

人魚姫は不死身の肉を持つとされている。人魚の肉を食うと不老不死になれるという。しかし、矛盾がある。致命的なものだ。

不死身の肉を持つ人魚姫。

どうやったら、殺せるのですか!

釜茹でにしたところで、首を落としたところで、彼女たちは数分のちには再生したり治っていたり接合できていたりする。
不死身の肉を食いたい、それより先に、彼女らを殺す方法を見つけ出すのが急がれる。なにせ不死身の化身、死なずの化け物なのだ。不死身の肉伝説を持つ生きものが、その肉に呼吸と血を通している生きものが、焼いたり煮たり斬ったりで死ぬわけがない!

そこで、男はアンデルセンの童話を研究した。ファンタジックな恋愛譚とみられるが、これはもしかすると人魚姫を殺すメッセージでは!?

その男はそういうわけだ。人魚姫という嫁探しをはじめた。人魚姫に自分に恋してもらうため、ダイエット、筋肉トレーニング、美容、あらゆるものを試した。自分磨きである。その男にはやがて女が殺到するようになった。その男は、やがて、そのうちの人間の女から、本当に目が合っただけで肉体がうずくほど、心を奪われる女性と出逢った。

男と女は結婚をした。恋愛結婚。年の差があり女のほうが10ほど上だったため、悪いうわさはたった。女はめげやすくてか弱いから、身を引こうとした。それを引き止めて引き止めて、ようやっと実現した結婚生活であった。

ハネムーンの前日、海が好きな妻のために、男は世界旅行の船を下見にでた。

どす黒くまっくらな海から、声がした。

「あなた、とてもイイ恋してるのね。羨ましい。ねぇ、あたしに乗り換えてよ……ずっと一途に愛してあげる。心のそこから。あなたのためなら命だって惜しまない。ねぇ、あたしに恋をしない? あなたなら、あたし、恋しちゃいそう……素敵な旦那さん!」

「…………やかましぃわ」

男が、人魚姫と接触できたのは、それが、最初で最後である。

ちゃぱ。くらやみは音を立てて、なによバーカバーカ、なんて子どもっぽい悪口が少しだけ聞こえてきた。男はますます確信する。

忘れられて、よかった!!
あんなものに囚われるなんて人生のムダ、そのものだ、と。


END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。